×鳴門

初めての任務が終わって、一週間。
オレは任務を与えられることもなく、特に変わったことのない日々を過ごしていた。
今日はオビトに誘われて、近所の森で修行をすることになっている。
集合時間は9時。
今の時間は9時30分。
オビトの奴は、遅刻している。
あの野郎、自分から誘っておいて何様なのだ……と、愚痴っている時間ももったいないので、とりあえずオレはオレの修行を始める事にした。
しかし、いざ始めようとしたその時、茂みをがさりと揺らして、思わぬ人物が顔を出したのである。

「あ…………お前は!」
「は、はたけカカシ……」

オレが修行に使っていたのは、家からそう遠くない場所にある森の、少し開けた場所。
いつもは誰もいないのに、時間を少しずらしたからだろうか、今日ははたけの野郎とかち合わせてしまったのである。

「なんでお前がここに……」
「オビトと修行の約束してた。……まあ、例によって例のごとく、遅刻されている訳だがぁ」
「ああ……まあ、オビトはね。って、ここはオレの修行場所だぞ。お前らは違う場所でやりなよ」
「はあ?別に修行くらい、同じ場所でしてたって良いだろうがぁ。減るもんでもあるまいしよぉ」

イライラとした様子のはたけに、オレもまた苛つき気味に返す。
いいじゃねぇか、修行が誰かと一緒になっちまっても、できることに変わりはねぇんだからよ。
とにかく、このまま睨み合っていたって、埒が明かない。
オレは奴から視線をそらして、黙って準備を始めた。

「……何してるんだ?」

オレが準備を進めている間、はたけは警戒したように睨み付けていたのだが、少しすると恐る恐る話しかけてきた。
どうやら、警戒よりも好奇心の方が勝ったらしい。
オレはチラリとはたけを見て、再び手元へと視線を戻す。

「掌仙術の修行。まあ、医療忍術の一種だが……、チャクラコントロールの良い修行にもなる」
「はあ?お前、もしかしてチャクラコントロール鍛えるために、医療忍術会得しようとしてるのか!?」
「んなわけねーだろ。チャクラコントロールのためだけに、クソ難しい忍術覚えるバカがいるかよ」

基本、忍術にしろ、ただの学問にしろ、医療の分野というのはとても難しい。
並の努力では、プロになることはできない。
もちろんオレは、あくまで戦闘員なので、そっちの道に進む気はないが、自分の応急手当てができる程度の知識はほしいし、何よりも、後から嫌な思いをすることだけは、したくなかった。

「もし今、できることをしないで、後悔するの、嫌なんだよなぁ」
「え?」
「……母が殺された時、さ。オレにできたのは、敵を殺して、そんで母さんの傷を必死に塞ぐことだけだった」
「……」
「あの時、少しでも医療の知識があったら、母さんを助けられていたかもしれない。助けられなくても、他の人間が来るまで、命を繋ぐことくらいはできていたかもしれない」

いつまで経ってもその後悔は、オレの心に大きなしこりのように残っている。
こうやって修行したところで、その後悔が拭えるなんて思わないが、それでもじっとしてまた後悔するよりは、ずっとマシ。
それに、幸いにも、オレには医療忍術には必須な、チャクラコントロールの才能はあるようだから、やって損することはないだろう。
そんなわけでの、この修行だ。

「まあ、プロになろうとは思わねぇが、それくらいの気持ちでやるつもりだし、やるからには徹底する。それに、怪我治す以前に怪我しなくて済むようにもっともっと強くなる。大事な仲間達も、守れるくらいになぁ」
「大事な仲間……?」
「ああ、オビトとか、ミナトとか、クシナさんとか、火影のジイさんとか、リンとか、エンとか、フガクさんとか、他にも色々……。……お前のことも、守ってやろうか?」
「お前みたいなガキに守られるほど、オレは弱くないよ」
「そうかぁ?ま、そう言うなら良いけどよ」

ククッと笑って、修行に戻る。
はたけの雰囲気も、さっきよりは少し柔らかくなったような気がする。
何だろうな、少しは距離が縮まった、だろうか。
はたけはオレの後ろで、突きの構えを取って、何やら唸っている。
お互いにアドバイスしたり、協力し合うことはなかったが、静かに淡々と、修行は進んでいく。
そして
時計の針が12時を回った頃。

「悪い!!遅れた!なんか道の途中で婆ちゃんが転んでてさ!!」
「その言い訳を聞くのは、これで通算13回目であるわけだがぁ」
「こいつはいつもこんな感じだろ」
「ほ、本当だって!!つーか何でカカシが一緒にいるんだよ!」

オビトはだいぶ遅れてやってきた。
まあ、予測していたことではあったけど、こうも毎回遅刻されると、なんかきちんと時間守ってんのがバカらしくなってくるな……。

「はたけはたまたま同じ場所で修行してただけだぁ。……まあ、ちょうど昼時だし、このまま休憩してから、修行を再開するかぁ」

オビトとはたけを呼んで、近くにあった平らな石の上に、持ってきた昼飯を並べる。
作ってきたのは、大量のおにぎりと、おかずの唐揚げやらだし巻き卵やら。
オビトはたくさん食べてくれるから、オレも作り甲斐がある。
ポットを二つ取り出して、中身をコップに注ぎ、二人の前に並べた。

「こっちがお茶で、こっちが味噌汁なぁ」
「おお……、相変わらず無駄に豪華だ……」
「無駄とか言う奴には唐揚げは渡さねぇぞ」
「なにーっ!?」

オビトとふざけながら、横目でチラリとはたけの様子を窺う。
しげしげと料理を眺めて、どうやら感心しているらしい。

「これ、ナスの味噌汁?」
「ん?……ああ、そうだぜぇ」
「オレも食べて良いの?」
「もちろん、構わねえぜ。どっかのバカが大量に食うから、毎回多めに作ってきてるしなぁ」
「どっかのバカって誰だよ!?」
「お前以外に誰がいるんだぁ?」

怒って暴れるオビトの拳を軽くよけながら、はたけに向かって軽く頷いて、食べるようにと促した。
恐る恐る、コップに口を付け、味噌汁を啜ったはたけは、驚いたように目を見開く。

「う、まい……」
「!そりゃあよかった。まだまだあるから、好きなだけ食ってけよなぁ」

オレの言葉に頷いて、はたけはまた一口味噌汁を飲む。

「これ、誰に作ってもらったんだ?」
「は?それ、オレが作った奴だぜ?」
「えっ!?」
「?オレが、その料理作ったんだけど……」
「お、お前が!!?」

そこまで驚かれるとは……。
まあ、見た目は本当にガキだし、仕方ないっつーか、もうあきらめた方が良いのだろうか……。

「その……一つ、お願いがあるんだけど」
「か!カカシがお願い!?」
「オビトは黙ってろ。で、なんだぁ?オレに出来ることなら、するぜ?」
「……オレに料理、教えてくれない?」

ちょっと恥ずかしそうにそう言ったカカシ。
オレはまあ断る理由もなかったので快諾したのだが、その時のオビトの顔は見物だったな。
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