if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

ふっと目を開ける。
夢を見たが、眠りは浅かったらしく、時計を見ればほんの5分も経っていなかった。
バラララ……と、プロペラの大きな音が鼓膜を劈く。
ヘリコプターのドアは大きく開け放たれていた。
「スクアーロ!あの島がそうなのな!?」
眼下に見えてきた小さな島を見下ろしながら、プロペラの音に負けないように声を張り上げる。
スクアーロもまた、大きな声でそれに応えてくれた。
「あ"あ!ここがシモンの聖地、沢田達が戦っている場所だぁ!」
「着陸できそうな場所はございませんから、貴女達にはパラシュートで降りてもらうことになりますわ」
「スクちゃん、俺様が送っていこうか?怪我が酷かったって聞いたぞ」
「ありがとなぁ。だが、一人で行ける。山本ぉ、パラシュートの使い方を教える!こっちに来い!」
スクアーロに話し掛ける、女の子だか男の子だかよくわからない、ぶっとい三つ編の子は、想影真心というらしい。
今このヘリを操縦してくれている女の人、石丸小唄さんの弟子だとか。
何をやっているのかと聞いたら、『レディに秘密は付き物、ですが特別にお教えしましょう。私のお仕事は大泥棒。大泥棒の石丸小唄ですわ』とのこと。
月とか盗むのか?と聞いたら、そんな価値もなさそうなものに興味はないとのことだった。
あの赤い人……哀川さんとの勝負ならやってもいいとか。
どこまで本気なんだろうな?
でも、二人とも優しくて面白い人だ。
「お二人とも、ちょうど良さそうな場所が見えてきました。そろそろ」
「あ"あ!使い方はわかったな山本ぉ!」
「大丈夫なのな!」
「じゃあとっとと降りるぞぉ!小唄ぁ!真心ぉ!助かった、今度報酬とは別に礼をする!!」
「あら、お礼なら体で返してくださいな」
「んなっ!」
「お仕事の手伝いで構いませんわ。……あら、何か別の意味に聞こえてしまいましたか?」
「そ、そんなことないのな!」
てっきり別の意味かと思ったのは内緒だ。
小唄さんは意地が悪い。
「じゃあなスクちゃん!今度また俺様と遊ぼうな!」
「怪我しねぇ程度になぁ」
「ゲラゲラゲラ!加減は得意だぞ!」
真心は豪快に笑う。
もしも許されるのであれば、俺もその遊びってのに混ざってみたい。
彼……彼女?はなんだかとても強そうで、でもその強さはどこか……行き着いてしまっているようにも感じる。
どうしてそう思ったのかは、自分にもわからないけれど、彼女の強さが気になった。
「ボーッとしてんな、ドカスがぁ!飛び降りるぞ!3・2・1……!」
「ちょっ!まっ!早い早い早……うわぁ!!??」
せっかちすぎるカウントダウンに、焦っていたら服をひっ掴まれて強制的にヘリからの飛び降りが始まっていた。
髪が全部空に持っていかれそう。
頬には風の塊がぶち当たって、顔の皮がひっぺがされそうになる。
「っ~!!!」
風圧が凄すぎる。
お陰で声すら上げられないまま、近付いてくる地面を前に、オレはなんとかパラシュートを開くことに成功したのだった。


 * * *


「し、死ぬかと思ったのな!」
「ド阿呆がぁ、この程度で死んでたら命が幾つあっても足らねぇだろうがぁ」
「そうかもしんねーけどさ!」
オレの分のパラシュートも片付けながら、スクアーロがけろっとした顔で言う。
こっちはスカイダイビングなんて初挑戦だってのに、本当に容赦がない。
しかし幸いにも、うん本当にラッキーなことに、着地は上手くいった。
場所も悪くなさそうだ。
人の言い争うような声が聞こえる。
ゾクゾクするような殺気と、胸を内から熱くさせるような闘気。
ツナ達が戦っているのだと、すぐにわかった。
「……向こうだな」
「うん」
スクアーロも、敏感に戦いの気配を察知していたらしい。
スクアーロって、零崎は苦手そうだし、裏世界のやつらは化け物だって言ってたけど、スクアーロだって零崎に並ぶくらい強いと思うし、おんなじくらい化け物染みてる。
「……何か失礼なこと考えてないか」
「んなことないのなー。それより、早く行こうぜ!なーんか嫌な感じしねぇ?」
「あ"あ、感じる。腐った死骸みてぇな、吐き気がするような殺気だ」
スクアーロの言い様は、まるで相手を知っているように聞こえる。
そう言えばスクアーロは、シモンの奴らと一人で戦ったんだっけか。
個人的には全員零崎しちゃいたいけど……、ツナもスクアーロもそんなの喜ばないってわかってる。
今のオレじゃあ、普段から零崎を我慢するのは難しいけれど、せめてツナ達がいる内だけでも、いつもの山本武でいたいんだ。
「んじゃあ余計に、皆のこと早く助けにいかねーとな!」
「お"う、行くぞぉ」
スクアーロと共に走り出す。
戦闘はこの木立を抜けた先で行われているようだ。
勢いをつけて地面を蹴る。
木立の先は小さな崖が出来ており、その下に骸っぽい奴と、そいつに殺されそうになってるリーゼントの男がいた。
「っ!水野!」
隣で焦ったような声が聞こえた。
スクアーロの知り合い?
どちらもシモンのはずなんだけど、仲間割れか?
何が起こっているのか考えながらも、オレは崖を飛び降り、二人の間に割って入った。
空気を切り裂く銃弾の音が聞こえる。
オレの耳のすぐ横を掠めた弾丸が、鎌のようなものを持った骸(偽)に飛んでいった。
殺気はない。
牽制のためだろう。
オレは男の鎌を弾き飛ばし、リーゼントの前に立つ。
ん?あれ、この骸(偽)どっかで見たような、……まあ良いか。
「んじゃま、零崎を……始めないんだった」
「ドカスがぁ!アホ言ってるとそこの川に沈めんぞぉ!!」
「うわっ!それは勘弁!じゃあ気を取り直して、助っ人とーじょー!ツナ!獄寺!待たせたな!!」
「や……山本ォ!?」
「それにアイツ!ヴァリアーのスクアーロ!!」
「……ギリギリ、間に合ったようだなぁ」
ツナと獄寺の目が真ん丸に見開かれている。
骸(偽)も口許は笑ってるけど、どうやら驚いているらしい。
後ろで、リーゼントの奴も驚いているのがわかった。
あれ、ヒバリもクロームもいる。
あの不気味な奴らは……よくわかんないけど、嫌な感じのする奴らだ。
そいつらに捕まってるのは、人識兄を襲おうとした女か?
んー、どういう状況なのかさっぱりだ。
どうすれば良いのか迷って、ちらりとスクアーロに目を向ける。
スクアーロも少し、この状況に驚いていたらしい。
眉を吊り上げ、眉間にはシワを寄せて、難しい顔をしていた。
「よぉ、シモンファミリー。ご無沙汰って奴だなぁ」
「ス、スクアーロ……生きて……」
リーゼント……たぶんスクアーロが水野って呼んでたのがこいつなんだろうけど、そいつが絞り出した言葉を、スクアーロは鼻を鳴らして笑い飛ばした。
「死んでるように見えるかぁ?この通りピンピンしてる!そっちは随分とボロボロじゃねぇかぁ。仲間割れかぁ?それともそこの死体くせぇ術士に、裏切られでもしたかぁ?」
「!貴方まさか、D・スペードのことを知って……!?」
「D・スペード……初代霧の守護者だと?…………はっ、道理で腐った肉みてぇな臭いがするわけだぁ」
初代霧の……って、え?どういうことだ?
初代ってことはツナのご先祖様の時代ってことで……、本当に初代霧の守護者だったとしたら、こいつ一体何歳なんだ!?
つーかスクアーロは何で腐った臭いとか言ってるんだろう。
そんな臭いは感じないけど……挑発、なのかな。
「……ヌフフ、まさか再びボンゴレの始末番と合間見えるとは。貴方は今後のボンゴレに必要な人材ですから、ここで殺す気はなかったんですがねぇ」
「オレも、ここで死ぬ気はねぇ」
「口先だけなら、誰でもそういえます。それより、貴方は重症を負っていたはず。どうやってここに?」
「さあなぁ?テメェに答えてやる義理はねぇ、な!」
「っ!くっ……!!」
スクアーロが再び武器を手に取る。
今度は小振りなナイフだ。
D・スペードに向けて投げつけ、下がらせたところで、スクアーロは軽く後ろを振り向いた。
「無事、ではなさそうだがぁ、生きてんなぁ」
「な、なぜだ!!なぜ助けた!?オレはあんたを殺そうとしたんだ!!なぜ助けたんだスクアーロ!!」
オレは、助けてもらったんだから、そんなのどうでも良いじゃん、と思ってしまう。
大事なのは、助けてもらった人に対して自分がどうしたいかだもの。
でもスクアーロは、やっぱり律儀にそれに答えてやっていた。
「……別に、何もおかしなこたぁねぇだろぉ。自分の教え子助ける、死にかけてるガキを助ける、……信念を刃に変えて敵に向ける男を手助けする。そんなの、普通のことだ」
「スク、アーロォ……すまねぇ……!」
「うっせぇ、そもそもオレはあのクソ幽霊ぶん殴りたくて出張ってきただけだぁ!」
最後にそう言って誤魔化しちゃうのが、スクアーロらしくて、思わず笑ってしまった。
オレの後ろに立ったスクアーロに小突かれる。
わかってるって、今はそれどころじゃあないもんな。
「ふん、まあ多少計画に狂いは生じましたが、スクアーロ程度の人間であれば、後々幾らでもすげ替えは効く。狂った計算は、この手で元に戻すまで!」
「……ちっ!う"ぉい山本ぉ、野郎はお前に任せるぞぉ!」
「まかせとけ!へへ、あの亡骸みたいな奴が相手なら、幾らでも本気になれるな!」
首に掛けていたネックレス……新しいオレの武器であるVG(ボンゴレギア)を発動させ、現れた次郎と小次郎に形態変化(カンビオフォルマ)を命じる。
洋装だったオレの姿は、見る間に袴姿へと変わり、腰には二振りの太刀が現れた。
「所属はボンゴレ!雨の守護者山本武!!二つ名はまだねーけど、かっ飛ばして行くぜ!」
「かっ飛ばしすぎて殺すなよ、ドカスが」
「安心しろって!」
普段とは違う、二刀に変化した相棒達を構え直し、腹に力を込めてD・スペードを睨んだ。
「もう立ち上がる気が起きなくなるくらい、叩きまくるだけなのな」
にたりと笑ったD・スペードが飛び掛かってくる。
シモンの聖地での、オレにとっては初めてのバトルが幕を開けた。
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