×鳴門
授業が終わり、オレは周りの奴らに見向きもせずに、教室を飛び出した。
同時に魚形に切った紙に呪を込める。
簡単な符術だが、ミナトにこれから向かうことを知らせるには丁度良い。
宙を泳いでいったそれが、人目に付くことを避けるために、目眩ましの幻術を掛ける。
先に行った紙の魚の跡を追って、オレもミナトの家に急いだ。
それにしても、携帯電話のない世界と言うのは不便なものだな……。
* * *
そんなわけでミナトの家に到着したオレは、早速ドアを開けて突入した。
「よお、ミナトォ」
「ん!待ってたよコウヤ君。あの魚、面白いね?オレにメッセージ見せたら、直ぐに燃えて消えちゃった」
「スゴいだろ?」
「どういう術なのかな?」
「紙に呪力を込めるんだ」
「ん……全然わからない……」
まあ陰陽術は、この間説明したのとはまた違う術になるしなぁ。
これだけの説明でわかるわけねーよな。
「わかんねーなら良いや。企業秘密ってーことで」
「えぇ~」
不満そうに言われたが、今日はその話をしに来たのではない。
オレの性別云々の話についてである。
「なあミナト、オレって男と女、どっちに見える?」
「え?もちろん男の子だけど……。もしかしてアカデミーで、同級生の子に何か言われたのかい?女男ー、とか」
「いや、そうじゃねーけど……。ミナト、オレのことそんな風に思ってたのかよ……」
女男ってお前……間違っちゃいないけど。
むすりと唇を尖らせてみると、ミナトは慌てたように手を横に振る。
「オレが思ってる訳じゃないよ!?でもほら!コウヤ君って髪長く伸ばしてるし、見ようによっちゃあ女の子にも見えるかなーって思ってね!」
「……」
女……なんだけどなぁ。
ミナトはオレの個人情報調べてないのか?
困った顔をして黙り込んでしまったオレを不審に思ったのか、ミナトは低い位置にあるオレの顔を覗き込むようにして声を掛けてくれた。
「コウヤ君?本当に何かあったんじゃないのかい?」
「……あったって言うより、現在進行形である、って言うか」
「ん?どういうこと?」
「ミナト、本当にオレの事、男だと思うのか?」
「え?うん」
当たり前じゃん、って感じで言われてしまって、少し落ち込んだ。
いや、察してはいたけど、もうちょっと疑ったりとかしたって良いだろ。
もっと女らしくしろって言うのは、ディーノだけじゃなくて、紫紺やルッス、乙女や……果てには陰陽師連中にも言われたことだけど、ここまではっきり男って言われたらちょっと凹むかな。
男でありたいけど、女であることは変えることのできない事実なんだし。
「ミナト、オレ女なんだけど」
「またまたぁ、コウヤ君って結構冗談好きなんだね?」
「冗談は嫌いじゃねーけど、オレは本当に女なんだよ」
「……いやいや、でもコウヤって男名でしょ?」
「母さんが、オレを守るためにそう名付けたんだぁ」
「…………え、冗談じゃないのかい?」
「本当の事。……確かめたい、って言われても困るけど。脱ぐか?」
「え!?それはダメでしょ!!」
まあ、そんな状況誰かに見られたら、ミナトが社会的に抹殺されること間違いなしであるし。
つーか言ってみただけだし。
「アカデミーで、オレ女なのにくの一クラス?ってのじゃなかったから、ミナトが勘違いしてるのかと思って……。やっぱりそうだったんだなぁ」
「か、勘違いするよ!コウヤ君普通に男の子用の服着てたし……って言うか君、初めて会ったときに男の子だって言ってたじゃないか!?」
「え?そんなこと言ってたかぁ?」
驚くミナトの言葉に、オレは首を傾げる。
初めて会った……ってことは、母さんの葬儀の時、か?
そんなら、きっと何聞かれてるかも考えないで、適当に返事しちまったんだろうなぁ。
あの時は流石に、オレも平静ではいられなかったから。
「それなら直ぐにクラスの変更を……」
「それはしなくて良い」
「え?」
今更くの一クラスなんて行けないし、何より男だと思われているなら、そのまま男ってことにしておいた方が都合が良さそうだから。
女だって言うだけで舐められたり、よからぬ事考える馬鹿もいるからな。
そう説明すると、ミナトも納得して頷いた。
「うん、そうした方が良いだろうね。それならこれは、オレ達だけの秘密ってことにしておこうか、ん!」
「ありがとなぁ」
「でもこの事で、何か困ったことがあったら、直ぐに相談するんだよ?」
「わかった」
「うん!よろしい!」
話に区切りがついたところで、ミナトが立ちっぱなしだったオレにソファーを勧める。
飲み物を出したミナトは、にこりと笑うと楽しそうに尋ねてきた。
「ん!で、初めてのアカデミーはどうだったんだい?仕事があって入学式見れなかったから……、話、聞かせてほしいな」
「どうってこともなかったけど……。それより仕事、大丈夫なのかぁ?」
「丁度一区切りついたとこだから平気だよ。それに、コウヤ君と話す時間くらいあるからね!」
ミナトの言葉に安心して、オレはアカデミーの話をした。
クラスメイト、教師、入学式、授業……。
授業がチョロすぎて眠かったって話したら、ミナトに「だろうと思ったよ」と笑われた。
同時に魚形に切った紙に呪を込める。
簡単な符術だが、ミナトにこれから向かうことを知らせるには丁度良い。
宙を泳いでいったそれが、人目に付くことを避けるために、目眩ましの幻術を掛ける。
先に行った紙の魚の跡を追って、オレもミナトの家に急いだ。
それにしても、携帯電話のない世界と言うのは不便なものだな……。
* * *
そんなわけでミナトの家に到着したオレは、早速ドアを開けて突入した。
「よお、ミナトォ」
「ん!待ってたよコウヤ君。あの魚、面白いね?オレにメッセージ見せたら、直ぐに燃えて消えちゃった」
「スゴいだろ?」
「どういう術なのかな?」
「紙に呪力を込めるんだ」
「ん……全然わからない……」
まあ陰陽術は、この間説明したのとはまた違う術になるしなぁ。
これだけの説明でわかるわけねーよな。
「わかんねーなら良いや。企業秘密ってーことで」
「えぇ~」
不満そうに言われたが、今日はその話をしに来たのではない。
オレの性別云々の話についてである。
「なあミナト、オレって男と女、どっちに見える?」
「え?もちろん男の子だけど……。もしかしてアカデミーで、同級生の子に何か言われたのかい?女男ー、とか」
「いや、そうじゃねーけど……。ミナト、オレのことそんな風に思ってたのかよ……」
女男ってお前……間違っちゃいないけど。
むすりと唇を尖らせてみると、ミナトは慌てたように手を横に振る。
「オレが思ってる訳じゃないよ!?でもほら!コウヤ君って髪長く伸ばしてるし、見ようによっちゃあ女の子にも見えるかなーって思ってね!」
「……」
女……なんだけどなぁ。
ミナトはオレの個人情報調べてないのか?
困った顔をして黙り込んでしまったオレを不審に思ったのか、ミナトは低い位置にあるオレの顔を覗き込むようにして声を掛けてくれた。
「コウヤ君?本当に何かあったんじゃないのかい?」
「……あったって言うより、現在進行形である、って言うか」
「ん?どういうこと?」
「ミナト、本当にオレの事、男だと思うのか?」
「え?うん」
当たり前じゃん、って感じで言われてしまって、少し落ち込んだ。
いや、察してはいたけど、もうちょっと疑ったりとかしたって良いだろ。
もっと女らしくしろって言うのは、ディーノだけじゃなくて、紫紺やルッス、乙女や……果てには陰陽師連中にも言われたことだけど、ここまではっきり男って言われたらちょっと凹むかな。
男でありたいけど、女であることは変えることのできない事実なんだし。
「ミナト、オレ女なんだけど」
「またまたぁ、コウヤ君って結構冗談好きなんだね?」
「冗談は嫌いじゃねーけど、オレは本当に女なんだよ」
「……いやいや、でもコウヤって男名でしょ?」
「母さんが、オレを守るためにそう名付けたんだぁ」
「…………え、冗談じゃないのかい?」
「本当の事。……確かめたい、って言われても困るけど。脱ぐか?」
「え!?それはダメでしょ!!」
まあ、そんな状況誰かに見られたら、ミナトが社会的に抹殺されること間違いなしであるし。
つーか言ってみただけだし。
「アカデミーで、オレ女なのにくの一クラス?ってのじゃなかったから、ミナトが勘違いしてるのかと思って……。やっぱりそうだったんだなぁ」
「か、勘違いするよ!コウヤ君普通に男の子用の服着てたし……って言うか君、初めて会ったときに男の子だって言ってたじゃないか!?」
「え?そんなこと言ってたかぁ?」
驚くミナトの言葉に、オレは首を傾げる。
初めて会った……ってことは、母さんの葬儀の時、か?
そんなら、きっと何聞かれてるかも考えないで、適当に返事しちまったんだろうなぁ。
あの時は流石に、オレも平静ではいられなかったから。
「それなら直ぐにクラスの変更を……」
「それはしなくて良い」
「え?」
今更くの一クラスなんて行けないし、何より男だと思われているなら、そのまま男ってことにしておいた方が都合が良さそうだから。
女だって言うだけで舐められたり、よからぬ事考える馬鹿もいるからな。
そう説明すると、ミナトも納得して頷いた。
「うん、そうした方が良いだろうね。それならこれは、オレ達だけの秘密ってことにしておこうか、ん!」
「ありがとなぁ」
「でもこの事で、何か困ったことがあったら、直ぐに相談するんだよ?」
「わかった」
「うん!よろしい!」
話に区切りがついたところで、ミナトが立ちっぱなしだったオレにソファーを勧める。
飲み物を出したミナトは、にこりと笑うと楽しそうに尋ねてきた。
「ん!で、初めてのアカデミーはどうだったんだい?仕事があって入学式見れなかったから……、話、聞かせてほしいな」
「どうってこともなかったけど……。それより仕事、大丈夫なのかぁ?」
「丁度一区切りついたとこだから平気だよ。それに、コウヤ君と話す時間くらいあるからね!」
ミナトの言葉に安心して、オレはアカデミーの話をした。
クラスメイト、教師、入学式、授業……。
授業がチョロすぎて眠かったって話したら、ミナトに「だろうと思ったよ」と笑われた。