×鳴門

「それでは改めて。鬼崎コウヤの、メシマズでも出来る簡単クッキング~」
「めしまず?」
「メシが、マズい」
「ん!なるほどね、略語か」

あの後、クシナさんの料理を食べたオレは、再びあの世の母さんと出会いかけた。
メシマズっつったが、あれはマズいどころじゃなくて、ポイズンクッキングと言っても過言じゃなかった。
毒蠍に弟子入りできるレベルの料理だ。
そして、オレがあの世に逝きかけたせいで自分の料理の腕をようやく自覚したクシナさんは、料理の特訓をしようと思い立ったのである。
あらすじ終了。

「そう言うわけで、まずはメニュー決めなんだが……」
「そうだね!何を作ろうか?」
「私肉じゃが作ってみたいってばね!」
「……残念ながらここにある材料では肉じゃがは作れないので、今回は簡単な野菜スープと肉料理を作ろうと思う」

因みに食材はオレが近所で捕まえた鴨と、菜園で採れた野菜達である。
人参、玉ねぎ、ジャガイモ、赤いパプリカにセロリ……と、野菜的には肉じゃがもいけそうなんだけど、だしの素ねーんだよなぁ、残念。
糸こんとか絹さやもあれば肉じゃが作りたかったんだけど、今回はスープ。
肉料理の方は、鴨肉を使うから煮込みかな……。
トマトの缶詰とマッシュルームの缶詰があるから、それに余ってた白ワインを使って煮込もうか。

「じゃあ野菜を切っていくかぁ。クシナさん、まずは玉ねぎを切ってくれ」
「了解ってばね!」
「それより、コウヤ君本当に料理出来るの?流れで任せちゃったんだけど……。」
「オレは森に籠ってた2週間、ずっと一人で材料調達から頑張っていたんだぜ?」
「おお……なんか頼りがいがあるね」

頼ってほしいんだよ、とか言ってたその舌の根も乾かぬうちに、何を言うか。
まあ、頼られるのは好きだから良いんだけどなぁ……。

「それで、クシナさん玉ねぎ切れた、か……うん?」
「コウヤ君、この玉ねぎ皮しかなかったけど……」
「……」
「クシナ、芯まで剥いちゃったの?」

ミナトと話している間、ホンのちょっと目を離しただけだったのに、クシナさんは、玉ねぎをバラバラに剥きまくってしまっていた。
おい、……おい!
そんなベタ過ぎるミス、へなちょこディーノでも、ダメツナとか呼ばれてた沢田でもしなかったぞ!?

「玉ねぎの皮は茶色のとこだけだぁ!」
「そうだったってばね!?」
「まあクシナだし」
「納得してんなミナト!!」

先が、思いやられる。
オレは頭を抱えたい衝動を圧し殺して、クシナさんが散らかした玉ねぎを拾い集め始めたのだった。


 * * *


「……や、やっと出来たぁ!!」
「出来たってばねー!」
「す、スゴい……クシナがマトモな料理を作った……!」
「ミナトォ!それどういう意味ってばね!?」

そして大体2時間後。
オレ達はついに料理を作り上げた。
始めにクシナさん作のポイズンクッキングもどきを食べたのが6時頃。
現在8時。
お腹減った……。

「まあまあの出来ね!」

クシナさん嬉しそうだなぁ。
でも野菜1つ切るのにもオレが細かく指示を飛ばしていたこと、ちゃんと覚えててくれよな……。

「早速食べてみようか!」

ミナトの声に頷いて、オレ達は料理を盛り付けて食卓につく。
うん?さっきから一人少なくなってないかって?
エンならずっとオレの後ろにいるんだぜ。

「エン、ありがとなぁ。もう下ろしてくれていいぜ」
「……」

エンはだいぶげっそりと疲れた雰囲気を出しながら、オレの体を地面に下ろす。
5歳の体じゃキッチンは高すぎるならな。
でもイスを使ったら邪魔だから、エンに持ち上げてもらってたのだ。
とても便利である。
一家に一台欲しいよな。

「ん!じゃあ、いただきます!」
「いただきます!ってばね!」
「いただきます。ほら、エンも」
「……いただきます」

皆で揃って、一口。
お、なかなか悪くない。

「お……美味しいよクシナ!!」
「おー!本当に美味しいってばね!!焦げてないし生じゃないしちゃんと味がついてる!」
「……うん、悪くない」

感動したのかミナトは目に涙が浮かんでいたし、クシナさんはこれまでの失敗作を思い出して比べている。
うん、ミナトのこれまでの苦労が忍ばれるな……。
仮面を少しだけ上にずらして、モゴモゴ食べているエンも、満足そうである。
良かった……これで不味かったら、救いようがなかったからな。

「へへへ……ありがとうねコウヤ君。すっごく勉強になったわ!」
「……役に立てたんなら、嬉しい」
「ふふ、でも今度こそは私達がコウヤ君に頼られるんだからね!」
「……ふふ、期待しとく」
「ん、なら期待に応えられるように頑張らないとね!まずは、差別偏見のない里作り!」
「いきなり目標高すぎないかぁ?」
「高い方が良いでしょ!」
「大変だと思うけどなぁ。な、エン」
「……オレには何とも」

賑やかに話す声。
この2週間、ずっと紫紺と二人ぼっちだったからだろうか、彼らの声が、とても暖かく感じた。

「オレさ、」
「うん?」
「自分が鬼とか、言ったけど」
「……」
「やっぱり嫌だ。殺人鬼にはなりたくない。ただの人間として、生きたい。もう、自分を鬼と貶めないようにしたい」
「……なら、オレがそんな里を作るよ」
「……ふふ、次期火影候補だもんなぁ?」
「ん!任せてよね!」

力強く頷くミナトに、オレは自然と笑みをこぼした。
26/62ページ
スキ