×鳴門

「今日はね、君にアカデミーの話をしに来たんだけど……」
「むぐ……その話、朝飯中じゃなきゃダメかぁ?」
「そうだぜ先生、朝飯食ってからの方が聞く気になると思うし、一緒に食おうぜ」
「ん、なんでオビトはコウヤ君の家にいるのかな。しかもこんな朝っぱらから……」

何故かあの日から、オビトが家に遊びに来るようになり、ある日二人で遅めの朝飯を食べていたら、唐突にミナトが訪ねてきた。
オレ達が朝飯を勧めるのを丁重に断り、オレらが食事を終えるのを待ってから、ミナトは話を切り出した。

「えー……とね、コウヤ君、アカデミーへの登録はこっちで出来てるんだけれど、必要な教材とか武器とか、忍服とかもないだろ?一緒に買いにいこうかと思ってね」
「必要なものを書き出してくれれば一人でも行けるぜ?」
「んな寂しいこと言うなよ。オレも付き合うぜ!」
「えー……」

ミナトとオビト、二人に言われてしまうと、断るのも悪い気がする。
渋々頷いたオレに、ミナトはまたニコニコと笑いながら話す。

「と言っても、オレらじゃ足りないこともあるだろうし、助っ人に知人を連れていくことになってるから」
「は?知人?恋人の間違いだろぉ」
「え!?先生恋人いたのか!?」
「いや恋人って言うか……コウヤ君、なんでそんな事思ったの!?」
「勘」

これでも人生2回分を生きてきたのだ。
ちょっとした表情の機微で、ある程度の事は気付ける。

「ミナト、少し表情が優しく見えたぜ」
「そ、そうかな……?」
「オレ全然分かんなかったんだけど……」
「そう簡単に、わかることじゃねーよ」

ふっと笑って椅子から飛び降りる。
買い物に行くならそれなりの準備して……まだ寝てる紫紺を起こさなくては。
アイツ、寝起き悪いから面倒くさいなぁ。

「5歳にしてあんな事がわかるなんて……人生って深いな……」
「いや、どう考えても5歳の発言じゃないでしょ……。オビトの何でも受け入れちゃうところって良いところだと思うけどね、少しは疑問を持った方が良いよ?」

二人のそんな会話が背中を追いかけてきたけれど、オレは気にせず自室に入っていった。


 * * *


「準備できたぜ」
「随分ゆっくりだったね……って、どうしたのその重装備!?」

自分の部屋から出てきたオレに、ミナトとオビトは目を剥いて驚く。
オレは頭をニット帽を被って隠し、分厚い眼鏡を掛けて目も隠していた。
と言っても、遅くなったのは紫紺を起こすのに手間取ったから、なんだが。

「これなら、直ぐにはオレってわかんねーだろぉ?」
「確かにわかんねーけど、何で隠すんだ?」
「何でって……オレが鬼崎だってわかると、店追い出されたりするから」
「あ……」
「そんな事気にしないでも良かったのに。オレがいるから追い出されたりしないと思うし」
「でもトラブルにはなるかもしれねぇだろ。……それに、あんたらに迷惑かける事になるだろうし」
「オレ達に?」
「それこそ、気にしなくて良いんだよ、コウヤ君」

安心させるように笑みを浮かべるミナトに、オレは肩を竦めた。
別にそう言うなら、後は自己責任で良いんだけど、きっとオビトは分かっていないんだろうなぁ。
不思議そうな顔のオビトの袖を引き、オレは二人を促した。

「じゃあ、さっさと買い物行こーぜ」

3人で家を出た。


 * * *


家からちょっと歩いたところに、そこそこ賑わう商店街がある。
そこまで大人の足で30分くらいか。
オレは毎回道から外れて直線に進む上に走っていくから、だいたい20分とか15分くらい。
でも今日はミナト達がいるから、道なりに30分歩くのかなーと思ってた。
そう、ミナトがオレを抱き上げる前までは。

「うわっ!何すんだよ!?」
「ん!時間が惜しいからね!ちょっと走るよ!オビトはしっかり着いてきてね」
「はいっす!」
「はあ!?ちょっとまっ……きゃう!?」

他人の腕の中という途方もなく不安定な運ばれ方で、オレは舌を噛んだ上に酔ってしまったのである。

「全く……、お主はもう少し加減というものを知れ」
「いやぁ、まさかこんなに弱いとは思わなくて……。ごめんねコウヤ君、大丈夫?」
「だいじょーぶなわけねーだろ……」
「……本当にゴメンね」

商店街の入り口の端っこで蹲って青い顔をするオレの背を、オビトが心配そうに擦ってくれていた。
自分が超スピードで移動するなら良いけど、他人の移動は酔う……。
紫紺までが心配そうに出てきてミナトを叱っているもんだから、たまに通り掛かる人に変な目で見られる。
今だって、綺麗な女の人が変な目で見て……あれ?

「ミナトー!何してるってばね?」
「クシナ!いや、ちょっとね……」
「あ、クシナさん!」
「オビトも、久々ね!」

どうやら綺麗な女性……クシナさんと言うらしい彼女が、今日の助っ人らしい。
オレはヨロヨロと立ち上がると、彼女の服にしがみついた。

「うん?えっと君は……?」
「お姉ちゃん……ミナト兄ちゃんが虐めるの……」
「ええっ!?」
「何したんだってばねミナト!」

涙目で震えながら訴えかければイチコロだ。
人生三周目のオレに掛かれば、この程度チョロいもんだぜ。
怒るクシナさんのスカートを掴んだまま、ミナトにだけ見えるように舌を出した。

「コ、コウヤ君!?確かにオレも悪かったけどここまですることないでしょ!?」
「ミナト言い訳するつもりだってばね!?」
「お姉ちゃん助けて……?」
「コウヤ君ー!」
「任せろってばね!」

その後ミナトがぼこぼこにされるまで5分、オビトが頑張って事情を説明して和解するまで5分。
そして結果的に大笑いしたクシナさんは、オレが鬼崎だと知っても抵抗なく受け入れてくれた。
ミナトには勿体ない女性である。
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