×鳴門
「こいつに、これ以上里外の人間と関わらせるのは、やめさせてください」
全員が落ち着いた後、フガクさんがそんな発言をした。
彼の目の前には火影がいて、オレは部屋の端にミナトと並んで立っている。
「なぜ、そう思ったんじゃ?」
「任務中、こいつを襲って根の者達が現れました。更にオレを狙ってか、岩隠れも来ました。里外に出すときには、考えて出さなければ周りに危害が及ぶ。事情を知らない者を側に置くことも、危険に繋がると思われます」
「……何があったのか、詳しく話してくれ。それとコウヤ、お主はミナトと少し外に出ていてくれるかの」
「……オレには聞かせてくれないのか?」
「大人同士の話じゃからのう」
「……はい」
例え、中身は大人でも、今のオレはただの子どもでしかない。
これ以上、駄々を捏ねるのも迷惑になるだろうと思って、仕方なくミナトの手を引いて、外に出た。
「ミナト、とりあえず、ただいま」
「ん!お帰り、コウヤ君。初めての任務はどうだった?」
「……鬼崎だって、バレた。やっぱり、嫌われたなぁ」
「……そっか」
繋いでいた手の力が、きゅっと強まった。
フガクは一体、何を話すんだろう。
彼の言ったことについては、オレも思っていた。
任務は嫌いじゃないし、人と話すのだって嫌いじゃない。
それで自分の事を貶されたりするのは嫌だが、だからって皆が皆、オレを嫌う訳じゃないんだから、オレは人と接するのを嫌いにはなれない。
でもオレの持つ力を狙って、多くの敵が来て、そしてオレの周りの人間が巻き込まれることになるのなら、人と接するのは控えた方が良いとは思う。
「フガクさんとは、仲良くなれたかな?」
「……どうだろうなぁ。お世話になったし、いい人だと思うが、少しまだ、壁があるようには、思うかなぁ」
ミナトは、オレの言葉にうんうん、と頷いて、嬉しそうににっかりと笑った。
「あの人は厳格だけど、とても優しい人だと思うよ。コウヤ君も、きっとすぐに、もっと仲良くなれると思うよ、ん!」
ミナトの自信たっぷりの笑顔は、オレみたいに捻くれてる奴でも、元気が出てくる。
オレもにこりと笑って、頷いた。
* * *
火影の執務室で、フガクは二人の気配が消えたのを見て、火影に向けて頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いや、あの子がいては、お前も話しづらいことがあるだろうからな」
「はい」
いつも以上に固い顔をしたフガクに、火影は姿勢を崩すように言う。
少し体勢を崩したフガクは、火影に視線を戻した。
「任務中、根の者が襲ってきました。そして……あの子どもはそれを全て一人で捕らえ、尚且つ奴らの口を割らせた」
「なんじゃと!?」
「岩隠れの者達の攻撃も難なく防ぎました。……体力面に問題はありますが、それも成長と共に、解消されていくでしょう。ここまでが、あなたから極秘に任命されていた任務の報告です」
「うむ、鬼崎コウヤの監視と現状の報告、大いに助かる。……そして、他に気になるところがあったんじゃな?」
「……はい。途中トラブルがあり、彼の正体がバレた時には、平然とした顔をしていました。あのような態度を取られるのに慣れているのかと、そうも思いましたが……」
「何があったんじゃ?」
「……鉄の国で泊まった宿で、あの子どもは、寝ながら泣いていたのです」
そう吐き捨てたフガクの顔は、まるで苦虫でも噛み潰したかのように渋く、火影も衝撃を受けたようにわずかに目を見開く。
続けて、やりきれないという表情で、フガクが話す。
「夢でも見ていたのか、泣きながら謝っていました。ごめんなさい、ごめんなさい、と」
「……あの子は、どんな夢を見ていたのじゃろうな……」
「わかりません。ですが、もしかしたら……母親の事を、夢見ていたのかもしれません」
コウヤの母親は、彼の目の前で死んだ。
愛する人を助けられない苦しみは、目の前で死なせてしまう哀しみは、いくら時が経っても拭えるものではない。
ましてや、彼は子ども。
更に言えば、常日頃から『鬼』と蔑まれ、その心労は、他人にはわかりようもない。
頼れる宛もなく、夢の中で泣く少年に、フガクも深く、心を痛めた様子だった。
「……ダンゾウにも話は通しておこう。あの子の心の事については、時間をかけて、様子を見るより他、ないだろうの」
「はっ、ありがとうございます」
深く頭を下げて、フガクは執務室を出た。
外で待っていたらしいコウヤが、すぐに駆け寄ってきて、問い掛ける。
「何の話、してたんだぁ?」
「……大したことではない」
「ふぅん、そう……」
会話は、そこで途切れる。
少し不機嫌そうに、フガクを見上げていたコウヤだったが、隣にいたミナトに声をかけて、自宅へと帰るために、二人に背を向けた。
「……じゃあ、またなぁ、フガクさん」
「ああ、またな」
自然と出てきた、『また』という言葉。
まさか自分がここまで、彼のような子どもの事を気に入るなんて、思ってもみなかった。
まだ幼い自分の子どもにだって、ここまで過保護になったことはない。
「帰ったら、少し構ってやるか……」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
フガクもまた、家へと帰るために、ミナトに背を向け歩き出したのだった。
全員が落ち着いた後、フガクさんがそんな発言をした。
彼の目の前には火影がいて、オレは部屋の端にミナトと並んで立っている。
「なぜ、そう思ったんじゃ?」
「任務中、こいつを襲って根の者達が現れました。更にオレを狙ってか、岩隠れも来ました。里外に出すときには、考えて出さなければ周りに危害が及ぶ。事情を知らない者を側に置くことも、危険に繋がると思われます」
「……何があったのか、詳しく話してくれ。それとコウヤ、お主はミナトと少し外に出ていてくれるかの」
「……オレには聞かせてくれないのか?」
「大人同士の話じゃからのう」
「……はい」
例え、中身は大人でも、今のオレはただの子どもでしかない。
これ以上、駄々を捏ねるのも迷惑になるだろうと思って、仕方なくミナトの手を引いて、外に出た。
「ミナト、とりあえず、ただいま」
「ん!お帰り、コウヤ君。初めての任務はどうだった?」
「……鬼崎だって、バレた。やっぱり、嫌われたなぁ」
「……そっか」
繋いでいた手の力が、きゅっと強まった。
フガクは一体、何を話すんだろう。
彼の言ったことについては、オレも思っていた。
任務は嫌いじゃないし、人と話すのだって嫌いじゃない。
それで自分の事を貶されたりするのは嫌だが、だからって皆が皆、オレを嫌う訳じゃないんだから、オレは人と接するのを嫌いにはなれない。
でもオレの持つ力を狙って、多くの敵が来て、そしてオレの周りの人間が巻き込まれることになるのなら、人と接するのは控えた方が良いとは思う。
「フガクさんとは、仲良くなれたかな?」
「……どうだろうなぁ。お世話になったし、いい人だと思うが、少しまだ、壁があるようには、思うかなぁ」
ミナトは、オレの言葉にうんうん、と頷いて、嬉しそうににっかりと笑った。
「あの人は厳格だけど、とても優しい人だと思うよ。コウヤ君も、きっとすぐに、もっと仲良くなれると思うよ、ん!」
ミナトの自信たっぷりの笑顔は、オレみたいに捻くれてる奴でも、元気が出てくる。
オレもにこりと笑って、頷いた。
* * *
火影の執務室で、フガクは二人の気配が消えたのを見て、火影に向けて頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いや、あの子がいては、お前も話しづらいことがあるだろうからな」
「はい」
いつも以上に固い顔をしたフガクに、火影は姿勢を崩すように言う。
少し体勢を崩したフガクは、火影に視線を戻した。
「任務中、根の者が襲ってきました。そして……あの子どもはそれを全て一人で捕らえ、尚且つ奴らの口を割らせた」
「なんじゃと!?」
「岩隠れの者達の攻撃も難なく防ぎました。……体力面に問題はありますが、それも成長と共に、解消されていくでしょう。ここまでが、あなたから極秘に任命されていた任務の報告です」
「うむ、鬼崎コウヤの監視と現状の報告、大いに助かる。……そして、他に気になるところがあったんじゃな?」
「……はい。途中トラブルがあり、彼の正体がバレた時には、平然とした顔をしていました。あのような態度を取られるのに慣れているのかと、そうも思いましたが……」
「何があったんじゃ?」
「……鉄の国で泊まった宿で、あの子どもは、寝ながら泣いていたのです」
そう吐き捨てたフガクの顔は、まるで苦虫でも噛み潰したかのように渋く、火影も衝撃を受けたようにわずかに目を見開く。
続けて、やりきれないという表情で、フガクが話す。
「夢でも見ていたのか、泣きながら謝っていました。ごめんなさい、ごめんなさい、と」
「……あの子は、どんな夢を見ていたのじゃろうな……」
「わかりません。ですが、もしかしたら……母親の事を、夢見ていたのかもしれません」
コウヤの母親は、彼の目の前で死んだ。
愛する人を助けられない苦しみは、目の前で死なせてしまう哀しみは、いくら時が経っても拭えるものではない。
ましてや、彼は子ども。
更に言えば、常日頃から『鬼』と蔑まれ、その心労は、他人にはわかりようもない。
頼れる宛もなく、夢の中で泣く少年に、フガクも深く、心を痛めた様子だった。
「……ダンゾウにも話は通しておこう。あの子の心の事については、時間をかけて、様子を見るより他、ないだろうの」
「はっ、ありがとうございます」
深く頭を下げて、フガクは執務室を出た。
外で待っていたらしいコウヤが、すぐに駆け寄ってきて、問い掛ける。
「何の話、してたんだぁ?」
「……大したことではない」
「ふぅん、そう……」
会話は、そこで途切れる。
少し不機嫌そうに、フガクを見上げていたコウヤだったが、隣にいたミナトに声をかけて、自宅へと帰るために、二人に背を向けた。
「……じゃあ、またなぁ、フガクさん」
「ああ、またな」
自然と出てきた、『また』という言葉。
まさか自分がここまで、彼のような子どもの事を気に入るなんて、思ってもみなかった。
まだ幼い自分の子どもにだって、ここまで過保護になったことはない。
「帰ったら、少し構ってやるか……」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
フガクもまた、家へと帰るために、ミナトに背を向け歩き出したのだった。