×鳴門

「ごめん、なさいっ!!」
「……はあ」
「オレの仲間達が失礼なことたくさん言って……ごめんなさい!」
「我々はそんな細かいことは気にしていない」
「それでもやっぱりごめんなさい!」

目の前で土下座する、若い男。
オレとフガクは、お互い困惑した表情になって顔を見合わせている。
宿に向かう道で、オレ達二人を尾けてきていたのは、依頼人である商隊の一人、オレ達を庇ってくれた若い職人の男であった。
ひたすら謝り続ける男に対して、オレ達はどうすればいいのか分からず、困惑するばかりである。

「とりあえず、話になんねぇから顔あげろぉ」
「あ、わるい……。でもオレ、本当に悪かったて思ってて……」
「あんたの気持ちは十分わかった」
「は、はい……」

ようやく落ち着いたらしい男が、土下座の態勢を崩してようやく、オレ達はほっと息を吐いて緊張を解いた。
お互いこんな風に、誰かに謝られることには慣れていないらしい。
このまま朝まで続けられたらどうしようかと思った。
フガクをちらっと見上げると、柄にもなく眉間に深く皺を寄せて、瞳に困惑を露わにしていた。

「気持ちは嬉しいが……そのように謝られても困るのだ」
「あ……やっぱり気持ちは形で示せとか、そういうことですか!?」
「いや、そうじゃなくて……。謝られてもオレ達にはどうしようもないから、困るって言ってんだぁ」

どれだけ謝られても、オレ達には「はあ、そうですか」って言うくらいしかできないわけで。
そもそも何でそこまで必死に謝ってくるのかも理解できず、この謎の膠着状態となっているのである。

「……なんでお前は、そんなに必死になってオレ達に謝るんだぁ?」
「え?」
「オレ達に取り入って、何かしようと企んでいるのか?」
「そ、そんなんじゃありません!!オレはただ、命の恩人のあんた達に、誠意を示したくて……」

そんなことを聞いてしまったのは、忍の性というか、裏社会で染みついた習性というか。
しょんぼりと肩を落とした男を見て、オレは顔を引き攣らせた。
あー……、やっちまった、かな。

「別に、変なこと企んでなんかないんだ。オレはただ、命を助けてくれたあんたらに、このまま謝ることもできずに別れるのが嫌で……」
「フガクさん、オレ何かすごく悪いことをしたような気がする……」
「奇遇だな……オレもだ……」

二人して頭を抱えたい気持ちに駆られて、思わず遠い目をする。
まあ、オレ達みたいな擦れた性格していると、こんな風に思わぬところで人を傷付けたりする事もあるのだ。
ああ、心が痛い……。

「その、疑って悪かったなぁ……」
「あ、いえ、忍の人だもん、疑ってかかるのは当然だってわかってるんで……」
「とにかく、オレ達は何も気にしてはいないから、お前ももう帰った方がいい」
「……でも……」

納得いってなさそうな顔の男に、オレ達もまた困り顔になる。
こういうタイプの人間も、世間にはいるもんなんだな……。
しみじみとそんなことを考えながら、フガクと目配せ。
――どうする?
――どうしような……
結論は出そうにない……。

「オレ……、迷惑でしたか……?」
「あ、いや、そんなことはねぇけどよぉ……」

さらにしょんぼりと肩を縮めた男に、オレはもうお手上げ状態。
どうすればいいんだ……!
そんな時、困り切ったオレ達にヒントをくれたのは、以外にも紫紺だった。

「……おい、クソガキども」
「えっ、うわぁ!狐がしゃべった!?」
「なんだよいきなり?」
「お前ら二人は気にしてないが、そいつは恩を返したいのだろう。ならば、そいつが独立したときに、木ノ葉に再び依頼に来てもらえばいい。そいつは恩を返せるし、お前らは気負うことなく、そいつの気持ちを受け取れるだろう」
「……なるほど、まぁ、悪くはない」
「そ、そんなことで良いんですか……?」
「オレ達はそれだけで十分だぁ」

フガクと二人、深く頷く。
ちょっと迷うような素振りを見せた彼は、少しの間をおいてから、首を縦に振った。

「オレがいつ独立できるかなんてわかんないけど、絶対に一人前になって木ノ葉に行きます!」
「おう、待ってるぜ」
「オレの名前、童子切ヤスツナって言います!!絶対行きますから!依頼に行きますから!」
「分かった分かった」

絶対絶対、と言い続けるヤスツナ……何だかゴツイ名前だな……が、騒いでいるのを宥めるオレとは対照的に、フガクは真剣な顔をして、ヤスツナに問いかけた。

「……ひとつ、聞きたいんだが」
「なんですか!?」
「お前はオレ達の事を聞いた上で、何故そこまでする?普通なら、二度と関わりたいとは思わないだろう」
「……ああ、それ」

ポン、と拳で手のひらを叩いて、ヤスツナは顔をしかめる。

「オレ、伝承とか信じないし。それに特別な力があるからって、狙われるのはその人本人の責任じゃないと思うし。そんな下らんことで差別するの、オレ嫌いなんです」
「そうは言っても、気持ち悪くねぇかぁ?角生えてんだぜ、角」

大きなチャクラを使ったり、人を殺したりすると、鬼崎の血は過剰に反応して、額の角は普段よりも長く伸びてしまう。
自分でも気持ち悪いと思う。
それを気にしないとか、無理だろ。

「んー……、驚いたけど、……気持ち悪いと思わなくもないけど、でも、あんたがオレ達のこと守ってくれたことに変わりはない、と思う」

隠すこともなく気持ち悪いといわれるとは思わなかったが、素直な奴だな。

「お前、変り者だって言われねぇか?」
「そんなことないと思うけど……」
「変り者だと思うがな」
「変り者で、ついでにお人好しだぁ」
「え!?」

ククッ、と、喉で笑う。
フガクの口元も、少し緩んでいるようだった。
今度はヤスツナが困惑して、あわあわとしていたが、オレ達はしばらく笑い続けていた。
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