×鳴門

「どう?美味しいかい?」
「……普通?」

そんなオレの感想に、ミナトは不満そうに唇を尖らせた。
母さんの墓を作った後、オレ達は昼食を食っていた。
作ったのは炒飯。
オレは包丁も火も、慣れてるから平気だと言ったのに、ミナトは子供がやると危ないとか言って、オレには簡単なことしか手伝わせてくれなかったから、この炒飯はほぼ最初から最後までミナトが作ったモノ、ということになる。
そして感想を求められた。

「普通ってね、案外落ち込む感想だよね」
「でも普通だ。母さんの炒飯のがずっと美味しかった」
「そっか……、やっぱり彼女には敵わないね」
「でも母さんよりオレのが料理上手いぜ」
「君って案外ナルシストなの?」
「事実だぁ!」

へんっ!と鼻で笑って、オレは自信満々に言い放った。
だって事実、ザンザスや乙女に色々料理を作ってあげてたせいで、オレの料理スキルは結構高い。
あいつら舌が肥えてたから、並みの料理じゃ手を付けもしなかったんだもん。

「じゃあ今度は君の料理も食べてみたいなー、なんてね。もうちょっと大きくなったら僕にも作ってね!!」
「……お前、オレの言ったこと信じてねーだろ」
「そ、そんなことないよ!?」

挙動不審になるミナト。
ぜってー信じてねえ。
五歳だからって舐めてやがる。
オレはムゥッと頬を膨らませて、文句を言った。

「ホントに包丁も火も平気なのに」
「いくらコウヤ君がそう言ったって、まだ子供なんだから、危ないことはさせられないの!」
「……本当だもん」
「ん、本当でもダァーメ」
「……」

ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
ムカつく。
オレはこう見えても、中身はテメーより大人なんだぞ、なんて言えたら良いのに。
子供の体って本当に不便だよな……。

「ほら!ご飯食べ終わったんだし、早く片付けの続きしよ!」
「……なあ、ミナトは何でオレのすること手伝ってくれんだぁ?」
「何でって……、ん、だって一人じゃ大変でしょ?」
「そんなん、次期火影じゃなくても、他にやるやついるだろ」
「それは……色々あるんだよね」
「何だよ、色々って……」

色々な事情、ってのは、予想着く。
オレ達は嫌われてたし、誰も面倒見たがらないんだろうな。
でもきっとそれだけじゃなくて、また狙われないように、そしてオレを忍にさせるための説得係に、ミナトがここにいるんだろうな。

「ミナト、オレはさ、隠されるの、嫌だ」
「……うん、だろうなと思ってた」
「でもオレも隠してることあるから、無理に聞かねぇ」
「……そっか」
「ただ、その隠し事でアンタが嫌な思いすんのは、もっと嫌だ」
「オレが?」
「里の上役から、何か言われてるんじゃねーのかぁ?」

オレの言葉に、ミナトは困ったような顔をして目をそらした。
やっぱり、オレの我が儘で困らせていたのだろうか。
わかってる、自分の言ってることが勝手なことだって。
オレがもし忍者になったら、もっと多くの命が救えるかも知れない。
里をより強く守れるかも知れない。
ミナトは暫く逡巡していたが、諦めたように話し出した。

「……君には下手な誤魔化しは効かないだろうから、正直に言うね。そうだよ。上から、君を忍を目指す気にさせろって言われたんだ。だからちょっと困ってる」
「……昨日も言ったけど、オレは、」
「ん、大丈夫、わかってるよ。君を無理矢理、望まない道に進ませたりはしない。上にはオレが上手く言っとくから……」
「おい間抜け、オレの話最後まで聞けよ」
「間抜けっ!?」

オレの話を遮りやがった馬鹿ミナトの言葉を、更に遮って毒を吐く。
傷付いた!って顔のミナトをべしっと叩いて、オレは宣言した。

「オレは忍にはならねぇ!それは昨日と変わらねぇよ。でもこれが、オレの自分勝手だってことはちゃんとわかってる。だから、お前にその尻拭いさせる気はない!自分のことは自分で何とかする!」
「でもそんなこと……!」
「できる!だってオレだからなぁ!」
「それを根拠に!?メチャクチャだね!?」

つーか出来なくてもやってやる!
どんな手だって使ってやる!
出来なかったら、記憶消すなり何なりして逃亡する!
だからまずは、

「オレを忍にさせたがってる奴について教えてくれ!」
「そんなこと知ったところで、一体何をする気なんだい?君に何か出来るとは……」
「そんなことわかんねぇだろうがぁ!やる前から諦めてんじゃねぇ!このヘタレ!」
「ヘタレとかそういう問題じゃないでしょ!?いいかいコウヤ君、君は子供で……」
「チッ、ゴタゴタと……」

オレがいくら言っても、ミナトはなかなか納得しない。
しつこいミナトに、オレはついに痺れを切らして、強行手段に出た。

「うるせぇんだよカスがぁ!!」
「なっ!?」

立ち上がってテーブルを飛び越える。
驚いたミナトの首に爪を突き立てようとしたが、その手はギリギリで掴まれて止まる。
オレはそこからぐっと顎を引き、ミナトの鼻っ面に頭突きを叩き込んだ。

「うぐっ!?」
「教えやがれこのヘタレ!」
「わかった!わかったから落ち着いてくれ!」
「オレは冷静だぞ。だからテメーに頭突きをかませたんだぜ」
「ドヤ顔ムカつくね!もうわかったから降りてよ!!」
「仕方ねぇな……」

ひょいっと降りて、腰に手を当ててミナトを見上げる。
オレのことを舐めてたら痛い目見るんだぞ、って感じに怒った顔で睨み付けた。

「まあ……失敗したらオレが何とかするか……。もう、無茶するのはダメだからね!?」
「わかってる」
「はぁ……、仕方ないから、教えるよ」
「っし!ありがとな、ミナト!頭突きしてゴメンな。でも手加減はしたからな!」
「子供に手加減されるオレって……」

ミナトは疲れた顔であらぬ方向を見ているけど、オレは上機嫌。
第一関門は突破だな!

「いいかい、一回しか言わないから、しっかり聞いててね」
「お゙う」

ミナトの言葉に、オレは顔の筋肉を引き締めて答える。
ミナトが話してくれたのは、3人の人間の事だった。
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