if群青×黒子、違う世界の人たち

「やはり動物を使ったお陰で、全く怪しまれずにだいぶ近付けたな」
「……いや、一部スッゴい怪しまれてるよ!?特にあの青峰って人!他の人もちょっと怪しんでる人いるし、あとヒバード食べられそうになってるし!!」
「落ち着いてください10代……沢田さん!」
「そーそー、小次郎も簡単にバレたりなんてしないしな!」
「……小次郎は兎も角として、ヒバード大丈夫かな……。珍しくヒバリさんが貸してくれたって言うのに」

ボンゴレ自警団、地下アジトのモニター室で、匣アニマル達から送られてくる監視カメラの映像を見て、綱吉は疲れたように首を横に振った。
白蘭達と話してから数日、敵が予想通り『天才』達を狙って動き出したという報告があり、綱吉達は対象達の護衛のために、幾つかの匣アニマルを動かしていた。
上手く近付けたとどや顔をしているスクアーロを見て、綱吉は思う。
この人、自分が思ってたより天然なんじゃないだろうか。

「まあでも、小次郎達以外にも見張りはつけてるんだろ?あんまり心配しないでも平気なのな!心配しすぎると胃に穴が開いちまうぜ?」
「……うん、そうだね。今回はヴァリアーが全面協力してくれるって言うし……」
「そーですよ!あの骸だって、今回は手を貸してくれてます。ミルフィオーレの奴らだって、協力してくれると言っていますし、瓜達がバレちまってもまた次の手を打てば良いだけですよ!」
「そうだね……とりあえずヒバードが食べられないように、気を付けてれば良いよね……」

今回目をつけた者達には、勿論プロであるヴァリアーの見張りがついている。
だが見張りと言っても、あまり近付きすぎてはバレてしまう。
彼らの目的は、護衛対象をこちらの世界に踏み入らせないこと。
自分達が関わることで、彼らをこちらに引き込んでしまっては、元も子もないのだ。

「で、コイツらが、残党どもに狙われている筆頭の『天才』達、なんすか?」
「バスケの選手なんだろー?単純に『天才』って言うなら他にもいるけど、何でコイツらが最優先保護対象?だっけ、なのな?」
「えーっと、確か……、まずこの人達の才能が、本当にずば抜けてるってこと、……で、次に彼らはバスケ界じゃ有名だけど、あくまで部活、アマチュアだから、突然バスケ界から消えてもそこまで怪しまれない、……あと、才能ある人が密集してるから理由つけて引っ張りやすい……で、あってたっけ?」
「まー、そんなところだろぉ」

綱吉の言葉にコクンと頷いたスクアーロは、画面を見ながら答えた。

「1度の労力で大量の『素材』が手に入るんなら儲けモノだし、何より人数が多いと守る方は厳しいからな。場所も5ヶ所に別れてて、ランダムに色んな所襲いまくって、オレ達が消耗したところ直接叩けば楽に潰せるし、丁度良い獲物だ。……敵の考え予測して多少情報操作もしたし、まあ他に『天才』とか言われてるような奴は、チェデフやミルフィオーレにも頼んでマークしてもらってるし、あいつらもさっさと沢田を潰してぇだろうから、こっちに来るだろう、と、思うぜ」

スクアーロはコクコクと頷きながらつらつらと言葉を並べる。
言葉が適当でグダグダと長いのは、画面に集中しているからだろうか。
画面の中の高校生達のうち、2つのチームが練習をしている。
他のチームは自主練をしていたり休みだったりという理由で、それぞれ自由に行動していた。

「……スゲーのな、コイツら」
「本当、凄いね。オレ素人だけど、この人達が凄いって言うのは、よくわかる……」
「ケッ!これくらい10だ……沢田さんなら楽勝ですよ!!」
「獄寺君、変なハードルの上げ方しないでよ……」

『天才』と、そう呼ばれるだけのことはある、圧倒的な身体能力、卓越したセンス。
そして『天才』と呼ばれる彼ら以外の選手も、相当な実力者が揃っている。
練習風景を食い入るように見詰めるスクアーロに、綱吉は控え目な態度で話し掛けた。

「スクアーロは、この人達のこと、どう思う……?」
「……そうだなぁ」

スクアーロはモニターから目を逸らして、綱吉達に向き直る。
顎に手を当てて考えながら、『天才』一人一人についての考察を述べた。

「暗殺部隊の作戦隊長としての視点から見て、まずコイツら全員、纏めて勧誘したい」
「ダメだからね!?」
「わかってる!だがそうしたい程に、身体能力がバカ高いってことだぁ!この黄瀬とか言う奴、こいつは特に良い。見ただけである程度のレベルで再現できるなんて、垂涎モノの才能だ。次に青峰とか言うの。兎に角べらぼうに身体能力が高い。気配の察知能力も高そうだし、鍛えたら良い戦士になるだろうぜ。次、緑間。腕の筋肉が酷くしなやかかつ頑強。鍛えりゃ良い線いくだろうが、才能というよりは努力がなければ、ここまではこられなかっただろうなぁ。5人の中では、保護優先度は低い。紫原とか言う奴は、やたらと図体がでかい割りに、動きはなかなか早いし、間合いも長い。一発逆転も可能なパワーを秘めている。で、最後が赤司ってのか。相手の動きを先読みできる目ってのは、喉から手が出るほど欲しい代物だぁ。戦闘技術叩き込んでやれば優秀な戦士になれる」
「スクアーロが、この人達をスカウトしたいって気持ちがひしひしと伝わってきた」
「その5人の『天才』ってのが通称『キセキの世代』、って呼ばれてるのか」
「で、それ以外にも色々いるんだったよな?」
「ああ」

山本の問いに頷き、スクアーロはモニターを弄って、2つのチームを映す画面を拡大する。

「こっちの赤司がいるチーム、赤司以外のレギュラーメンバー4人の内3人が『無冠の五将』とか呼ばれてるそうだぁ」
「『五将』っつーからには、あと二人いるんだろ?」
「もう一つのチーム、オレのコルヴォが見張ってるチームだな、こっちにいる木吉とか言う奴も『五将』の一人。残り一人はヴァリアー隊員と、普通のカラスが張り付いてる」
「えっと……こっちのチームにいる人も、『天才』って奴なんだよね?」
「火神だな。コイツも青峰ってのに似て、兎に角身体能力が高い。まだまだ成長途中って感じだがな。そんで、オレ的に目をつけてるのは、その隣にいる水色のだ」
「は?水色ってなんだ?」
「あ、この無表情な人?」
「どれなのな?」
「えーとこの……火神さんの隣の……」

1分程の間、獄寺と山本は水色の少年を探して画面に目を走らせ、やっと見つけた時には目を見開いて驚いた。

「コイツいつから居やがった!?」
「何か突然沸いて出てきたみたいなのな!」
「影薄いけど……初めからいたよ?」
「この影の薄さ……、暗殺部隊に適任だと思う」
「だからってスカウトはダメだからねっ!?」

その水色の少年を見るスクアーロの目はかなり本気だったが、綱吉の言葉……というよりツッコミには、しないに決まってるだろ、と憮然とした顔で答えた。
半分以上本気だったんじゃないのかな、と綱吉は思っているのだが、その真意は本人だけが知るところである。

「オレでも初めはなかなか見付けられなかったぁ。沢田が気付いたのは、恐らく、超直感のお陰だろうなぁ」
「流石です10代目ぇ!」
「オレもう10代目じゃないって。……でもこの影の薄さは本当に凄いよね」

感心したように呟かれた言葉に、スクアーロも同調して頷いた。
彼の少年は、その影の薄さをとことん活かし、溌剌とバスケに勤しんでいる。

「……で、目をつけてるのは他にもいる。同チームの伊月、緑間の相棒の高尾。この二人はそれぞれ良い目を持っている。赤司には劣るがな。それから、火神の兄貴分の氷室。後は火神のチームの監督をしている相田、青峰のチームのマネージャーの桃井。こんなところか……」
「え、女子高生なのに監督なの!?」
「スゲー奴がいるもんだなー!」
「いや、個人個人も確かにスゲーが、何より驚きなのは、こんな奴らが一時に集まってるってことだろ!!『キセキの世代』なんて大袈裟だと思ってたけど、こりゃ納得だぜ」

全員が、資料を片手にモニターを眺めて嘆息する。
彼らが分かりやすいように、話ながらモニターを操作していたスクアーロだが、全員が確認し終わると、机を軽く叩いて彼らの注目を集めた。

「今のはオレが狙う場合、どれを狙うかって話だ。だが……、相手側も恐らく今言った奴らを狙ってくる。で、奴らが狙ってくる順序、……ま、優先度順に並べてみた」
「誰が一番なのな?」
「まあ恐らくは『キセキの世代』の全員を狙ってくるだろうが、その中でも特に狙われそうなのは青峰だぁ。才能に溢れていて、尚且つ単純そうな奴だからなぁ。捕まえて教育するには一番条件が良い。同様の理由で次が火神。青峰が上なのは、まあ現在の才能の差だな。これから伸びそうなのは火神だがなぁ」

パシ、パシ、と資料の写真を指しながら、説明をしていくスクアーロの言葉を、綱吉と山本は必死で脳ミソに押し込む。
いくら中学生の頃から鬼畜家庭教師に扱かれていたとしても、そんなに急に頭の回転が早くなるわけではないのだ。

「まあ、そこは納得だな。で、その後ろは?」
「オレの予想としては、だが、黄瀬、赤司、紫原、緑間だな。赤司、紫原は入れ替わるかも知れねぇな。赤司は有能だが、洗脳には手間が掛かりそうだぁ」
「なるほどな」

元々理解の早い獄寺は、スクアーロと二人でどんどん話を進めていく。
ざっくりと話をまとめるなら、警戒レベル最大で警護しなければならないのが『キセキの世代』と火神。
次が『無冠の五将』と伊月、高尾、と言うことらしい。

「あの影の薄い人は?」
「影の……黒子テツヤだなぁ。アイツは……もしかしたら相手に気付かれなさそうなのと、あまり感情的な人間じゃ無さそうだからな。操りづらいだろうから、まあ優先度は低い、……だろうと思う」
「何か最後の方、ざっくりし過ぎじゃねーか?」
「仕方ねぇだろぉがぁ。人の考えなんざ読めねーよ。もしかしたら単純に、身体能力順に狙ってくるかもしれねぇし、背の順かもしれねぇし。下手すりゃ全部同時に狙ってくるかもしれねぇ」
「まー、確かに読めないよね。さらに下手すれば、この人達は狙わないで他の『天才』狙うかもしれないし……」
「そこばかりは、相手が動き出さねぇと想像もつかねぇよ」

敵の黒幕、イエナの居所は不明だ。
コイツが叩ければ、後は向こうが勝手に崩れていってくれるのだろうが、なかなか相手は尻尾を出さない。
こちらと違って、簡単に人海戦術を組める敵に、もし一斉に全ての『天才』達が襲われれば……。

「全員、守りたいよね」
「……なら、荒業に出るしかねぇだろ」
「荒業?」
「それぞれの学校に、守護者級の人間をバランスよく配置して守る。……こうなったとき、もし一点集中で来られると、キツくなるがなぁ」
「でも、全てを守るなら、そうするしかないんでしょう?」
「全員纏めて守りましょう沢田さん!!シモンにミルフィオーレ、チェデフやヴァリアーに協力を仰げば、きっと上手くいきます!」
「そーだぜツナ!」
「うん……、うん、そうだよね!」
「……と、なると。問題は各々の配置と、怪しまれずにどのように接近するか、だな」

話が纏まりかけたその時、スクアーロの言葉に答えるように、部屋のドアが派手な音を立てて開けられた。

「ちゃおっス。オレに任せろ、良い案があるぞ!」
「リ、リ!リボーン!?」

驚く綱吉と、嬉しそうな山本、獄寺の隣で、スクアーロが苦虫を噛み潰したような顔をしていた……。
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