×鳴門

武器屋での買い物を終えて、本屋で教科書を買った後、オレ達は服屋へと来ていた。
忍服という動きやすい服が、忍者アカデミーの制服になるらしい。
オレの場合は忍術よりも、使い慣れた体術メインで行くことになると思うし、ビラビラしてない奴が良いな。

「黒いのが良い」
「そうね!コウヤ君肌が白くて綺麗だし……黒っぽいのが似合うかも!!」
「オレのお勧めは……」
「オビトのお勧めは聞かないことにした」
「なんだとぅ!?」
「あははは、じゃあ皆で色々見ながら選ぼうね!」

色とりどりの服の群れの中に分け入って、目ぼしいものを物色する。
中華服っぽいのから和服っぽいのまで、種類が豊富に揃えてある。
オレは細身の服も良いけど、武道経験もあるし、袴っぽい服も良いかも。
一人で黙々と選んでいたら、クシナさんに声を掛けられた。

「コウヤくーん♪こんな服どうってばね!?」
「それ……女物じゃん」
「コウヤ君なら大丈夫だってばね!」
「やだよオレ……そんな奴着たくない」
「ちょっとだけだってばね!ちょっとちょっと!」
「えー……」

クシナさんが持ってきたのはシンプルだけど、所々にリボンなんかがあしらわれている可愛らしい黒のワンピースタイプの忍服。
1つだけ良いと思うところは、フード付きである事か。
これはちょっと……というかかなり恥ずかしいんだけどな……。
でも、クシナさんのお願いだし……。

『お主も女なんだ。たまにはらしい服を着てみたらどうだ?』
「紫紺までそんなこと……」
『ほれ、さっさと着替えてこい』
「ゔ~……」

ワンピースとクシナの顔を交互に見る。
だいぶ長く悩んでから、オレは渋々頷いた。

「……ちょっとだけ、なら」
「やったってばねー!じゃあ早速着替えましょ!」
「……ゔぅ」

服を渡され、試着室に入って、オレは大きなため息を吐いた。
あぅ……やっぱり嫌だ。


 * * *


「あの……着替えたんだけど……」
「おお!見せて見せて!!」
「……はい」
「……ミナト!ミナト写真ー!!」
「写真はダメ!!」

着替え終わって試着室から出たオレを見たクシナさんは、かなり大きな声でミナトを呼び始めた。
そんな衆知プレー、もとい、羞恥プレーは求めてない!

「ん!よく似合ってるじゃないかコウヤ君!!スゴく可愛いよ!」
「女の子?あれ?オレの目がおかしい訳じゃないよな?」
「み、見るなよ!」

クシナさんに呼ばれて集まってきた二人にも見られてワンピースのフードを深く被って逃げようとした。
いやだってどう考えても恥ずかしい。
こんなに足出すとかあり得ないだろ。
この年でこんな格好無理だもん無理無理。
……見た目とかは関係ないんだからな。
精神的な問題なのだこれは。

「逃げることないってばね!本当に可愛いのよ?」
「そうそう、ほら、写真撮ってあげるよ!」
「い、イヤ!写真はイヤだ!」
「大丈夫大丈夫。……あら、フードに猫耳ついてるってばね!可愛いー!」
『ね、猫耳!?そんな物我は許さんぞ鮫弥!外せ!さっさと外せ!』
「え、紫紺!?」

クシナさんが肩を掴んでミナトがカメラを構える。
……どっから出したんだオイ。
でも写真を取られる前に、首飾りに着けていた黒い石から、紫紺が飛び出してきた。
何言ってるんだこいつは……、てか何で猫耳ダメなんだ意味わからん。
紫紺はべしっとフードを叩いて、オレの頭から脱がすと、用は済んだとばかりに石に戻る。
戻る途中に、もう食えないとか食後の紅茶がどうとかって聞こえたんだが、アイツ寝惚けてたのか……?
いや、そんなことよりも……。

「い、今の何だってばねっ!?」
「お客様、どうかなされましたか!?」

クシナさんの驚いた声に反応して、店員が来てしまった。
慌ててフードを被り直そうとしたが、時既に遅く、店員に素顔を、見られてしまった。

「え……この子……」
「やばっ……!」
「お、鬼の子……っ!!何で!?」

悲鳴のような店員の声が、店内に響く。
店員、客、全員の目がこっちに向けられたのが分かって、オレは大きなため息を吐く。
ああ、やっぱりこうなった。
恐ろしげにオレを見る瞳の群れに、体の芯が冷えていくような気がした。
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