×鳴門
「ん!無事に戻ったようだねコウヤ君!」
火影邸、三代目の執務室へ入ったオレを、まず初めに出迎えたのは、ミナトだった。
数日間の任務を終え、オレはようやく、木ノ葉隠れの里に戻ってきた。
おんぶしていたホトギは、ここにつくまでは疲れもあってかぐっすりと眠っていたが、流石に里の喧騒を聞いて目が覚めてしまったらしい。
眠たそうにしながらも、ミナトの言葉の一部を復唱する。
「コウヤ……?」
出迎えてくれるのは嬉しいが、ご丁寧に名前を呼んでくれたものだから、ホトギに本名がバレてしまったのは、少しいただけない。
やってしまったと、諸に顔に出している馬鹿ミナトを見て、ため息を一つ。
まだ面は被ったままだから、顔バレはしてないし、まあ名前だけなら問題はない、はずだ。
「ただいまミナト。と、任務達成したぜ、火影サマ」
「流石はお主じゃな。毎度苛酷な任務ばかり頼んでしまってすまぬのぉ」
「別に、嫌なときは嫌って言うから、謝られる筋合いなんてない。それと、ホトギはここに置いていくから、後はヨロシク」
「ちょっ、ちょっと!」
ソファーの上に彼女を座らせてから、オレはとっとと扉を開けて出ていこうとした。
今日はアカデミーは休みの日。
だが、今日はオビトと修行の約束をしていた日だ。
ギリギリ間に合ったのは良かったけれど、せめて風呂に入って、……後は拾ってきてしまった子達にも食べ物をあげないと。
なのに、ホトギがオレを呼び止めるものだから、思わず不機嫌になってしまう。
「なに?オレも忙しいんだけど」
「う……煩い!ちょっとだけなんだから我慢しなさいよ!それに、貴方会ったときから、私の事を誰だと思ってるの!?」
「囚われのお姫さま」
「ばっ……!ちょ、勘違いしないで!!好きで捕まったんじゃないんだから!!」
端で見ている二人が慌てているのが面白い。
ちょっと照れてるホトギも面白い。
いかんな、少し大人げが足りなかった。
女の子の話くらい、ちゃんと聞いてあげないと。
「で?」
「あ、その……貴方は私を助けたのだから、褒美を取らせないといけないの!わかる?」
「はあ、褒美ね」
「どう?嬉しいでしょう?」
「……まあ、貰えるものは貰っとくよ」
「反応薄いなぁコウヤ君……」
ミナトにぼやかれた。
別に良いじゃねぇか。
それに、何がもらえるかもわからないんだから、まだ喜ぶもなにもないだろう。
「しかし姫様、我々は大名様より報酬を受け取っております。気を使っていただかなくても」
「私は何も渡してない……。助けてもらったのは私で、助けたのはこの人よ。なのに、私が何もしないで、この人が何も受け取らないのはおかしいわ!」
真剣な顔で語ったホトギに、思わず感心した。
こんなに若いのに、ちゃんと考えてるところもあるんだな。
ミナトや火影も納得したらしい。
それ以上は何も言わず、ホトギの言葉を待っている。
「そこまで言ってくださるのなら、慎んで受け取りましょう」
「初めから素直にそう言っていれば良かったのよ」
ちょっと自慢げに胸を張って、頭を下げたオレに、ホトギは褒美の内容を伝えてくれた。
それは……。
「貴方に、土地をあげる」
「……はい?」
「だから土地!私が所有権を持っているのは、木ノ葉から遠くて、火の国の外れで、近くに集落もない荒れた土地しかないけれど、それでも立派な土地よ!それを貴方にあげるって言ってるの!『有効』に使いなさいよ!!」
土地。
しかも、人里から離れていて、ここから遠くて、誰も住んでいない場所。
そんな、『今のオレ』が喉から手が出るほど欲しい場所を、彼女はくれると言う。
拾ったあの子達、彼らの為の、居場所となるかもしれない、『土地』だ。
「……くっ」
「感謝なさい!」
「ぶはっ!ふふはははは!!」
「ひぁっ!?な、何で笑うのよ!」
「コウヤ君?」
別に、面白かった訳じゃない。
ただただ、嬉しかったんだ。
この世界には、小さな子供を拐い、利用するようなクソ野郎もいたけれど、不器用でも、真剣に力を貸してくれる子がいる。
「いつまで笑ってるのよ!」
「ふふっ……ああ、ごめんごめん。ありがとう、姫様からの素敵なご褒美、慎んで頂戴致します」
「い、今さら何を畏まってるのよ……!」
「誠意には誠意で応える。きっと、その土地は有効に使わせてもらう」
彼女の前に跪き、深く頭を下げた。
「あ、あのあの……貴方が望むのなら、私は貴方を側近にすることだって……」
「おっと、そろそろ時間がヤバい。じゃあ火影サマ、ミナト、ホトギ姫さん、オレはここで失礼させてもらいます」
「え!?ま、待ちなさいよ!話はまだ途中なのに!!」
「じゃあなぁ、もう捕まるなよ」
まあ、話を遮ったのはわざとだったのだけれども、顔を真っ赤にして怒る彼女をするりとかわして、オレは火影の部屋を後にした。
その後、土地の譲渡が行われる旨が書かれた文と、ホトギ護衛部隊へのスカウトの文が届けられることになるが、土地の譲渡だけを有り難く受け取り、スカウトは丁重に断らせて頂いた。
代わりに、彼女からの遣いには、招待状を持たせた。
いつか、彼女に貰った土地が整備されたら、是非遊びに来てくれ、という、走り書きのメモのような手紙だったが、彼女はとても喜んでくれたという。
火影邸、三代目の執務室へ入ったオレを、まず初めに出迎えたのは、ミナトだった。
数日間の任務を終え、オレはようやく、木ノ葉隠れの里に戻ってきた。
おんぶしていたホトギは、ここにつくまでは疲れもあってかぐっすりと眠っていたが、流石に里の喧騒を聞いて目が覚めてしまったらしい。
眠たそうにしながらも、ミナトの言葉の一部を復唱する。
「コウヤ……?」
出迎えてくれるのは嬉しいが、ご丁寧に名前を呼んでくれたものだから、ホトギに本名がバレてしまったのは、少しいただけない。
やってしまったと、諸に顔に出している馬鹿ミナトを見て、ため息を一つ。
まだ面は被ったままだから、顔バレはしてないし、まあ名前だけなら問題はない、はずだ。
「ただいまミナト。と、任務達成したぜ、火影サマ」
「流石はお主じゃな。毎度苛酷な任務ばかり頼んでしまってすまぬのぉ」
「別に、嫌なときは嫌って言うから、謝られる筋合いなんてない。それと、ホトギはここに置いていくから、後はヨロシク」
「ちょっ、ちょっと!」
ソファーの上に彼女を座らせてから、オレはとっとと扉を開けて出ていこうとした。
今日はアカデミーは休みの日。
だが、今日はオビトと修行の約束をしていた日だ。
ギリギリ間に合ったのは良かったけれど、せめて風呂に入って、……後は拾ってきてしまった子達にも食べ物をあげないと。
なのに、ホトギがオレを呼び止めるものだから、思わず不機嫌になってしまう。
「なに?オレも忙しいんだけど」
「う……煩い!ちょっとだけなんだから我慢しなさいよ!それに、貴方会ったときから、私の事を誰だと思ってるの!?」
「囚われのお姫さま」
「ばっ……!ちょ、勘違いしないで!!好きで捕まったんじゃないんだから!!」
端で見ている二人が慌てているのが面白い。
ちょっと照れてるホトギも面白い。
いかんな、少し大人げが足りなかった。
女の子の話くらい、ちゃんと聞いてあげないと。
「で?」
「あ、その……貴方は私を助けたのだから、褒美を取らせないといけないの!わかる?」
「はあ、褒美ね」
「どう?嬉しいでしょう?」
「……まあ、貰えるものは貰っとくよ」
「反応薄いなぁコウヤ君……」
ミナトにぼやかれた。
別に良いじゃねぇか。
それに、何がもらえるかもわからないんだから、まだ喜ぶもなにもないだろう。
「しかし姫様、我々は大名様より報酬を受け取っております。気を使っていただかなくても」
「私は何も渡してない……。助けてもらったのは私で、助けたのはこの人よ。なのに、私が何もしないで、この人が何も受け取らないのはおかしいわ!」
真剣な顔で語ったホトギに、思わず感心した。
こんなに若いのに、ちゃんと考えてるところもあるんだな。
ミナトや火影も納得したらしい。
それ以上は何も言わず、ホトギの言葉を待っている。
「そこまで言ってくださるのなら、慎んで受け取りましょう」
「初めから素直にそう言っていれば良かったのよ」
ちょっと自慢げに胸を張って、頭を下げたオレに、ホトギは褒美の内容を伝えてくれた。
それは……。
「貴方に、土地をあげる」
「……はい?」
「だから土地!私が所有権を持っているのは、木ノ葉から遠くて、火の国の外れで、近くに集落もない荒れた土地しかないけれど、それでも立派な土地よ!それを貴方にあげるって言ってるの!『有効』に使いなさいよ!!」
土地。
しかも、人里から離れていて、ここから遠くて、誰も住んでいない場所。
そんな、『今のオレ』が喉から手が出るほど欲しい場所を、彼女はくれると言う。
拾ったあの子達、彼らの為の、居場所となるかもしれない、『土地』だ。
「……くっ」
「感謝なさい!」
「ぶはっ!ふふはははは!!」
「ひぁっ!?な、何で笑うのよ!」
「コウヤ君?」
別に、面白かった訳じゃない。
ただただ、嬉しかったんだ。
この世界には、小さな子供を拐い、利用するようなクソ野郎もいたけれど、不器用でも、真剣に力を貸してくれる子がいる。
「いつまで笑ってるのよ!」
「ふふっ……ああ、ごめんごめん。ありがとう、姫様からの素敵なご褒美、慎んで頂戴致します」
「い、今さら何を畏まってるのよ……!」
「誠意には誠意で応える。きっと、その土地は有効に使わせてもらう」
彼女の前に跪き、深く頭を下げた。
「あ、あのあの……貴方が望むのなら、私は貴方を側近にすることだって……」
「おっと、そろそろ時間がヤバい。じゃあ火影サマ、ミナト、ホトギ姫さん、オレはここで失礼させてもらいます」
「え!?ま、待ちなさいよ!話はまだ途中なのに!!」
「じゃあなぁ、もう捕まるなよ」
まあ、話を遮ったのはわざとだったのだけれども、顔を真っ赤にして怒る彼女をするりとかわして、オレは火影の部屋を後にした。
その後、土地の譲渡が行われる旨が書かれた文と、ホトギ護衛部隊へのスカウトの文が届けられることになるが、土地の譲渡だけを有り難く受け取り、スカウトは丁重に断らせて頂いた。
代わりに、彼女からの遣いには、招待状を持たせた。
いつか、彼女に貰った土地が整備されたら、是非遊びに来てくれ、という、走り書きのメモのような手紙だったが、彼女はとても喜んでくれたという。