×鳴門

人が近付いて来ている。
恐らくミナトが話していた、中忍の探索部隊だと思う。
そう言えばもう、日付は越えていたな……。
匂いを追ってきているのか、それとも何か他の追跡方法でもあるのか。
一応、自分の歩いた痕跡は、消したつもりだったんだが……。
もしオレの消しきれなかった痕跡を辿ってきているのなら、大した実力者……少なくとも中忍レベルじゃあない、と、思うが……。
実際出会った忍なんて数えるほどだし、正面切って戦ったことなんてない(ズルして戦ったことはある)。
上忍に昇格していないだけでその実力は十分、って奴もいる。
今から来るのがどんな奴なのかは、蓋を開けてみなければわからない。
匂いで追われているのならちょっとまずいが……、どんな奴にしろ、この場から上手く逃げないとな。
捕まればオレは立場的に不利だし(『鬼』だからな)、紫紺も見付かったら連れていかれて、何をされるかわからない。

「……コルヴォ」

持っていたリングの中から、霧のリングを指に嵌めて、霧カラスを呼び出す。
同時に幾つかの紙の人形(ヒトガタ)を投げる。
人形を核にして幻術を形成すれば、オレ程度の実力の者でも、かなり有幻覚に近いものを作れるのだ。
作ったのは妖、がしゃどくろ。
と言ってもサイズは本物の十分の一くらいなんだけどな。
その他にも適当な妖を幾つか作り、それらを動かして、中忍どもの足止めにする。
気配が十分近付くのを待ってから、オレは紫紺を抱えて走り出す。
足跡を殺し、息を殺し、気配を殺し、家まで全力で駆け戻った。

「うわっ!?なんだこれ!?」
「チッ!何か向こうに逃げていった!!」
「ここに出る怪異って女の人じゃなかったの!?」

叫び声を背中に受けながら、走って、走って、走って……そして何かにぶつかった。

「ん!やっぱり来てたんだね、コウヤ君」
「なっ……ミナト!?」

ぶつかったのは、突然目の前に現れたミナトのお腹で、肩をガッシリと掴まれたオレは、観念して大人しくなるより他なかった。


 * * *


「ん!じゃ、紹介するね!右から順に、のはらリン、はたけカカシ、うちはオビト。オレが担当している中忍の皆だよ。それから、皆、こっちの子はオレの知り合いの子で、鬼崎コウヤ君だよ」
「知ってますよ。鬼の子、でしょう」
「カカシ!」

ミナトに捕まったオレは、手を引かれて奴らの元に連れていかれた。
中忍の3人組、その内の一人の、はたけとか言う奴がぎろっと睨んで、そう言ってきた。
オレはぶっちゃけ、自分のこと貶されたってどうでも良いと思うが、オレが鬼の子って事は母が鬼ってことになる。
オレは母の事まで貶されて、黙ってられるほどお人好しではない。

「その鬼5歳に出し抜かれた中忍が、何見下した目ぇしてんだぁ?弱いくせに人を見下して意気がってんじゃねぇぞカス」
「……先生、このガキなんなんですか」
「あ、はは……、いつもはもっと大人しい子なんだけどね……。コウヤ君、とりあえず隠してる物、出してもらえるかな」

オレの言葉にピクッと眉を釣り上げたはたけに、オレも負けじと睨み返す。
リンって子はオロオロしているし、オビトってのははたけがイラついているのが楽しいのか、にやにや笑いが隠しきれていない。
そんな様子を困った顔で見下ろしたミナトの言葉に、オレは視線をはたけからミナトに移した。

「……隠しているのは、物じゃない」
「あ……んー、相棒、だったっけ?」
「……今、コイツは疲れてる。それに、あんたらに引き渡したりなんてしねぇからな」
「おい、あんたらって何だ。年上は敬えって教わらなかったのか?」

紫紺を服の中にしっかりと抱き締める。
相当疲れていたのか、こんな状況にも関わらず紫紺はぐっすり眠りこけている。
ミナトを睨み付けて、荒い口調で話しながら後退るオレに、またはたけが声を掛けた。

「所詮、鬼の子に人の礼儀なんてわからないってことか」
「ちょっとカカシ!!」

リンが諌めるものの、はたけはその言葉を撤回する気はないらしく、真っ直ぐにオレを睨み付けてくるそいつに、オレも堪忍袋の緒が切れた。

「っ!待ってコウヤ君……な!?」
「うっ!?」

ミナトの制止と、肩を掴む手を幻術を駆使して振り払う。
突然の事に反応が遅れたはたけの足を払い転ばせ、その喉に足を乗せ、出来る限り低い声で話した。

「次に鬼の子と言ったら喉を潰す」
「ぐっ……!!」
「鬼と呼ばれるオレを軽蔑してるのか、オレみたいな子供にしてやられそうになった腹いせか知らねぇがなぁ、もう一度鬼の子と言ってみろぉ。オレはテメーを許さねぇ」
「コウヤ君、それ以上はオレが許せないよ。カカシから退いてくれるかな」
「……ふん」

倒れ込んで動けないはたけに、ミナトが厳しい顔をしてオレの肩に手を掛ける。
その手をまた振り払い、オレははたけの上から降りて、四人に背を向けた。

「……家に来い」
「え?」
「聞きたいこと、あんだろぉ」

イライラする気分を振り払うように首を振り、獣道を歩いていった。
オレを癒してくれるのは、紫紺の暖かな体温だけである。
大きく吐いたため息が、白く煙となって空へと昇っていった。
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