×鳴門

荷物の準備、良し。
アカデミーに送る式神分身、良し。
紫紺の封印石、良し。
完璧に出発準備を整えて、約束していた場所に向かう。
今回の任務内容は、行商人達の護衛なのだが、その前に同じ任務を担当する上忍に挨拶しなければならないらしい。
まあ仲間同士の顔合わせって事だ。
……と言っても、相手は仲間っつーより、監視役って言った方が正しいのかもしれないけれど。

「どぉも、鬼崎コウヤです」
「うちはフガクだ」
「……よろしく、フガクさん」

待ち合わせの場所で会ったのは、ミナトより少し上くらいの年齢の男だった。
ぶっきらぼうに挨拶されて、差し出された手に、オレは少したじろぐ。
不本意ながら、鬼などと呼ばれているオレに、握手を求めてくるとは思わなかったからだ。
男……フガクと握手を交わしてから、その容姿をまじまじと観察した。
厳格そうな顔をしている。
体格はがっしりとしていて、確か……木ノ葉の警務部隊の制服……だったか、それを身に付けている。
つーかうちは、ってことはオビトと同じ一族なのか。

「そろそろ護衛対象が来る。待ち合わせ場所は門だ」
「あ、はい」

フガクは何だかお堅い感じの人のようだから、思わずオレの返事も畏まってしまった。
と言うか、この人とは会話が続かない。
こう……話して良いの?話し掛けて大丈夫?って感じで顔色を窺ってしまうのだ。
まあ必要のない会話をしなくて良いのは、オレにとっても良い事なんだけど……。
それにしてもこの人、歩幅広いんだが。
オレ、着いていけてないんだが。
ずんずんと先を行くフガクの後ろを、必死に走って追い掛けていくオレに、流石に彼も気付いたのだろう。
少し歩くスピードが緩まる。

「……いくつだ?」
「え?えーと、こないだ6歳になったぁ」
「6歳……そうか。依頼人に会う前に、お前は変化の術で大人の姿に化けろ」
「……やっぱり、子どものままじゃ怪しまれるかな?」
「クレームがつくかもしれないな」

オレがちゃんと着いてきているか確認しているのか、時折チラリと見下ろしながら、フガクは仏頂面のままオレにそう言う。
仏頂面……ってか、これがデフォルトなのかもしれん。
さっきから全く表情が変わらない。
とりあえず、フガクの言う通り変化して行くか。
どんな姿が良いだろうか。
オレのままの大人の姿では……白髪ロン毛でまた微妙な目で見られそうな気がするな。
なら他の人間の姿が良いか。
出来るだけ柔らかい雰囲気のする容姿で、あまり目立たない見た目で、そんで大人の男。
沢田とか山本とか……、他には……陰陽師と妖怪は胡散臭いからダメだな。
ここは山本の姿に化けるのが良いだろう。
印を結んで、変化する。
その際に術強化の陰陽術と霧の炎を練り込めばあら不思議、ちょっとやそっとじゃ解けない変化の術が出来るわけである。
ちなみに服装をそのまま、という訳にはいかないので、木ノ葉でよく見る中忍服に変えておく。

「……誰だお前は」
「ん?えーと、母さんの持ってたアルバムにこんな人がいたようなー……なんて、あはは……」
「……まあ良い。それから、依頼人の前では姓は名乗らないようにしろ。良いな?」
「わかった」

山本の事については適当に笑って誤魔化す。
オレが大人しく頷いたのを見て、フガクさんはまた歩き出した。
そこまで深く突っ込まれなくて良かったぜ……。
今度は大人サイズになっているため、遅れることはない。
そのまま一緒に着いた里の門で、依頼人と落ち合い、オレの初任務は開始したのであった。
いざ!鉄の国へ!!


 * * *


「へーぇ、じゃあ皆さんは鉄の国に武器売りに行くんすか?」
「まあな、オレ達はさすらいの刀鍛冶。刀を主な武器とする侍がいる鉄の国は、オレ達の一番のお得意様って訳だ」
「ふぅーん、カッコいいんだな!」

さて、オレは今、普段なら有り得ないようなテンションで、依頼人である行商人の一人に話し掛けている。
何故ならば今のオレは山本の姿をしているからである。
化けるときには心まで、がオレのモットーなのだ。
……いや、嘘だけどな。
単純に彼らに警戒心を抱かせないために、明るく接しているだけである。
忍って云わば汚れ仕事だろう?
普通の神経してる奴なら、あまり馴れ合いたがらない人種だろうからな。
せめて警戒を少しでも緩めてもらえるように、明るく軽く、フレンドリーに接してみる。
……さて、今回の依頼人は行商人の一行である。
いや、行商人と言うか、コイツらは生産、販売、どちらもやっているらしい。
刀専門の鍛冶屋で武器屋。
見せてもらった商品は、確かに質の良いものばかりであった。
オレがもっと成長したときには、オーダーメイドで剣を作ってもらいたいな……。

「それより兄ちゃん、こんなところで油売ってて良いのか?あそこの怖っそーな人に怒られるんじゃねーのか?」
「うん?平気だぜー、こう見えてもちゃんと見張りしてんだからなー」
「見張り?」
「ほら、ずっとオレ達の上飛んでるカラスがいるだろ?あれ、オレのなんだ。何かあったらアイツが知らせてくれんだよ。便利だろ?」
「ほーお、そりゃ確かに便利だな」

まあ言わずもがな、リングアニマルのコルヴォである。
優雅に空を飛ぶカラスを見上げながら、行商人の男は感心したように言う。
彼と会話をしている間も、会話が途切れて無言で歩いている間も、フガクからの視線はずっと感じていた。
行商人達からはあまり警戒されてないようだけれども、フガクからはだいぶ警戒されているようだった。
まあ、そう言うもんだよな。
オレは殺人鬼一族の鬼崎コウヤ。
本人が認めていなくても、周りの目はオレを殺人鬼として見ている。

「ちっ……生きづらいなぁ……」
「なんか言ったか?コウヤ」
「いやぁ、何にもー」

信用してもらおうなんて、無理な話だが、もう少しわかりづらく監視してほしいな、なんて言うのは、ワガママだろうか……。
チラリと振り返ったフガクの目は、やっぱり敵でも見るかのように鋭くて、オレは苦い笑みを浮かべた。

「折角の外国なのに、なんか肩凝っちまうなぁ……」

曇り空に向けて、ため息と共に、誰にも聞かれないように小さく、愚痴を放った。
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