×鳴門
「おいっ……紫紺!?」
『……許せん……ああ、鮫弥!許せない!何故……何故!』
鋭い鉤爪を剥き出して襲い掛かってきた紫紺は、何故、何故とオレに問い掛ける。
許せない、とは何の事に対してなのか……オレには1つ、心当たりがあった。
「紫紺っ!答えてくれ、お前はオレを恨んでいるのか!?オレが、オレが転生したのに引き摺られて、お前も転生してしまったのか!?それでオレを恨んでるのか!?なあ、紫紺、教えてくれ。お前は今、何を思ってオレを襲っているんだ……?」
『鮫弥……我は、主と共に死した。だが気付けば、我は生まれ変わっていた。きっと、きっと、お前のせいだ!お前が……お前が憎い……!我をこの苦痛ばかりの輪廻に巻き込んだことが……、許せん……!』
「紫紺……!」
妖気と共に、ドロドロとした怒りを感じて、その怒りの中に、苦しみを感じる。
オレはずっと、雨の炎を使って紫紺の攻撃をガードしていたのだが、どうしても堪えきれなくなって、そのガードを外し、紫紺の元へと駆け出した。
『っ……!貴様何をして……!』
「ごめん。ごめんな、紫紺。苦しかったんだよな……、嫌なこと、たくさんあったんだな?オレは……お前が苦しんでいる事も知らないで、のうのうと生きていた。許さなくて良い。でも、誰もオレの全てを知らないこの世界で、またお前に逢えて、オレは嬉しい……」
『こ、鮫……弥……』
「その爪でオレを切りたいのなら、そうしてくれて構わねぇ!紫紺、お前の苦しみが、それで終わると言うのならな……」
『あ、あ……ぁあ……っ!!』
紫紺の爪は、オレの眼前にまで迫っていた。
その爪も、手も、腕も、体も、ガクガクと震えて止まらない。
オレは震えるその体を抱き締め……と言ってもオレの体じゃあ抱き付いたと言った方が正しい気がするが、とにかくその震えを止めてやりたくて、精一杯手を伸ばして、その頭を撫でる。
「大丈夫だぞ、紫紺。怖いことなんて、もう何もない」
『ぐ……ぅ……』
「ずっと一人でいたのか?寂しかったよなぁ、辛かっただろうなぁ。ずっと気付けなくて、ごめんな……」
『鮫弥……鮫弥……我は……』
「んー?」
『気付けば、この森にいた……。お前はどこにも……いなかった……。ずっと、ずっと一人だったのだ……』
「うん、うん」
紫紺はオレを襲うために突き出した手で、恐る恐る小さなオレの体を抱き寄せる。
『ただ、お前に逢いたかっただけなのに……いつまでも逢えぬままだから、次第に、お前が憎く、思えてきたのだ』
「うん、オレに逢いたいと、思ってくれてたんだなぁ」
『お前の事が、嫌いなわけがない。ただ余りにも、一人の時間が長すぎて、我は堪えきれなくなってしまっただけなのだ。許してくれ、鮫弥……。弱いこの狐を、許してくれ……』
「許す、許すに決まってる。このバカ狐、相棒なんだから、そんな水臭いこと言ってんじゃねーよ」
ぐずぐずと鼻を鳴らして、オレに縋り付いて泣く紫紺の体を、幼子をあやすように手のひらで優しく叩く。
妖の癖に、紫紺の体はスゴく温かくて、その確かな体温を感じていると、何だかオレまで泣きたくなってしまった。
この世界でただ一人、スペルビ・スクアーロを知る者。
鬼崎鮫弥を知る者。
「……紫紺、おかえり」
「ああ、ただいま、鮫弥」
いつの間にか紫紺は、小さな狐の姿に戻っていて、オレの腕に収まるほど小さくなったその背を一撫ですると、やがて小さな寝息が聞こえてきた。
その体を隠すように抱き締め、オレは背後を振り向く。
まだ遠いが……何人かの人間の気配が近付いてきていた。
『……許せん……ああ、鮫弥!許せない!何故……何故!』
鋭い鉤爪を剥き出して襲い掛かってきた紫紺は、何故、何故とオレに問い掛ける。
許せない、とは何の事に対してなのか……オレには1つ、心当たりがあった。
「紫紺っ!答えてくれ、お前はオレを恨んでいるのか!?オレが、オレが転生したのに引き摺られて、お前も転生してしまったのか!?それでオレを恨んでるのか!?なあ、紫紺、教えてくれ。お前は今、何を思ってオレを襲っているんだ……?」
『鮫弥……我は、主と共に死した。だが気付けば、我は生まれ変わっていた。きっと、きっと、お前のせいだ!お前が……お前が憎い……!我をこの苦痛ばかりの輪廻に巻き込んだことが……、許せん……!』
「紫紺……!」
妖気と共に、ドロドロとした怒りを感じて、その怒りの中に、苦しみを感じる。
オレはずっと、雨の炎を使って紫紺の攻撃をガードしていたのだが、どうしても堪えきれなくなって、そのガードを外し、紫紺の元へと駆け出した。
『っ……!貴様何をして……!』
「ごめん。ごめんな、紫紺。苦しかったんだよな……、嫌なこと、たくさんあったんだな?オレは……お前が苦しんでいる事も知らないで、のうのうと生きていた。許さなくて良い。でも、誰もオレの全てを知らないこの世界で、またお前に逢えて、オレは嬉しい……」
『こ、鮫……弥……』
「その爪でオレを切りたいのなら、そうしてくれて構わねぇ!紫紺、お前の苦しみが、それで終わると言うのならな……」
『あ、あ……ぁあ……っ!!』
紫紺の爪は、オレの眼前にまで迫っていた。
その爪も、手も、腕も、体も、ガクガクと震えて止まらない。
オレは震えるその体を抱き締め……と言ってもオレの体じゃあ抱き付いたと言った方が正しい気がするが、とにかくその震えを止めてやりたくて、精一杯手を伸ばして、その頭を撫でる。
「大丈夫だぞ、紫紺。怖いことなんて、もう何もない」
『ぐ……ぅ……』
「ずっと一人でいたのか?寂しかったよなぁ、辛かっただろうなぁ。ずっと気付けなくて、ごめんな……」
『鮫弥……鮫弥……我は……』
「んー?」
『気付けば、この森にいた……。お前はどこにも……いなかった……。ずっと、ずっと一人だったのだ……』
「うん、うん」
紫紺はオレを襲うために突き出した手で、恐る恐る小さなオレの体を抱き寄せる。
『ただ、お前に逢いたかっただけなのに……いつまでも逢えぬままだから、次第に、お前が憎く、思えてきたのだ』
「うん、オレに逢いたいと、思ってくれてたんだなぁ」
『お前の事が、嫌いなわけがない。ただ余りにも、一人の時間が長すぎて、我は堪えきれなくなってしまっただけなのだ。許してくれ、鮫弥……。弱いこの狐を、許してくれ……』
「許す、許すに決まってる。このバカ狐、相棒なんだから、そんな水臭いこと言ってんじゃねーよ」
ぐずぐずと鼻を鳴らして、オレに縋り付いて泣く紫紺の体を、幼子をあやすように手のひらで優しく叩く。
妖の癖に、紫紺の体はスゴく温かくて、その確かな体温を感じていると、何だかオレまで泣きたくなってしまった。
この世界でただ一人、スペルビ・スクアーロを知る者。
鬼崎鮫弥を知る者。
「……紫紺、おかえり」
「ああ、ただいま、鮫弥」
いつの間にか紫紺は、小さな狐の姿に戻っていて、オレの腕に収まるほど小さくなったその背を一撫ですると、やがて小さな寝息が聞こえてきた。
その体を隠すように抱き締め、オレは背後を振り向く。
まだ遠いが……何人かの人間の気配が近付いてきていた。