if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「う"ぉおい、いい加減起きろ山本ぉ」
「う、う~ん?」
大きな声と、ひんやりとした手に揺り起こされて、ゆっくりと瞼を開ける。
太陽の光、遠くに電車の走る音が鳴っている。
まだ馴染んでいない、他人みたいな新しい布団に手をついて、ようやく体を起こした。
「そっか、オレ……」
昨日のことである。
ボロボロの……オレが傷付けてしまったスクアーロとオレを、ヴァリアーのレヴィって奴が、並盛から離れた町にまで送り届けてくれた。
ヴァリアーの基地の一つだと言う建物から、少し離れた場所にある、こじんまりとしたアパート。
人口の少ないこの町で、しばらくオレは、スクアーロと二人で過ごすことになった。
人識兄曰く、人を殺さないためには、裏世界に居続けるのは良くないのだそうだ。
舞織姉が昔、人を殺さない……所謂絶食をしていたことがあったそうなんだけど、その時は表世界で普通の一般人として過ごしていたらしい。
全く衝動を感じなかったわけではないらしいけど、抑えることは出来ていたし、まあその時舞織姉は、両腕を切り落とされて、普通に生活を送ることも難しかったとは言うけれど、でも、皆の元にいるよりはずっと良い、ってことらしい。
ん?でも舞織姉、この間見たときは普通の腕だったような。
オレには難しいことはよくわかんねーけど、つまりはスクアーロと一緒に、一般人として過ごせってことなんだよな。
「う"ぉい!早く来い山本ぉ!」
「今行くのなー!」
これまでの事を思い返していれば、自然と目も覚めてくる。
スクアーロが叫んでいるリビングルームへと慌てて向かい、簡単な朝食を取った。
昨日までは歩くのさえ辛そうだったスクアーロだけれど、何とか動いたり、ご飯の用意をするくらいは出来るまでに回復したらしい。
やっぱりスクアーロは凄い。
スクアーロとならきっと、零崎することもなく、普通の人とおんなじように過ごせると、そう信じられる。
「午後には二人分の服やら何やらが届く。それ以外に必要なもんがあったら、今度買いに出るぞぉ」
「おー、わかったのな」
「……お前の親父には、連絡しなくて良いのか?」
「親父?親父なら大丈夫なのな!きっとオレやスクアーロから連絡がないから、無事に元気にやってると思ってるだろーぜ!」
「便りがないのは……って奴かぁ?まあお前がそう言うなら良いけどよぉ……っ、てて」
「だ、大丈夫かスクアーロ?」
「っせぇ、平気に決まってんだろうが、ドカスがぁ」
一緒に食器を洗ってた時、スクアーロが顔を歪めてシンクの縁に手をついた。
冷や汗を浮かべているのを見て、本当は結構キツかったんだって気付く。
それでも堪えるなんて、スクアーロは我慢強いな……。
でも無理されて倒れられたりしたら心配だし、オレはスクアーロを椅子に座らせようと手を貸す。
食器洗いはもうほとんど終わってる。
後はオレがやるって言ったら、スクアーロは小さく頷いて背凭れに体を預けた。
「……オレさ、親父よりも、ツナ達のが心配だな」
「ああ?沢田達かぁ?」
「うん、船が用意出来次第、シモンの奴らんとこに向かうんだろ?」
「……そうだなぁ。ボンゴレなら、今日の昼過ぎには船や遠征の用意は整えられるだろぉ。日が沈むより前には、目的の場所につくはずだぁ」
後から聞いた、シモンと言う敵の事。
アイツらは、ツナや獄寺、スクアーロ達のことを騙して、ボンゴレ10代目継承式に潜り込み、ボンゴレの大事なものを盗んだんだそうだ。
それを使ってパワーアップをして、ボンゴレを潰そうとしてる。
あの時殺せていたら、ツナ達はこんな危険を冒さないで済んだんじゃないだろうか。
……でも、きっとツナも、他の仲間達も、スクアーロだって、そんな結末は望んでいなかった。
だから命を懸けてオレを止めたんだろう。
「相手はめちゃくちゃ強くて、しかも7人いる。ツナ達は6人だ。……オレが、行けないから」
「行けないだぁ?どうしてそう思う」
「え?」
最後に洗っていたフライパンを持ったまま、オレはパッとスクアーロの方に振り返った。
スクアーロはこっちなんてみちゃいなかったけれど、オレに向けて、しっかりと言葉を重ねてくれていた。
「誰かを助けることも、何かと戦うことも、今後必ず必要になってくる。オレが、お前を止められるくらい回復したら、すぐにでも出るぞぉ」
「で、でもそんなにすぐに回復するような傷じゃ……」
「何のために晴れの炎がある?いや、既に昨日の内に、晴れの炎でかなり回復させてもらってる。この後も炎を使える奴が来て、オレの治療をする。……つーか結構効果でけぇし、明日には出発できるかもなぁ!」
「あ、明日!?」
スクアーロはやっぱりめちゃくちゃだ。
確かに純度の高い晴れの炎はよく効くけれど、だからと言って、あんなに傷だらけになったのに、そんなにすぐに回復なんて出来る訳ない。
出来る訳ない、ハズなのに。
「ふっ……あはは!」
「あ"あ!?なにヘラヘラ笑ってやがる!」
噛み付くように怒鳴られるけれど、この嬉しさは収まりそうにない。
一緒にいてくれるのがスクアーロで本当に良かった。
「スクアーロなら、本当に明日には完全復活してそうだな!」
「はあ?どういう意味だぁ?」
「元気出たってことなのな!うん、スクアーロが動けるようになったら、すぐに出よう。オレはツナの雨の守護者だ。ツナのピンチには、絶対に駆け付けたい。駆け付けなくちゃならないんだ!」
「ふん、そんだけ啖呵切れるんなら、余計なことを言う必要はねぇなぁ。……山本武、てめぇは、山本武のままで、シモンに勝て」
「あったり前だろ!ぜってー勝つ!」
必ず、必ずツナの元へと駆け付けて、オレがオレであることを証明する。
ツナは、オレの戦い方が間違っていると、直さなければならないと言っていた。
……零崎であるオレには、自分の剣が間違っていたなんて思えない。
それでも、山本武であるオレは、皆の悲しむ顔を見ないで済むために、自分の中の道を曲げてだって、『誰も殺すことなく』戦い抜いてやるんだ。
「よっしゃ!じゃあオレ、スクアーロが少しでも元気になれるように、頑張るのな!」
「はあ?頑張るってお前……何すんだぁ?」
「え?……んー、家事?あと、いっぱい飯食ってもらったり。あ!マッサージとか出来るのな!腕折れちまったときに、オレもよくやってたんだ!」
「……家事だけで良い。つーかお前家事なんて出来んのかよ」
心外なのな!
こう見えても、親父の手伝いはよくしていたから、家事もある程度なら出来るはず。
スクアーロみたいに器用には出来ないと思うけど、スクアーロにはしっかり休んでもらわないといけないしな。
余計な仕事はオレが請け負いたいんだ。
「スクアーロはとにかく、ゆっくり体を休めてくれよ!」
「……はあ、仕方がねぇ。今回はお前の言う通り、休ませてもらうとする。オレが休んでる間に、外に出たりすんなよぉ」
「わかってるって!」
「人が来たらオレを起こせ」
「えー」
「新聞の勧誘でも来て、ドア開けた瞬間に殺されたなんてなったら、面倒この上ねぇからなぁ」
「んー……わかったのな」
まだ少し信用がないのは、スクアーロをオレが斬ってしまったわけだし、仕方がないだろう。
よし、まずはバッチリ働いて、スクアーロに信用してもらうことから始めないとな!
寝室に引っ込んだスクアーロを見送ってから、オレは一人、気合いを入れた。
……今日からはちょっぴり、淋しい日々になりそうだ。
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