×鳴門

「え……オビト?」
「バカっ!バカコウヤ……!」
「あ……」

紫紺に地面に降ろされて、暫く呆然としていたオビトは、突然オレを抱き締めた。
らしくない行動に、オレも流石に慌てる。
肩口からはグズグズという声が聞こえてきている。
服が湿っていた。
おずおずと、オビトの背中に手を回して力を込めると、更にキツく抱き締められた。

「オビト……あの、心配させちまった……かな……?」
「心配したに決まってんだろ馬鹿……!今までどこ行ってたんだよっ!オレ達ずっと探して……待ってて……!なのになんでそんな、ひょっこり出てきてんだよこの馬鹿!!」
「い゙っ!?」

頭突きをかまされて、思わず仰け反る。
痛い……ちょっとは加減しろよ……。
でも顔を上げたオビトが涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしていて、そんな文句は言えないまま、オレは黙りこんだ。

「……本当に、心配したんだからな」
「……」
「オレだけじゃなくて、先生も、クシナさんも、リンも……皆心配してたんだからな」
「……うん」
「オレ達が無理矢理連れ出したせいで、あんな目に遭って、ついに愛想尽かされたのかと思った……」
「うん、まあ……少しはそうなる可能性とか、そうなって自分達がどんな目で見られるようになるのかとか、考えろよって思った」
「そ、その……こないだの出来事知ってる奴には、変な目で見られたりしたけど……別にオレは友達と仲良くしてるだけだし、変な目で見られたって平気だし、今度コウヤがイジメられたらオレが守ってやるし!」

力んでそんなことを言うオビトに、オレはやれやれ、とため息を吐く。
そんなこと、オレだってわかってる。
ただ、オレはそれを良しとは思わない。

「お前が良くても、オレは良くねぇんだよ。心配してくれたの、嬉しいけどよ……もう、オレには関わらねぇ方が良いだろぉ」
「な、なんだよ、それ……」
「悪いけどよぉ……、オレはもうお前らと関わるつもりねぇし、ここにはもう来るな」

なんか、紫紺のせいで初めの内は何がなんだか……って状態になってたが、やっと、落ち着いてきた。
オレはコイツらが、オレの事を信じ続ける事なんてわかってた。
あれだけ姿を隠していたのに、捜索隊の1つも出てないのは、きっとミナトが何かしたからだろうし、毎日こうして待ち続けるのだって、きっと本当に大切な人相手じゃなくては出来ない。
オレは、彼らがこんなにもオレを大切にしてくれている事が怖い。
オレの存在は、きっと彼らに不幸しか呼ばないだろう。
オレには何も返せない。
だから、怖い。
彼らがあまりにも近すぎる。
ギブアンドテイクもなく、ただオレを大切に想ってくれるから、彼らの思いをいつか裏切ってしまうような気がして、怖い。
オレは、鬼だ。
だがそれ以上に、オレは薄汚い人殺しだから。

「やだ……嫌だ!コウヤがなんつったってオレはまたお前に会いに来るからな!」
「……迷惑なんだよ、そういうの。オレには必要ねえし」

オビトを突き放す為の言葉は、オレの胸にも突き刺さる。
紫紺が言った通り、寂しいんだ。
本当はオビト達と馬鹿なことして、本当の子供みたいに遊んでたいだけなのに。
でもオレは、きっと彼らを不幸にしてしまうから。
そんなことになるくらいなら、寂しさ我慢してここでお別れした方が、良い。

「……お前、馬鹿だろ」
「ああ゙?」
「オレがそんなこと言われた程度で、お前の友達やめるような玉なしだとでも思ってんのかよ、この玉なしコウヤ!!」
「……」

うぅん……まあ、玉なしってのは否定できないのだが、どうやらオレの言葉は逆効果だったようだ。
オビトはさっきよりも更に強く、オレに抱き着いて拘束してくる。

「いってぇよオビト……」
「お前が頭下げて『オビト様失礼なこと言って申し訳ありませんでした』って言うまで離さない!」
「……あ゙ー、なんでそんなに、オレに執着すんだよ。ただの生意気なガキんちょだろぉ」

ぎゅうぎゅうと締め付けられて、結構痛い。
肩の上に乗ったオビトの頭を撫でると、少し落ち着いたらしく、締め付ける力が緩んだ。

「生意気なガキんちょなんかじゃねぇよ。木ノ葉の大事な仲間で、オレの友達で、オレが我が儘言っても許してくれる優しい奴だ。お前みたいな奴が、殺人鬼とか言われるの、オレには許せない。お前が親を貶されて許せないのとおんなじなんだよ」
「……」
「お前優しいから、たぶんオレ達の事思って関わんないとか、迷惑とか言ってきてるんだと思うんだよな」
「……それが何だよ」
「そんな奴の事、一人ぼっちにさせたくないって思う」
「お前にゃ関係ねえだろ」
「関係なくて良いよ、もう。オレが勝手に、お前の友達で居続けるだけだもん」
「……生意気な」

オビトは暫く、オレを離す気はないようだった。

「そんなら、もう勝手にしろよ」
「うん」
「あと、オレは謝らねぇからなぁ」
「うん」

ああ、もう、結局この馬鹿からは逃げ切れなかったか。
嬉しいような、怖いような。

「お前がオレの友達でいるって言うなら、」
「うん?」
「オレはお前を、守るから」
「……じゃあ、オレもコウヤの事守る。コウヤだけじゃなくて、この里の大切な人、全員守れるようなカッケー火影になってやる。見とけよアホコウヤ」

そんな涙声で言われても、信じられない。
オレの肩でグズグズと鼻を鳴らしているオビトを、クツクツと笑って撫でた。
そして同時に、こちらに近付いてくる気配に目を細める。
くそ……忙しくなりそうだ。
オレは紫紺に目配せをして、彼らが来る方向に顔を向けた。
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