×鳴門

「何故鬼の子がいる!?」

ただ買い物をしていただけなのに。

「今すぐこの店から出ていけ!」

何でコウヤは怒られているんだろう?

「ちょっと!子供に向かってそんな言い方するの!?」

クシナさんも怒っている。

「オレ達が無理言って連れてきたんです。それに、彼はただの子供ですよ」

ミナト先生も、笑顔だけど怖い。

「……出ていけば良いんだろう?なら、こんな店、出ていってやるよ」

そしてコウヤは、コウヤは一人、詰まらなそうな顔をしてそう言った。
オレは何も言えずに、ただ呆然とコウヤを見ているだけだった。

「コウヤ君!?君が気にすることは何にもないんだ!だから間違っていることは間違ってるってちゃんと……」
「ああ、そう言えば、オレの母がどんな風にして死んだのか、この里の人達は知ってるのか?」
「……そんなこと、今は関係ないでしょ?」
「あるね。大いにある。オレの目の前で殺されたんだよ。殺されたんだ、何でもない人間に。人間に殺されたなら、母さんはきっと鬼じゃあないと思うんだよなぁ。でも、母さん殺した奴ら殺したのってオレなんだよなぁ?だったら、オレは鬼の子じゃないよ?
オレが、鬼なんだよ?ねえ、店主さん、だから、鬼の子じゃないんだ。鬼はオレで、母さんは人だよ。一緒に、しないでくれねーかなぁ?」
「そ、そんなことどうだって良い!早く帰ってくれ!!」

コウヤの理論はメチャクチャだ。
でも何が言いたいのか、オレにはわかった。
コウヤはただ、母親が侮辱されることが堪えられないだけなんだ。
詰まらなそうな顔から一転、コウヤはにっこりと微笑むと、店主の男にゆっくりと話し掛ける。

「出てくよ、すぐにね。でも、残念だったなぁ。この人達で遊ぶの、楽しかったのに」
「……え?」
「オレがちょっと甘えれば、可愛がっちゃって、可哀想な子のふりすると、同情しちゃって。面白かったから、残念だなぁ、って」
「な、なに……言って……」

コウヤはクルリと、オレ達を振り返る。
その顔は笑っていたけど、目だけは完全に冷えきってて、何となく、コウヤは残念って言うよりも、呆れたって思ってるんじゃないかと思った。
『ほら、言わんこっちゃない』って。

「次期火影だっけ?ミナトもさ、大層な肩書きの割りに、随分とチョロいんだね?オレの手のひらで、コロコロって転がされちゃって」
「ちょっと……適当なことを……」
「鬼が、人に懐くと思った?」
「君は鬼なんかじゃ……!」
「そうやって信じちゃってるところが、チョロいって言ってんだけど?悪いけどオレ、なんか冷めちゃった。ミナト達はもう良いや。詰まんなくなっちゃったし、いらない。オレ、もう帰るし」

ミナト先生が何か言おうとする度に、コウヤは邪魔をした。
オレ達を騙してた?
嘘つけ、そんならなんで、そんな疲れたような顔してるんだよ。

「じゃーな、バイバイ」
「良いから早く出ていけ鬼!服の代金もいらない!オレの店から早く消えろ!」
「だから……言われなくても消えるって言ってんだろうがぁ」
「ひっ!?」

コウヤは1つ、苛立たしげな睨みを店主にくれてやると、試着室からピョンと飛び出て、唖然とするオレ達や、店の奴らを置いて出ていった。
店の出入り口で、一旦立ち止まってため息を吐いている。
きっと、外にも野次馬が集まってんだろう。
コウヤは、重そうに脚を動かしながら、歩いて道を戻っていった。
もはや、銀色の髪を隠す気はないらしい。

「……ぁ……コウヤ!!」
「おいボウズ、追い掛けんな。あの鬼の側にいると、いつか殺されるぞ。さっきだって、お前らで遊んでたなんて酷いことを言ってたし……」
「んなわけねーだろうが!先生!アイツのこと追い掛けないと!!」
「そうだ……そうだね、ん!クシナ、行けるかい?」
「当たり前だってばね!あんなに言いたい放題言われて、黙ってられるわけないでしょ!!」

オレ達はコウヤの事を追い掛けた。
当たり前だ。
だってアイツは、オレ達まで里の人達からの差別に巻き込まれないようにって、あんなこと言ったのだろうから。
だが、アイツの家に続く道に人の歩いた痕跡はなく、コウヤの家には鍵が掛けられていて、何とか開けて入ってもみたけれど、コウヤはそこにはいなかった。
鬼崎コウヤは、その日から2週間程、誰にも姿を見せなかった。
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