×鳴門

そんなこんなで、夜である。
良からぬ事を考える奴というのは、そのほとんどが夜に動くものである。
特に、実力のない奴は、姿を見られづらい夜に動く。
……なんつって、まあ力が強くても、目立ちたくない奴は徹底的に夜に拘ったりもするけど。

「夜は交代で番をする。……起きていられるな」
「頑張りまーす」
「……」

いくら中身が大人と言えど、今は見た目も大人でも、本体は歴としたお子様である。
既にちょっと眠かったりするわけなのだが、まあ紫紺もいるし、なんとかなるだろ。

「始めはオレが担当する。お前は仮眠を取っていろ」
「はい」

フガクのその言葉に従って、ありがたくオレ達用のテントで睡眠を取ることにする。
三時間くらい、ぐっすりと寝てから、フガクに起こされて見張りに立った。

「……まだ半袖だと寒いなー」
「そうだなぁ」
「……暇だな」
「そうだなぁ」
「紫紺ならきっと、オレに温かい飲み物を取ってきてくれるよな」
「そうだ……そんなわけないだろうが、阿呆め」
「ちっ……」

と、まあ、見張りと言っても、必ず何かが起こるわけではないから、見てわかる通り、オレは暇で暇で仕方がない。
暇潰しに、指の一本一本までチャクラを流し込んでみる。
一本ずつ別々の属性のチャクラだ。
チャクラには、火、水、風、土、雷の5つの属性があるらしく、オレはその中でも水、火、土の順で力が強い。
親指から、火、土、水、土、火、の順にチャクラを流し込む。
そしてゆっくりと流し込む指を変えていく。
チャクラコントロールの修行にも、良い暇潰しにもなる。
だが、暇潰しをしていたオレが怪しげな気配を感じたのは、それからすぐの事だった。

「……なぁ、紫紺」
「なんだ?」
「オレやっぱ、ダンゾウ嫌いだわ……」
「安心しろ、我も嫌いだ」

そう呟いた、直後、オレは素早く印を結ぶ。
舜身の術……ミナトの飛雷神の術には遠く及ばないが、それでも敵は、オレの居場所を一瞬見失ったようだった。
木の上に隠れていた敵の背後に忍び寄り、その背にクナイを押し当てた。

「木ノ葉の暗部が、ここで何してやがる」
「な……!」

きっと、ダンゾウの差し金で来たのだろう。
木ノ葉暗部の忍が四人。
目の前の男の皮膚にほんの少し傷を付け、雨の炎を流し込んだ。
崩れ落ちる男の体を木に寄り掛からせ、背後から迫っていた他の忍達にクナイを向けた。

「ゔお゙い……、なめんじゃねぇぞぉ、カスどもがぁ!!」

その5分後、その場所には、雨の炎で弱って、ワイヤーによって綺麗に捕まった暗部達を、木の幹に縛り付けているオレの姿があった。


 * * *


「……で?これは?」
「オレが捕まえた」
「自分の里の暗部を、木に縛り付ける馬鹿があるか」
「仕方ねぇじゃん、オレの事狙ってたんだもんよぉ」
「そんなことがどうしてわかる……」
「さっき吐かせたぁ」
「吐かせたのか!?」

珍しく驚いた表情を浮かべるフガク。
オレは彼の前に立って、先程捕まえた忍者どもを、爪先でツンツンと突く。
幻術を使ったお陰で、上手い具合に吐いてくれた。
まあ、このオレが死にかけるレベルで負った傷の記憶を、そいつの体に再現させ続ければそりゃあなぁ……。
昔から色々あった……、腹に剣が貫通したり、肋骨折れて鮫に食われかけたり、腕切り落としたり、胸に腕が貫通したり、腕焼けたり……。
あれ、目の前が霞んで見えないや……。
思わず遠い目をしたオレを、フガクは目を剥いて穴が開くほど見詰めていた。

「……なるほど、ダンゾウが欲しがるわけだ……」
「年季が違うんだ」
「子供が何を言っている。……とにかく、お前は今回、見張りはしないでいい。オレが変わる。キャンプ地に戻っていろ」
「え、良いのかぁ?」
「お前が狙われている以上、下手に一人にするわけにはいかない。人の側を離れるな」
「……ん゙、わかったぁ」

フガクのその言葉には、ちょっと驚いた。
てっきりオレは、フガクもダンゾウの手先で、この襲撃は彼にも知らされているものだと思っていたから。
どうやら、彼は味方と思って良いらしい。
……もしかしたら、ダンゾウの思惑に気付いたミナトか火影辺りが、オレとフガクを組ませてくれたのかもしれない。

「んー、ま……あの人と組めてラッキー、だったかな……」

結局、そういう結論に、落ち着いた。
今回はダンゾウの差し向けてくる忍達にも、行商人達を狙う盗賊にも気を付けて任務に取り組もう。
しかしそう思った矢先、予想外の事態がオレを襲うことになったのである。
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