×鳴門

「オレは猫が喋ってんの見たことあるぜ?」
「私は先生の蝦蟇が喋ってるのを見たことあるよ。だから狐が喋ってても、そこまで驚いたりはしないかな」
「そうだったのか」

冷水を掛けて起こしたせいで、少し拗ねている紫紺を洗いながら、オレは二人に余り驚かなかった理由を訪ねていた。
オレは知らなかったのだが、この世界には、忍者と契約して力を貸してくれる忍獣、みたいな存在が数多存在するらしい。
メジャーどころだと忍犬、忍鳥。
少しマイナーなところだと猫や蛇、蛞蝓に蝦蟇など……色んなモノがいるらしい。
しかもそいつらの中には、流暢に人の言葉を喋る奴もいるのだとか。
成る程、それなら確かに狐が喋ってもそこまで驚かないか。

「でも狐ってのは聞かねぇなー。なんかほら、九尾の妖狐?っての、思い出すとか言って、里の爺婆は狐とか好きじゃねーらしいぜ?」
「九尾……って?」
「コウヤ君は知らないのね。九尾って言うのはね、物凄いチャクラを持った9体の尾獣の内の一匹で、ずぅっと昔に、火の国の外れで大暴れしたって言われているの」
「爺ちゃんいわく、九尾は天災の様なもの、なんだってよ」
「へぇ」

それはまたおっかない動物がいるものだ。
オレの知っている九尾は、油揚げとケーキが好きで、尻尾のブラッシングをしてもらうのが趣味という、セーラー服の美人な……まあ羽衣狐なんだけどよぉ。

「ふん、人に害するしか脳のない獣と我を同じにするな!我は高貴な狐なのだからな!」
「そうかそうかー。で、その高貴な狐様、今からドライヤーするからじっとしててくれよなぁ」
「むぎゃ!?」

ぷんすか怒って反論してくる紫紺に、オレは容赦なくドライヤーの熱風を浴びせた。
前足で目を覆っている様子は堪らなく可愛らしいが、だからってお持ち帰りはダメなんだからなリン。
オレは撫で回したそうに手をわきわきとさせているリンから、然り気無く紫紺を遠ざけると、逃げないように足で体を固定してドライヤーを掛ける。

「おい!乱暴にするな!」
「これ以上なく優しくしてる」
「むぎゃー!?」

オレ的にはかなり優しくしてやってるんだけどな、オレ的には。

「そう言えばよぉ、コウヤは今5歳だろ?アカデミーには行かないのか?」
「唐突だなぁ……」
「だって気になったから」

オビトはなんだか、勝手気ままに動く動物っぽいよな。
その時々の感情に任せて動いてるみたいだよなぁ。

「……この時期からじゃあ中途半端になるから、次の学期からちゃんと入るんだと。まあ、アカデミーレベルならわざわざ習う必要もないだろうけど」
「はーあぁあ!?おんまえ、忍者なめてんだろ?そんなムカつくこと、あのカカシでも言ったことねぇぞ!!」
「落ち着きなってオビト!でもアカデミーは、忍の基礎の全てを教えるところよ。コウヤ君が考えるほど甘くないの」

アカデミーには通わなければならない。
これは絶対の事で、オレも納得している。
でも本音を言えば体も頭も、オレはしっかり鍛えていて、忍術も基礎的なものは独学でだいぶ理解してきているし、アカデミーの教本みたいなの見たことあるけど、ぶっちゃけあの程度、今さら習うまでもない。
でもオビトとリンは納得いかないみたいだから、オレは大きくため息を吐いて彼らを地下へと連れていくことにした。
地下にある書庫へと。


 * * *


「うぉお~!でっけぇ!」
「本当……たくさんあるのね」
「ここに昔のアカデミーの教本があったから読んだけど、あれくらいなら簡単に出来るし、むしろ物足りないくらいだった」

書庫の中、手前の方の棚から教本を取りだし、オビトとリンの方に投げる。
受け取ったオビトがパラパラと捲りながら見ていたが、リンはそれよりも書庫の方が気になるのか、本の壁に忙しなく目を走らせる。

「ここにある本、見ても良い?」
「良いぜ」

ここには様々な本がある。
子供向けの絵本とか、古い巻物とか、一族の秘伝書とか、本当に色々なもの。
リンは目敏く一族の秘伝書を手に取ると、それを開いて首を傾げる。

「これは……?」
「家の一族の秘伝書。一族以外には読めないようになってるから、どれだけ見てもリンには読めないよ」
「あ、大事なものだよね!?ごめんなさい、勝手に取り出して……」
「オレが見て良いって言ったんだから、リンが気にする必要はねーよ」

リンから秘伝書を受け取り開くと、ぐねぐねとのたうつミミズのような線の群れが顔を出す。
暗号ってレベルじゃあない、一族以外の人間が読めば、だけど。
オレにはこの文字、何故か読めるのだ。
読めると言うか、意味がすらすらと頭の中に入ってくる。
オレは彼ら二人に教えても問題の無いところだけ、読み上げていった。

「鬼崎は鬼の一族である。古く、人を殺しすぎた祖先は呪いを受け、その子供の代より、我らの肌は、髪は、瞳は、色を失い、そして額からは角が突き出し、我らは鬼と呼ばれるようになった」
「え?」
「ここにはそう書いてある」

巻物を広げていくと、鬼崎が鬼となるよりも昔の事までが記されている。

「鬼崎とは後々より付いた名である。鬼崎は元を気裂と書き、空間を裂き、新たな空間を創造する、時空間忍術の使い手の一族であった」
「え、そうだったのか!?」
「ん……オレ達鬼崎は、元は鬼じゃなく、気裂きの一族、時空間忍術の使い手達の事だったらしい」

気を裂く、つまり空間を裂く力を持った一族、それが鬼崎だった。
いつからか鬼となり、そのため気裂が鬼崎と書くように変わっていってしまった。

「なんかカッコいいな!」
「でも最近じゃあ、その時空間忍術ってのが使える人は出ていないらしい」
「やっぱり時空間忍術って、特Sの超高等忍術だもん。そう簡単に使えるようにはならないよ。ミナト先生くらいの凄い忍者にならないと、時空間忍術はなかなか使えないよ」
「……ミナトは時空間忍術が使えるのか?」
「そう!だからこそ次期火影にもなれるんだよなぁ」

感心した様子で語るオビトとリンに、オレは先程の事を思い出す。
突然ミナトが目の前に現れたアレ、アレも時空間忍術の1種なのか?
秘伝書の中の時空間忍術は、空間切断や空間創造の技術が主に書かれていたから、全く考えもつかなかったけれど、時空間忍術には色々と種類があるみたいだ。

「時空間忍術か……調べてみねぇとなぁ」
「……さっきから考えてたけどさ、コウヤお前、本当に5歳?」
「しょーしんしょーめーの5才だもんっ」
「あざといわね……」

何だかんだでその夜は楽しく話し、朝に二人に飯を作ってやったら、その後よく遊びに来てくれるようになった。
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