×鳴門

日が明けて、朝、太陽の光に照らされながら、商隊は歩き出した。
鉄の国は常冬の極寒地。
既に北風に晒されている商人達は皆、分厚い上着やマフラーに身を包んでいる。
かく言うオレは、周りに比べるとちょっと軽装である。
フガクもまた然り。
ぶくぶく着膨れちまって、いざというときに動けないと大変だからなぁ。

「お前さんそんな薄着でよく平気だなぁ」
「まーこう見えても忍者なんで」
「やっぱりスゴいなぁ、忍者ってのは!」

何人かとは親しげに会話を交わしたりして、途中までは順調に進んでいた。
しかし、鉄の国への国境を超える頃、それは突然現れた。

「っ!フガクさん!!」
「わかっている!」
「何だ?どうし……」
「全員伏せろぉ!!」

融けきってない雪の残るその道、両脇から唐突に人の気配を感じ、オレは雨の炎を目の前に展開させる。
バリバリっと派手な音を立てて襲い掛かってきたのは、雷の龍。
雷遁の術者か……。
雷遁に強いのは風遁だが、残念なことにオレは風遁を使えない。
しかもオレの使える土遁は雷遁が弱点……。
くそ、相性悪いな……。
まあ、死ぬ気の炎は忍術にも効果的だから、何とかなるか。
いや、何とかしなきゃな。
反対側から襲ってきた敵の攻撃は、フガクが抑えたようだ。
こっちの敵くらいは、オレ一人で何とかしねぇとな。

「紫紺、お前は後ろ見とけ。隙突かれたら堪んねぇからなぁ」
「あいわかった」

飛び出ていった紫紺を見送り、木々の陰に隠れている忍達を迎え撃つため、オレは印を結んだのだった。
土遁はダメだから、火遁でいくか。
範囲が広い攻撃、なら、灰積焼で。

「フッ!」

チャクラを練って作った灰状の可燃物質を、広い範囲に吹き飛ばす。
火打ち石は持ってないから、指先に嵐の炎を灯すことで着火した。
広がった灰に着火した炎は、みるみる内に広がり、すぐに大爆発を起こす。

「チィッ!」

二人の男が、爆発を避けて上空へと飛び上がった。
すかさず投げた手裏剣と千本は容易に弾かれる、が、本命はそっちじゃねぇ。
爆発のせいで土煙が立ち込めている地面の上に、二人が着地する。
土煙に紛れて攻撃してくる気か、はたまた逃げる気なのか。
しかしどちらも、させはしない。
既に地面には、布石を打ってある。

「なに……水!?」
「つーかーまーえーたぁ!!」
「クソッ!水遁か!!」

無駄なく卒なく!
爆発を起こすことで地形を変えて、奴らを地面に着地させるように仕向けた。
水遁を広げる間は気付かれないように、武器を投げたりしたのだが、気付かれなくて助かったぜ。
地面に足をついた途端に、奴らの体を這い上って拘束した、粘着質の水の檻に、必死に抵抗しているようだが、まるで意味がない。
オレの方が幾らか上手だってことだな、ざまぁみろ。
水の中にいた忍を、薬で眠らせ、ロープでぎっちぎちに縛って捕らえる。
地面に転がしたその時、突然、紫紺の声が飛んできた。

「鮫弥!来たぞ!」
「チッ!今度は後ろかぁ!!」

また敵が来たらしい。
捕らえた敵の見張りに分身を残し、舌打ちをしながら、瞬身で飛んだオレの目の前には、行商人の一人に手を伸ばす敵の姿。
そして真後ろから迫ってきている敵の気配。

「だらぁぁあ!!!」
「ぐあっ!?」

突き出されたクナイが首を掠る。
引かれる前に相手の手首を掴んで、背負い投げの要領で思いっきりぶん投げた。
バランスを崩した敵が、空中に投げ出され急所を露にする。
袖から出した脇差しで、その男の腹を突く。
クナイで防いでも、嵐の炎にはそんなもの関係ない。
クナイは直ぐに砕けて、男の腹を貫いた。
そのまま、男の体を盾にするようにして、もう一人の敵に突進していく。

「ゔお゙らぁあ!!!」
「何っ……!?」

致命傷はとても与えられそうにないが、依頼人から離すことには成功したハズだ。
オレから距離をとった男の背後に見えた姿に、オレは安心した。

「これで終わりだ」
「なっ……!」

男の腹から刃物が突き出る。
行商人の情けない悲鳴が、響く。
まだ息のある男の体を縛った後、大きく息を吐き出して地面に大の字に倒れた。

「つ……っかれたぁ……」

当面の課題は、技術力や忍術ではなく、体力のようである。
変化が解けてしまい、子どもの体に戻ってしまったことに気が付き、大きなため息を吐いた。
しまったな、これじゃあ鬼崎だってことが丸わかりだ。
36/62ページ
スキ