×鳴門
「何て言うかその……趣のある家、だな?」
「人殺しのあった家を趣のある、なんて表現するなら、お前趣味が悪いぞ」
「い゙っ!?」
森から帰ったオレは、家を見張っている暗部の奴らをちょっと気絶させてから中に入る。
そして家を見て直ぐに、そんな感想を漏らしたうちはオビトに、呆れた視線を向けながら、オレは彼らに来客用のスリッパを出して、居間まで案内した。
ミナトの助けもあって、部屋はだいぶましになってはいたが、それでもまだ、壁には抉れた跡が残っていたし、天井や床などに落としきれなかった血の跡が残っている。
そこから更に通り過ぎてキッチンへ。
そこは敵が入ってこなかったらしく、居間と繋がる扉の周辺以外は傷も血の跡も付いていない。
ここを通る度に想像する。
母はきっと、敵が来たときキッチンにいた。
敵に気付いて、そして奴らがキッチンのドアを開けたその瞬間に、不意をつく形で攻撃したんじゃないのだろうか。
どれだけ考えたところで、それは想像に過ぎないけれど、それでもまた、考えてしまう。
「母さんはついこの間、あの部屋で死んだ。殺されたから、敵の方も、母さんの方も、だいぶ暴れたらしくて、片付けてはいるけれど、まだ散らかってる。キッチンで我慢してくれ」
「随分と、淡々と語るんだね」
「……そうだな」
精神が成熟してしまっているせいで、オレはどうしても、感情的にはなれない。
その瞬間は確かに酷く動揺したし、苦しくて堪らなかったけれど、嘆いても意味がないことは、これまでの経験から痛いほど分かっていた。
残念ながらオレはもう、人前で無様に泣くほどには若くない。
はたけはオレの返しに少し拍子抜けしたのか、形の良い眉をしかめていた。
「で?あの森の怪異とお前の関係とか、あの幻術みたいな奴の事とか、教えてくれるんだろう?」
「……そうだな。でもそれが誰かに話しても良い事かどうかは、ミナトが決めてくれるか?」
「ん?オレが?」
「ああ、ミナトなら、きっと正しく判断してくれるだろぉ」
「そんな過剰に信頼されても困るんだけどね……」
困ったように笑うミナトはそのままスルーして、オレは4人に椅子をすすめてから、話始めた。
「ずっと前に紫紺とは知り合ってたよ。そんでその時、相棒になった。でもしばらく会えなくて、だから紫紺は寂しくなって、あんな悪戯をしていたみたいだ。それがどんどん悪質になっていっちまったみたいだなぁ」
「……ちょっと、抽象的すぎてほとんどわからないんだけど。だいたい君5歳くらいでしょう?ずっと前って何ヵ月前の話?」
「えーと……コウヤ君、いつどこで紫紺っていう人と会ったのか、教えてもらえるかな?」
「紫紺は人じゃない。小さな狐だ」
リンに尋ねられて、オレは今まで隠していた紫紺を、服の中から出して見せた。
だいぶ厚着して着膨れてたから、3人の意識からは外れていたらしく、現れた紫紺に驚かれる。
「も、もふもふ……!」
「か、可愛いじゃねーかオイ!」
「ちょっと、いくら無害そうに見えても怪異を起こしていた原因だよ?
下手に触らない方が良い」
丸まって寝ている紫紺に、リンとオビトは歓声を上げる。
対してはたけは相変わらずクールな様子だ。
オレが言うのも難だけど、可愛いげがねぇな、コイツ。
「紫紺と会ったのはここからずっと離れた場所だ。……それ以上は秘密。オレだって、自分の身が危険に晒されるかもしれないことは言いたくねぇよ」
「どういう意味だ?」
「紫紺との事は話しすぎると、オレにとって不利になりかねない、ってことだぁ」
前世の事とか話したりしたら、オレの力は里の内外から狙われることになる。
この世界にはない知識、この世界にはない力、そんな喉から手が出るほどほしい情報が、この脳ミソに詰まっている。
そんなこと、言った瞬間にオレの平穏は閉ざされるんだから。
「……言う気がないなら、オレはそれで良いよ」
「先生!でも……!」
「無理に聞き出して、君を敵に回したくないからね。カカシも、わかってくれるね?」
「ですが……!」
「カカシ」
「……はい」
食い下がるはたけだったけれど、ミナトに強く言われると逆らうことは出来ないらしく、しゅんと項垂れて引き下がった。
「あと、あの幻術の事だったかぁ?あれは……上手く説明できねぇけど、まあオレ固有の技、みたいな?一応、そういう技を持ってることは、上層部の人間も知ってる」
「……そうだね、確かに。彼が不思議な技を持ってることは、三代目もご存じだ」
「ですがあの術は……、普通の幻術とは違っていました。放っておかずに、何か措置を施した方が……!」
「オレの措置どうこうなら、この前きっちりと火影サマ達と話つけてきたぁ。お前が今さら何言ったってかわらねぇよ」
はたけにそう言うと、何か感じることがあったのか考え込んでしまう。
オレはこれ以上を話す気はなかったから、話は終わり、と紫紺をもう一回抱え直した。
「コイツ、結構汚れてるみたいだから、洗ってやりたいんだぁ。あんたら全員、どうするの?」
「オレは報告書を書かなくちゃ。……ま、異常なしって書くしかないかな。みんなもこの事、他言は無用ってことで、後は好きにして良いよ!」
思ってたけど、ミナトって結構放任主義だよな。
オレの事も、気にかけてるようで結構手放しだし。
でも、次期火影ってだけあって、やっぱり強いんだよな。
さっき捕まった時だって、ぶつかるまで気配を全く感じなかった。
と言うか、突然その場に気配が現れたようにさえ思う。
何かの忍術なんだろうか。
これからは忍術の勉強もしっかりしていきたいな。
「……オレは帰ります」
「おうおう、バカカシはさっさと帰れ。なーコウヤ、オレそいつ洗うの手伝ってやるよ。一人じゃ大変だろ?」
「私は……えーっと、私も手伝って良いかな?コウヤ君」
はたけは帰るみたいだった。
むっつりしてて本当、機嫌が悪そうだ。
変に話しかけない方が良いんだろうな。
そしてオビトとリンはオレを手伝うと言ってきた。
さっきオレがはたけを転ばせて踏みつけたこと、忘れているのだろうか。
危機感足りてないんじゃないか?
まあ、この小さな体は不便だから、助かるっちゃ助かるんだけど。
「オレは構わねーけど、二人はそれで良いのかよ?」
「は?なんで?」
「さっきアイツの事転ばせたりしたし。普通は嫌うだろ、オレの事」
「まっさか!カカシの事転ばせた時なんかは、オレむしろスカッとしたぜ!」
「もうオビトったらそんなこと言わない!私は……確かにコウヤ君は強いみたいだけど、5歳の子を一人で放っておくのは出来ないよ。それにさっきのはカカシの言い方も悪かったと思うしね。……ね、カカシも一緒にお手伝いしない?」
なんだか、それぞれ言い分があるらしく、オレは微妙に納得がいかないまま頷く。
オビト、それで良いのか?
「……言ったでしょ、オレは帰るって。得体の知れない奴と一緒になんていられないからね」
「カカシ、またそんなこと……」
「気にすんなよなコウヤ。アイツお前にしてやられてイラついてるだけだし」
気にしてはいない。
つぅかオレだって、得体の知れない奴と同じ空間いるのは嫌だ。
同じ状況ならはたけと同じ行動を取ると思う……いや、取る。
オレはミナトとはたけを見送ってから、オビトとリンと一緒に紫紺を叩き起こしてお湯で体を洗ってやった。
「いきなり水を掛けるバカがあるか!」
「ごめんって」
そんなオレと紫紺のやり取りに、二人は驚いていた。
だって普通狐は喋らないからな。
でも案外その後は抵抗なく受け入れていて、逆にオレが驚いた。
「人殺しのあった家を趣のある、なんて表現するなら、お前趣味が悪いぞ」
「い゙っ!?」
森から帰ったオレは、家を見張っている暗部の奴らをちょっと気絶させてから中に入る。
そして家を見て直ぐに、そんな感想を漏らしたうちはオビトに、呆れた視線を向けながら、オレは彼らに来客用のスリッパを出して、居間まで案内した。
ミナトの助けもあって、部屋はだいぶましになってはいたが、それでもまだ、壁には抉れた跡が残っていたし、天井や床などに落としきれなかった血の跡が残っている。
そこから更に通り過ぎてキッチンへ。
そこは敵が入ってこなかったらしく、居間と繋がる扉の周辺以外は傷も血の跡も付いていない。
ここを通る度に想像する。
母はきっと、敵が来たときキッチンにいた。
敵に気付いて、そして奴らがキッチンのドアを開けたその瞬間に、不意をつく形で攻撃したんじゃないのだろうか。
どれだけ考えたところで、それは想像に過ぎないけれど、それでもまた、考えてしまう。
「母さんはついこの間、あの部屋で死んだ。殺されたから、敵の方も、母さんの方も、だいぶ暴れたらしくて、片付けてはいるけれど、まだ散らかってる。キッチンで我慢してくれ」
「随分と、淡々と語るんだね」
「……そうだな」
精神が成熟してしまっているせいで、オレはどうしても、感情的にはなれない。
その瞬間は確かに酷く動揺したし、苦しくて堪らなかったけれど、嘆いても意味がないことは、これまでの経験から痛いほど分かっていた。
残念ながらオレはもう、人前で無様に泣くほどには若くない。
はたけはオレの返しに少し拍子抜けしたのか、形の良い眉をしかめていた。
「で?あの森の怪異とお前の関係とか、あの幻術みたいな奴の事とか、教えてくれるんだろう?」
「……そうだな。でもそれが誰かに話しても良い事かどうかは、ミナトが決めてくれるか?」
「ん?オレが?」
「ああ、ミナトなら、きっと正しく判断してくれるだろぉ」
「そんな過剰に信頼されても困るんだけどね……」
困ったように笑うミナトはそのままスルーして、オレは4人に椅子をすすめてから、話始めた。
「ずっと前に紫紺とは知り合ってたよ。そんでその時、相棒になった。でもしばらく会えなくて、だから紫紺は寂しくなって、あんな悪戯をしていたみたいだ。それがどんどん悪質になっていっちまったみたいだなぁ」
「……ちょっと、抽象的すぎてほとんどわからないんだけど。だいたい君5歳くらいでしょう?ずっと前って何ヵ月前の話?」
「えーと……コウヤ君、いつどこで紫紺っていう人と会ったのか、教えてもらえるかな?」
「紫紺は人じゃない。小さな狐だ」
リンに尋ねられて、オレは今まで隠していた紫紺を、服の中から出して見せた。
だいぶ厚着して着膨れてたから、3人の意識からは外れていたらしく、現れた紫紺に驚かれる。
「も、もふもふ……!」
「か、可愛いじゃねーかオイ!」
「ちょっと、いくら無害そうに見えても怪異を起こしていた原因だよ?
下手に触らない方が良い」
丸まって寝ている紫紺に、リンとオビトは歓声を上げる。
対してはたけは相変わらずクールな様子だ。
オレが言うのも難だけど、可愛いげがねぇな、コイツ。
「紫紺と会ったのはここからずっと離れた場所だ。……それ以上は秘密。オレだって、自分の身が危険に晒されるかもしれないことは言いたくねぇよ」
「どういう意味だ?」
「紫紺との事は話しすぎると、オレにとって不利になりかねない、ってことだぁ」
前世の事とか話したりしたら、オレの力は里の内外から狙われることになる。
この世界にはない知識、この世界にはない力、そんな喉から手が出るほどほしい情報が、この脳ミソに詰まっている。
そんなこと、言った瞬間にオレの平穏は閉ざされるんだから。
「……言う気がないなら、オレはそれで良いよ」
「先生!でも……!」
「無理に聞き出して、君を敵に回したくないからね。カカシも、わかってくれるね?」
「ですが……!」
「カカシ」
「……はい」
食い下がるはたけだったけれど、ミナトに強く言われると逆らうことは出来ないらしく、しゅんと項垂れて引き下がった。
「あと、あの幻術の事だったかぁ?あれは……上手く説明できねぇけど、まあオレ固有の技、みたいな?一応、そういう技を持ってることは、上層部の人間も知ってる」
「……そうだね、確かに。彼が不思議な技を持ってることは、三代目もご存じだ」
「ですがあの術は……、普通の幻術とは違っていました。放っておかずに、何か措置を施した方が……!」
「オレの措置どうこうなら、この前きっちりと火影サマ達と話つけてきたぁ。お前が今さら何言ったってかわらねぇよ」
はたけにそう言うと、何か感じることがあったのか考え込んでしまう。
オレはこれ以上を話す気はなかったから、話は終わり、と紫紺をもう一回抱え直した。
「コイツ、結構汚れてるみたいだから、洗ってやりたいんだぁ。あんたら全員、どうするの?」
「オレは報告書を書かなくちゃ。……ま、異常なしって書くしかないかな。みんなもこの事、他言は無用ってことで、後は好きにして良いよ!」
思ってたけど、ミナトって結構放任主義だよな。
オレの事も、気にかけてるようで結構手放しだし。
でも、次期火影ってだけあって、やっぱり強いんだよな。
さっき捕まった時だって、ぶつかるまで気配を全く感じなかった。
と言うか、突然その場に気配が現れたようにさえ思う。
何かの忍術なんだろうか。
これからは忍術の勉強もしっかりしていきたいな。
「……オレは帰ります」
「おうおう、バカカシはさっさと帰れ。なーコウヤ、オレそいつ洗うの手伝ってやるよ。一人じゃ大変だろ?」
「私は……えーっと、私も手伝って良いかな?コウヤ君」
はたけは帰るみたいだった。
むっつりしてて本当、機嫌が悪そうだ。
変に話しかけない方が良いんだろうな。
そしてオビトとリンはオレを手伝うと言ってきた。
さっきオレがはたけを転ばせて踏みつけたこと、忘れているのだろうか。
危機感足りてないんじゃないか?
まあ、この小さな体は不便だから、助かるっちゃ助かるんだけど。
「オレは構わねーけど、二人はそれで良いのかよ?」
「は?なんで?」
「さっきアイツの事転ばせたりしたし。普通は嫌うだろ、オレの事」
「まっさか!カカシの事転ばせた時なんかは、オレむしろスカッとしたぜ!」
「もうオビトったらそんなこと言わない!私は……確かにコウヤ君は強いみたいだけど、5歳の子を一人で放っておくのは出来ないよ。それにさっきのはカカシの言い方も悪かったと思うしね。……ね、カカシも一緒にお手伝いしない?」
なんだか、それぞれ言い分があるらしく、オレは微妙に納得がいかないまま頷く。
オビト、それで良いのか?
「……言ったでしょ、オレは帰るって。得体の知れない奴と一緒になんていられないからね」
「カカシ、またそんなこと……」
「気にすんなよなコウヤ。アイツお前にしてやられてイラついてるだけだし」
気にしてはいない。
つぅかオレだって、得体の知れない奴と同じ空間いるのは嫌だ。
同じ状況ならはたけと同じ行動を取ると思う……いや、取る。
オレはミナトとはたけを見送ってから、オビトとリンと一緒に紫紺を叩き起こしてお湯で体を洗ってやった。
「いきなり水を掛けるバカがあるか!」
「ごめんって」
そんなオレと紫紺のやり取りに、二人は驚いていた。
だって普通狐は喋らないからな。
でも案外その後は抵抗なく受け入れていて、逆にオレが驚いた。