×鳴門

アカデミーで過ごす日々は、そこそこ平和だった。
そりゃあ差別も偏見も受けたけど、あの教師にちょっとお仕置きしたからか、実際に何か暴力を振るわれたりすることはなかった。
まあ、暴力を受けたら10倍にして返すだけだがな。

「なーコウヤー。先生倒した技、オレにも教えろよー」
「何でお前に教えなくちゃあなんねーんだぁ。オレぁ忙しいんだから、他当たれよ」
「えー……!」

しかし教師を倒したその日から、イルカ少年に付きまとわれるようになった。
ただ今絶賛独り暮らし中のオレからしてみれば、なかなか帰してくれない彼は邪魔なことこの上ないのだが、しかしそんなことお構いなしに、イルカ少年は絡んでくる。

「これから買い物行かなきゃなんねぇし、洗濯物取り込んだり、料理したり、色々予定があるんだよ」
「はあ?そんなの親がやるもんだろ?」
「……」

何と言うか、無邪気な顔して言いづらいことを平然と言ってくるな、コイツ。
キョトーンとしてるイルカの鼻を詰まんで引っ張った。

「いぎぃぃい!?」
「あのなぁ、世の中には親のいない奴もいるんだよ。オレが忙しいのがわかったら、お前もさっさと帰って親の手伝いでもしてろっての」
「ふぁ!ははっは!はふぁへっへ!」
「あ゙ーはいはい、すぐ離すって」

摘まんでた鼻を離してやって、さっさと背を向けて教室から出る。
そして帰った家の前、この間と同じように、エンが仁王立ちをしていた。


 * * *


「仕事のリスト?」
「そうだ。この中から選んで任務につけ」

不機嫌そうなエンに手渡されたのは、横にずらっと並ぶ任務の内容。
どれもそこそこやり応えのありそうな任務だった。
何でもエンが言うには、この間の教師を伸した一件で、オレにはもう十分に中忍以上の能力があると認められてしまったらしい。
その為、里の為に力を使えと……うん、ダンゾウだけでなく、相談役の二人、更には色々な上役サマ達よりの司令なのだそうだ。
面倒だが、まあ腕が鈍るよりゃあ良いか。

「いくつやれば良いんだぁ?」
「とりあえずは一つだけだ」
「コレ難易度の基準とかってあんのかぁ?」
「上に書いてあるアルファベットが任務のランクだ。一番下がD、上は特S」
「へぇ。」

かなり色々種類がある。
潜入任務や敵の殲滅任務、抜け忍の抹殺任務や巻物奪取とか要人の護衛とか……。
オレはその中から、幾つか気になるものを見付ける。

「……まあ、まあ始めはD級か簡単なC級くらいから始めたら良いんじゃないのか」
「んー、じゃあコレ」
「……C級の国外任務か?」
「他の国行ってみたい!」
「観光気分かテメーは!観光気分か!!」

行商人の護衛任務を指し示したオレに、怪訝そうな顔をするエン。
理由を言ったら拳骨が落ちてきた。
別に良いじゃねーか、任務ついでに観光するくらい。

「良いじゃん外国、見に行きてえじゃん」
「仕事をきちんとこなせてからの話だろう!お前な、お前やる気あるのか!?」
「めちゃくちゃある!」
「ダウト!」

物凄い反対されたが、オレの意思は固く、ついにエンが折れてオレの任務が決まったのであった。
それまでの間にお鍋2つ、まな板1つ、エンの武器が幾つか犠牲になったが、その事は気にしないようにしよう……。
とにかく、その日は買い物に行けなかったので残り物で済ませて、その翌日から、オレは任務に向かうことになったのであった。
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