×鳴門

「……で、何の用?」
「相変わらずふてぶてしいのう、お前は」
「アカデミー中断させられてこっちに来てんだから、ふてぶてしくもならぁ」
不機嫌そうに言ったオレに、3代目火影はなんとも困ったような顔をして、ため息を吐いた。
彼は恐らく、本心ではオレが任務に参加することを快く思ってはいないのだろう。
子どもに血生臭いことをさせるのを嫌う、善人らしい考え方だ。
そしてそんな彼が、オレに何も言わずに仕事をさせているところを見れば、今起こっている戦争がどれ程厳しいものなのかが察せられる。
「何すれば良いですか、火影サマ」
「……ああ、うむ。此度の任務は、敵国の忍里へ潜入し、人を拐ってきてほしいのじゃ」
「……あ゛あ?」
思わず素で答えてしまう。
人拐い……って、たった今、善人だ何だと考えていた人の言葉とはとても思えない。
重要な人物なのか?
それともついにこのジジイも耄碌したか?
「相手は、火の国大名の遠い親戚に当たる人物じゃ」
「……あ゛ー。人質に取られたわけかぁ」
「まあの……。と言っても、大名とはほとんど繋がりはない。大名としては、切って捨ててもまるで構わないのだろうが、国としてはそうもいかんでのう」
ターゲットの正体を知って納得する。
殺されても損になる人物ではないが、見殺しにしたとあっては、国民からの非難は免れない。
助けに行ったという、事実が必要なのだ。
「わかった、助け出してくる」
「……すまんのう。それと、今回のメンバーじゃが……」
フガクと行った初めての任務の後、オレは何度か任務に参加していた。
大体が、護衛や施設の破壊、もしくは情報収集で、相方はいつも、フガクかエンのどちらかだった。
今回も、どちらかと組むのだろうか。
「今回は……一人で動いてもらう。危険な任務じゃ。……受けてくれるかの」
「ふん……まあ、何とかなるだろぉ。受けてやるよ。あ、アカデミーには連絡お願いしても……」
「もちろん、こちらから手配しておこう。すまんのう、コウヤ。怪我なく帰ってこられるように、祈っておるぞ」
「ん゛、ありがとう、火影サマ」
今回は1人。
少し寂しい気もするが、なに、昔を思えば、大したことではない。
何より、帰ってくれば迎えてくれる仲間がいる。
「それと、任務中はこの面を着けてくれるかの」
細かい話を聞いたあと、火影に一つの面を手渡された。
受け取って、それを眺める。
「これは……暗部面、じゃねぇな。なんだか……鬼、のような」
「お主専用の面じゃ。角の折れた鬼の面。どうじゃ、中々せんすがあるじゃろうて」
「……だっせ」
「んな!?」
センスっていう言葉が平仮名みたいな発音なのもあれだし、凹凸の少ない白い面と、片方欠けた小さな角も、何となくダサい、どことなくダサい。
それでもまあ、嫌いでは、ないかもしれない。
「でも、嬉しいな、火影サマ。ありがとう」
「気に食わんなら着けねば良いじゃろうが」
「気に食わないなんて言ってない。何より着けてれば自分じゃ見えねぇから、どんな形かなんて関係ないだろ」
「ふん」
子供のように拗ねて、そっぽを向くジジイ。
誰得だ、誰も得しねぇぞ。
でもその姿がどこかミナトに似てる気がして、ちょっと面白いと思った。
オレは面を着けて膝をつき、恭しく頭を下げる。
「それでは、御意のままに、任務をこなして参りましょう、火影様」
「……すまぬな」
「あなたが謝ることなど、どこにもないのですよ、火影様。……いってきます」
「気を付けてな、コウヤ」
その言葉を受けて、大きく頷いた。
少し悔しげな顔をしながらも、手を振ってオレを送り出す好好爺の存在に、少し気分が高揚した。
いってきます……と、火影には聞こえないくらいの小さな声で囁いたオレは、舜身の術を使って一旦自宅へと戻った。


 * * *


人質として捕らえられている大名の親戚は、名をホトギと言うらしい。
遠い親戚だと言っても、生まれも育ちも高貴な人。
いま、どんな扱いを受けているとしても、普段の扱いと比べて良いものであることは絶対にないだろう。
何より、ホトギはまだ年若い女の子、なのだそうだ。
「早く行った方が良いな……。もう、手遅れかもしれねぇが……」
火影にもらった鬼の面に、首元まである襟と、大きなフードのついた外套を着て、オレは水の国霧隠れの里を目指し、脇目も振らずに走っていた。
一応、装備は万全に整えてあるし、チャクラや妖力を無駄遣いしないように、本来の姿のままで動いてはいる。
しかし、相手は大国水の国。
そして忍里の中でも随一の冷酷さと謳われる血霧の里である。
簡単にはいかないだろうが、とろとろしている暇はない。
木ノ葉を出た日から2日は休みだけれど、その後オレはアカデミーがあるし、何より数日後にはオビトと修行の約束をしている。
水の国には既に入っている。
運良く、霧の炎で見張りを欺くことが出来た。
しかし忍里への侵入は、こうはいかないだろう。
「……あれは、なんだぁ?」
ふと、木の上で足を止めて下を見る。
大きな荷馬車と、物騒な顔で辺りを警戒している男達。
何を運んでいるのか……いや、もしかしてコイツら、霧隠れに向かうんじゃないのか?
……だとしたら、コイツらを使わない手はない。
外にいる男達の数は、見たところ5人程度。
しかし全員、中忍から上忍程度の実力がありそうだ。
ならば、うまく騙して油断させて倒さねぇとな……。
枝から飛び降りて、オレは彼らの進路の先へと向かった。
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