×鳴門

霧隠れの里、中心部。
たどり着いたそこは、木ノ葉隠れの里と比べると、静かで、随分と寂しげな空気が広がる場所だった。
フードを目深にかぶり、ふらふらと街を歩く。
子どもが一人で歩いていると不審に思われる可能性もあるため、大きな袋を持って周囲をキョロキョロと見回し、おつかい途中の子どもになりきる。
人の間を縫って歩きながら、里で一番大きな建物を目指す。
小高い丘の上に建ち、白い壁が特徴的な建物の壁には、大きく水という文字が記されている。
恐らくはあれが水影のいる建物なのだろう。
まずはあそこから調べてみるか?
障害が多そうだが、その分情報も多いはず。
ふむ、こういうときこそ、あいつの出番だろう。
「紫紺、頼めるか?」
「む、妖使いが荒いやつだな。仕方がない、見てきてやる」
「うん、ありがと。オレは街を見て回ってるから」
建物の角を曲がったところで、紫紺と別れる。
時間があるなら、このまま上手く街のどこかに住み着いて、ゆっくりと情報収集に励みたいところなのだが、生憎と今回は急を要する案件だ。
「式を放つか……。見付かりやすくなるが、まあ背に腹は変えられねぇな」
ネズミの形をした式神を数匹放つ。
人間、嫌なことは隠しておきたいもんだ。
例えば、地下深くとかに。
ネズミなら地下にも潜りやすい。
ホトギの顔をオレは知らないが、特徴なら聞いている。
さて、何かある前に見付かればいいが……。
道の途中に置いてあったベンチに座り、ふうっと一息をつく。
ふと後ろを向くと、柵を隔てて小川が流れていた。
流石、水の国というだけある。
少しの間考え込み、その小川の中へ魚の形をした式を放り込んだ。
水の国、霧隠れの里なのだから、もしかしたら己の抱える闇を水の中に沈める……なんてこともあったりして。
ほんの思い付きでしかなかったそれが、まさか大当たりを引くとは思わなかったけれども、な。


 * * *


「鮫弥!ホトギとかいうガキはまだ生きとるようだぞ。今のところは無事なようだが、放っておけば何をされるか……。それに場所まではわからなかった……!」
「いや、安心しろ。偶然だが、監禁場所らしきところを見つけたぞぉ」
「本当か!?それなら話は早い!ホトギはいの8番にいると霧の忍が話していた」
紫紺と別れてからほんの数時間。
ホトギの居場所は驚くほど簡単に割れた。
都合が良すぎる……。
こんなに簡単に見付かるもんか?
罠って可能性も、考えておいた方が良いかもしれねぇ。
川の中に放った魚が見付けたのは、深い水中にポツリと佇む鉄の建物だった。
地上から繋がる道はない。
かなり大きいため、恐らくはホトギ以外にも多くの人間が中にいるはずだ。
中に入れるのは、きっと水遁を使える限られたやつだけ。
まずあの建物に入るには、水遁で水を操り、道を作る必要がある。
中にいるのは重要な人質だったり、他国の忍者などの貴重な情報を持つ人間達なのだろう。
他のそれらしい施設には、ホトギはいなかったため、ここに閉じ込められている可能性が高い。
しかし、また新たに式神を放ち、さらに詳しい情報を探るが、これといったものは得られない。
「チッ……かったりぃな。大名や木ノ葉がホトギを取り戻す気がないことがわかって、霧が彼女を殺すまで時間はねぇ。だが幸い、オレとお前には夜の炎がある。つまり、オレ達はホトギの元までたどり着けりゃあ勝ちってことだぁ」
「おいおい、お主無理矢理殴り込む気か!?そりゃあちょっと無茶じゃないか?」
「だが急がねぇと、もう人拐い達を乗せてる馬車も見付かって、霧が警戒を強めちまう頃だぁ。どっちにしろいくしかねぇのさ。覚悟決めろよ、紫紺」
「……ホトギが本当にいるかどうかも、定かではないのだろう?」
「それでも行くしかねぇだろ。女の子をいつまでも、あんなじめじめした暗い場所に閉じ込めておかせるわけにもいかねぇしなぁ」
「……む、まあ良いさ。お主なら何とかするだろうしなぁ」
ため息を吐きながら、それでも紫紺は首を縦に振ってくれた。
罠が仕掛けられている可能性もある。
大量の忍が待ち構えているかもしれない。
しかしオレには先に進むより道はなく、捉えられているホトギにももう時間はない。
「行くぞぉ、紫紺」
「おうともよ、小さな主」
「小さいは余計だこの豆狐」
人気のない場所に潜り込み、火影にもらった面を着けた。
さて、それでは任務、開始といこうか。
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