×鳴門

「……オビト、少し離れててくれ」
「は?」
「暗部が来た」
「あ、暗部っ!?」

里の方から近付いてきている気配は、覚えのあるものだった。
何度かオレの家に来ていた暗部。
きっとこの家にオレが戻ってきたことに気付いて、捕まえに来たのだろう。

「紫紺、オビトの事、頼んで良いか?」
「む、了解した」

既に変化を解いていた紫紺が頷き、オビトの肩に乗る。
オビトは慌ててオレの腕を掴んだ。

「なっ……オレも一緒にいる!!」
「それこそ迷惑……いや、オレにとって不利になる。安心しろ、大したことにはならねぇよ。なあ、オビト、今はオレの言うことを聞いてくれ」
「……でも、」
「紫紺」
「おい、行くぞ、うちはの小僧」
「……コウヤ、またここに来るから、だから、ちゃんと待ってろよ!?」
「はっ……美味い飯でも作って、待っててやるよ」

不安そうなオビトの頭を背伸びをしてぐしゃぐしゃに撫でる。
紫紺に頷くと、一瞬紫紺の姿が消え、次の瞬間には、そこにミナトが立っていた。
オビトを促して、二人連れ立って立ち去っていくのを見送る。
暫く、二人の消えた方を見ていると、背後から、ザリと地面と靴の擦れる音が聞こえた。

「……火影邸まで、同行してもらえるな」
「……んー、あんたが紳士的にエスコートしてくれるのなら?」
「ふざけたことを……。ほら、さっさと行くぞ」

結構頻繁に来ている人だからか、それともそういう性分なのか。
男は言葉遣いとは裏腹に、オレを優しく抱き上げると、火影邸まで走り出す。
ツンデレか。

「全く、どこに行っていたんだ。2週間も行方不明になりやがって」
「何、おじさん、心配してくれたのかぁ?」
「馬鹿か。馬鹿かテメーは!何でオレがテメーみたいなガキの心配して、里中探し回って、毎日ヒヤヒヤしてなけりゃならないんだ、馬鹿かテメーは!!」
「心配してくれたんだなぁ……」

わかりやすいツンデレだ……。
ぶつくさと文句を呟き続ける男の胸板に顔を押し付ける。
血の匂い、火薬の匂い、薬草の匂い。

「……結局、人と関わることから、逃げることは出来ないのかな」
「何ぶつくさ言ってんだ」
「それはこっちの台詞だぜぇ」
「チッ!まあいい、着いたぞ」

男の言葉に顔を上げる。
オレ達は大きな扉の前に立っていた。
1度来たことがある。
火影の執務室の扉だった。

「エンです、入ります」
「エンって言うのかぁ?」
「お前は黙ってろマジ黙ってろ。エンは暗部名だ」
「そうなのかぁ」

やっぱりツンデレだ。
エンは扉を開けると横に避けて、目線でオレに、先に行け、と合図する。
入りたくねーけど、入るしかねぇよな。
オレは1度深呼吸をすると、意を決して扉の中に踏み入った。

「このっ!馬鹿コウヤー!!」
「うぎゃっ!?」

そして入った瞬間、脳天に拳が落ちてきた。
目の前が真っ黒になって星が散る。
ものすっげぇ力で殴られたらしい。
オレの脳細胞死滅したんじゃねぇの?
あれ?川の向こうで母さんが手を振ってるのが見える。

「ちょ……やりすぎじゃないクシナ!?」
「わー!ごめんってばね!!」
「うぅ……母さん、今そっちに……」
「そっち行っちゃダメってばねーっ!」

どうやらクシナさんがオレの頭を力任せに殴ったらしくて、オレは暫くフラフラと足元も覚束ない状態だったのだが、ミナトの必死の介抱で何とか復活する。

「や、やりすぎちゃったみたいね……。もう大丈夫?コウヤ君」
「えーと、一応……?」

椅子の上に座らされたオレに、クシナさんが申し訳なさそうに言う。
復活したオレは頬を掻きながら答える。
だがクシナさんとオレとの距離は若干遠い。
暫くは近付きたくない、本当にすさまじい一撃だった……。
クシナさんの傍に立ったミナトも、苦笑を浮かべていた。

「ゴメンね、コウヤ君。でも、それだけクシナも心配してたんだ。一体今まで、どこに行っていたんだい?」
「ワシも知りたいのう。一体、どこで……何をしていたんじゃ?」
「事と次第によっては、貴様に厳重な処罰を下す事もある。素直に答えることだな」
「……素直には、答えますけど」

部屋には、ミナトとクシナさんだけではなく、現火影や、ダンゾウもいて、彼らが口を開いた途端に、重たい雰囲気が立ち込める。
こんな雰囲気で一人話さなきゃならねぇのかよ……。
オレは仕方なく、話し出す。

「……何て言うか……ちょっと暫く距離を置きたかったって言うか……」
「はっきり答えろ」
「っ……ゔ~……!暫く人に会いたくなくなったから、そこら辺の森に引きこもってただけだよ!悪いかぁこの野郎!?」
「……はぇ!?」
「だーかーらー!里の奴らに嫌気が差して、ちょっと家の近くの山にこもってただけだって言ってんだよ!」

クシナさんが間の抜けた声を出す。
うん、わかる。
オレだってこんなこと言いたくなかったんだ……。
絶対引かれるじゃねぇか、そんな下らない理由で二週間も姿をくらましていたのか、ってな。
でも簡潔に言うとオレのしてたことってつまりそういう話なんだもん。
しょうがねぇじゃねぇか。

「……ダンゾウ、そう言うことらしい。これ以上いてもきっと何もないと思うが?」
「……くだらん、帰るぞ」

ダンゾウが出ていく。
うわぁぁあ……恥ずかし……!
チラッと見られたのを見て、バッと顔を背けた。

「……エン、また居なくなられても困る。このガキを家まで送っていけ」
「御意」
「ガキ、お前が忍になろうがなるまいが、人との関わりを避けることなど出来ん」
「え……」
「覚悟をして生きろ。ワシの言葉に従わないのなら、尚更な」
「……はい」

何だかんだで……、ダンゾウもオレに優しいんじゃねーかな、と思う。
分かりづらいけど、自分とオレの立ち位置をハッキリと示してくれるし、厳しい言葉もきっと優しさから来てる。

「コウヤ君、えーと、他にも幾つか聞きたいことがあるんだけど」
「……じゃあ、家に来いよ。エンがオレの事、送ってってくれるんでしょう?」
「……不満だが、そうだ」

エンに手を伸ばすと、嫌そうにその手を掴んでまた抱き上げてくれる。
やっぱり言葉と反対に手付きは優しい。
このエンと言う男、気に入った。

「行こーぜ」
「……うん」
「?何だよその顔」
「いや、別に何でもないけど」
「コウヤ君が知らない男と仲良くしてるから妬いてんのよ」
「そんなことないよ!」
「……変わります?」
「えーやだよ、ミナトはオレの持ち方雑なんだもん」
「完敗だってばねミナト?」
「何か納得いかないけど悔しい!」

ミナトが何か言ってるけど、オレは知らん。
エンに抱えられて、オレは彼らと共に、久々に自宅へと帰ったのだった。
23/62ページ
スキ