if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「白蘭に、助けられたんだぁ」
ベッドの上に起き上がったスクアーロは、しばらくの間、言葉を選ぶように黙っていた。
一言目、ぼそりと呟かれた言葉に、その場にいた者達に緊張が走った。
白蘭……マーレリング保有者で、ミルフィオーレファミリーを率いたその男は、10年後の未来で、彼女が本物のS・スクアーロではないと暴きたてた、巨悪とも呼べた男だ。
「なっ……白蘭がスクアーロを!?変なことされなかったか……?」
「別に……。気が付いたら傷が塞がれてて、目の前に白蘭が立ってたんだぁ」
あの人をゾッとさせるような雰囲気は感じられず、ただ胡散臭い笑顔はそのままに、白蘭はこう言ったそうだ。
『傷を完全に治せた訳じゃないけど、少しくらい無茶しても大丈夫だよ。……継承式、行くんでしょう?』
すべて知っているという顔をして、スクアーロに痛み止めを渡して、白蘭は笑いながらその背中を押したという。
「あいつらは、門外顧問に捕まってると聞いてたし、どうやって逃げ出したのかも、どうやってオレを助けたのかもわかんねぇ。あいつらに送り出されてすぐに、山本からのメールに気付いて、ここに急行したしなぁ」
チラリと視線を上げて、スクアーロは山本を視界に映した。
ばつが悪そうにうつ向く山本に、スクアーロは舌打ちをして、声を荒げた。
「山本ぉ、いつまでウジウジしてやがる。オレはこうして生きてるし、てめぇだって誰も殺さなかったぁ。まだ充分、やり直せんだろぉがぁ」
「……うん、ありがとスクアーロ」
「ふん」
声をかけられてもなお、落ち込んだままの様子の山本から視線を外して、スクアーロは話を続けた。
「あの女3人、総角三姉妹は、オレが到着するよりも早くに、ヴァリアーを引き付ける為に城の奥で戦っていたぁ。そこに合流して奴らを倒し、その後お前らの元へと駆け付けたぁ。……そこから後は見ていただろぉ」
「見てたからってわかるもんじゃねーだろ!あ、あげまきとか、裏世界とか零崎とか!その訳わかんねぇのは何なんだよ!?10代目はご存知だったんですか……?」
「その……山本が零崎に向かう前に、ちょっとだけ聞かせてもらったんだ。そんなに詳しくはわかんないんだけど……」
「不愉快だね。僕の並盛でそんな存在が生まれたことも、裏世界なんて反則的な存在を知らなかったことも」
「ヒバリも知らん存在があったとは、極限ビックリだな!だが……山本は山本なのだろう?」
「えっ?」
不安げに沈んだ者や、警戒したように強張る者達の中で、了平だけはいつも通り、ニッカリと太陽のように笑う。
目を見開いた山本に、彼はいつもと変わらないハキハキとした大声で言う。
「至門の奴らを倒そうとしたのも、鈴木アーデルハイトに斬りかかったのも、オレ達や、あの人識という男の為だったのだろう?それに、スクアーロを案じている様子を見ればわかる!零崎だか何だか極限にわからんが、お前はやはり山本武だ!オレは極限に確信したぞ!!」
「……せん、ぱい」
「そうだよ……そうだよ山本!今回は戦い方を間違えてたかもしれないけど、ちゃんと間違えてたって、気付けたでしょう?ならこれから直していけば良い。オレも力になるから……」
「ツナ……」
二人の言葉を受けた山本の顔は、複雑な表情を浮かべていた。
嬉しそうな、それでいて悩ましげな……。
スクアーロは彼に向けられた注意を、引き剥がすように口を開く。
「裏世界だの何だのについては、リボーンから聞けぇ。もうオレから話すことはねぇ」
「……うん。でも後一個だけ良いか、スクアーロ」
疲れたようにうつ向いたスクアーロに、頷きながら声をかけたのはディーノだった。
厳しい視線を彼女に投げ掛けながら、最後の質問を口にした。
「山本と、これからどうするんだ?」
「……は?」
「いや、あの零崎……人識?アイツに頼まれてただろ。山本に殺しをさせたくねぇなら、表で一緒に生きろってさ」
スクアーロはきょとんとディーノを見上げていた。
てっきり、『何故一人でシモンと戦ったんだ』と、そう聞かれるのだと思っていた。
怪訝そうに見上げるスクアーロに、ディーノは少し困ったように眉を下げている。
「あー……お前が何考えてんのか何となくわかるぜ。でも、一人でシモンと戦った理由については、オレにもわかる気がする。無茶したことも、ボロボロになったことも、許せねぇけど、責めたりする気はねぇよ」
「……そもそも、てめぇに責められる筋合いも、許しを乞う気もねぇよ」
「はは、それもそうだけどさ。心配してたんだぜ、オレだけじゃなくて、みんな」
「……」
「これからのことで力になれることがあるなら、何だって言ってくれ。山本だって弟分みたいなもんだしな!たまには兄貴分らしく、カッコつけさせてくれよ」
「……はは、ありがとうございますディーノさん」
山本は力なく笑った。
どうにも、周りの者達との会話にぎこちなさが拭えない。
獄寺や雲雀は、警戒したように山本を見ていた。
彼らの視線の中で、居心地が悪そうに立つ山本に、スクアーロはまた声をかけた。
「山本、外でも散歩して息抜きしてろぉ。沢田達はシモンを追う準備があるんだろぉがぁ、お前は今回別行動だぁ。どっかで時間潰してやがれぇ。……これからのことは、後で一緒に考えよう」
「あ、うん」
「ベル、沢田達が勝つにしろ負けるにしろ、ヴァリアーも準備は進めておけぇ。頼めるなぁ?」
「オッケー」
「じゃあオレも、そろそろお暇するかな」
「……跳ね馬」
「ん?」
「……少し、話したいことがある」
「?おう、じゃあツナ達は先に戻っててくれ」
「はい!」
出ていく者達の間には、微妙な距離が開いている。
最後に山本が出ていったのを見届けて、ディーノはベッドの横の椅子に腰掛けた。
二人以外には誰もいない病室。
じっとディーノを見詰めたスクアーロは、徐に口を開いた。
「シモンは、強いが」
「ああ」
「弱点がない訳じゃねぇ」
「確かに、スクアーロはヴァリアーリングなしで戦ってたんだもんな」
「古里は技を出すまでに僅かなタイムラグがある。手の動きが連動しているから、よく見ればちゃんとかわせる」
「手の動きか……。戦い慣れた奴ならともかく、ツナ達には少し難易度高いかもな……」
「鈴木アーデルハイトは氷の技を使う。距離が近ければ近いほど、氷の強度が増すようだぁ。青葉は鋭い刃物のような、木の葉のような形の炎を使う。笹川と同じ肉弾戦を得意としている。SHITT-P!は、あの鉄の脚のような武器から出る液体で物を溶かす。水野は攻撃力特化型で、武器が大振りだから、当たりさえしなけりゃチャンスはある。大山は防御が得意なようだった。相当な攻撃力がねぇと、本人まで通らねぇ。加藤は幻術使いだぁ。有幻覚も扱える、一流の術士だったぁ」
「わかった、ツナ達にも伝えて対策を立てるよ」
「あいつらの連携は堅い。オレは逃げていたから生きて帰ってこれたけれど、これから攻め込むのはあいつらの本拠地だぁ。ただでは帰ってこれねぇと……」
「スクアーロ」
「……なんだぁ?」
回り続けていたスクアーロの口が、ようやく止まる。
ディーノは膝の上に置かれたスクアーロの手に、自分の手を重ねた。
「話したいことって、本当にその事で良いのか?」
「……」
「オレの勘違いだったら、ごめん。でも違う気がしたから」
「……その……あ、の」
ディーノの言葉に、スクアーロはうつ向いた。
ぽつりと落とした言葉はぎこちない。
実際に戦う綱吉ではなく、ディーノを呼んだのは何故だったのか。
ぐっと握られた拳から、一瞬力が抜けた。
部屋を包む沈黙の中で、スクアーロは小さく口を開いた。
ベッドの上に起き上がったスクアーロは、しばらくの間、言葉を選ぶように黙っていた。
一言目、ぼそりと呟かれた言葉に、その場にいた者達に緊張が走った。
白蘭……マーレリング保有者で、ミルフィオーレファミリーを率いたその男は、10年後の未来で、彼女が本物のS・スクアーロではないと暴きたてた、巨悪とも呼べた男だ。
「なっ……白蘭がスクアーロを!?変なことされなかったか……?」
「別に……。気が付いたら傷が塞がれてて、目の前に白蘭が立ってたんだぁ」
あの人をゾッとさせるような雰囲気は感じられず、ただ胡散臭い笑顔はそのままに、白蘭はこう言ったそうだ。
『傷を完全に治せた訳じゃないけど、少しくらい無茶しても大丈夫だよ。……継承式、行くんでしょう?』
すべて知っているという顔をして、スクアーロに痛み止めを渡して、白蘭は笑いながらその背中を押したという。
「あいつらは、門外顧問に捕まってると聞いてたし、どうやって逃げ出したのかも、どうやってオレを助けたのかもわかんねぇ。あいつらに送り出されてすぐに、山本からのメールに気付いて、ここに急行したしなぁ」
チラリと視線を上げて、スクアーロは山本を視界に映した。
ばつが悪そうにうつ向く山本に、スクアーロは舌打ちをして、声を荒げた。
「山本ぉ、いつまでウジウジしてやがる。オレはこうして生きてるし、てめぇだって誰も殺さなかったぁ。まだ充分、やり直せんだろぉがぁ」
「……うん、ありがとスクアーロ」
「ふん」
声をかけられてもなお、落ち込んだままの様子の山本から視線を外して、スクアーロは話を続けた。
「あの女3人、総角三姉妹は、オレが到着するよりも早くに、ヴァリアーを引き付ける為に城の奥で戦っていたぁ。そこに合流して奴らを倒し、その後お前らの元へと駆け付けたぁ。……そこから後は見ていただろぉ」
「見てたからってわかるもんじゃねーだろ!あ、あげまきとか、裏世界とか零崎とか!その訳わかんねぇのは何なんだよ!?10代目はご存知だったんですか……?」
「その……山本が零崎に向かう前に、ちょっとだけ聞かせてもらったんだ。そんなに詳しくはわかんないんだけど……」
「不愉快だね。僕の並盛でそんな存在が生まれたことも、裏世界なんて反則的な存在を知らなかったことも」
「ヒバリも知らん存在があったとは、極限ビックリだな!だが……山本は山本なのだろう?」
「えっ?」
不安げに沈んだ者や、警戒したように強張る者達の中で、了平だけはいつも通り、ニッカリと太陽のように笑う。
目を見開いた山本に、彼はいつもと変わらないハキハキとした大声で言う。
「至門の奴らを倒そうとしたのも、鈴木アーデルハイトに斬りかかったのも、オレ達や、あの人識という男の為だったのだろう?それに、スクアーロを案じている様子を見ればわかる!零崎だか何だか極限にわからんが、お前はやはり山本武だ!オレは極限に確信したぞ!!」
「……せん、ぱい」
「そうだよ……そうだよ山本!今回は戦い方を間違えてたかもしれないけど、ちゃんと間違えてたって、気付けたでしょう?ならこれから直していけば良い。オレも力になるから……」
「ツナ……」
二人の言葉を受けた山本の顔は、複雑な表情を浮かべていた。
嬉しそうな、それでいて悩ましげな……。
スクアーロは彼に向けられた注意を、引き剥がすように口を開く。
「裏世界だの何だのについては、リボーンから聞けぇ。もうオレから話すことはねぇ」
「……うん。でも後一個だけ良いか、スクアーロ」
疲れたようにうつ向いたスクアーロに、頷きながら声をかけたのはディーノだった。
厳しい視線を彼女に投げ掛けながら、最後の質問を口にした。
「山本と、これからどうするんだ?」
「……は?」
「いや、あの零崎……人識?アイツに頼まれてただろ。山本に殺しをさせたくねぇなら、表で一緒に生きろってさ」
スクアーロはきょとんとディーノを見上げていた。
てっきり、『何故一人でシモンと戦ったんだ』と、そう聞かれるのだと思っていた。
怪訝そうに見上げるスクアーロに、ディーノは少し困ったように眉を下げている。
「あー……お前が何考えてんのか何となくわかるぜ。でも、一人でシモンと戦った理由については、オレにもわかる気がする。無茶したことも、ボロボロになったことも、許せねぇけど、責めたりする気はねぇよ」
「……そもそも、てめぇに責められる筋合いも、許しを乞う気もねぇよ」
「はは、それもそうだけどさ。心配してたんだぜ、オレだけじゃなくて、みんな」
「……」
「これからのことで力になれることがあるなら、何だって言ってくれ。山本だって弟分みたいなもんだしな!たまには兄貴分らしく、カッコつけさせてくれよ」
「……はは、ありがとうございますディーノさん」
山本は力なく笑った。
どうにも、周りの者達との会話にぎこちなさが拭えない。
獄寺や雲雀は、警戒したように山本を見ていた。
彼らの視線の中で、居心地が悪そうに立つ山本に、スクアーロはまた声をかけた。
「山本、外でも散歩して息抜きしてろぉ。沢田達はシモンを追う準備があるんだろぉがぁ、お前は今回別行動だぁ。どっかで時間潰してやがれぇ。……これからのことは、後で一緒に考えよう」
「あ、うん」
「ベル、沢田達が勝つにしろ負けるにしろ、ヴァリアーも準備は進めておけぇ。頼めるなぁ?」
「オッケー」
「じゃあオレも、そろそろお暇するかな」
「……跳ね馬」
「ん?」
「……少し、話したいことがある」
「?おう、じゃあツナ達は先に戻っててくれ」
「はい!」
出ていく者達の間には、微妙な距離が開いている。
最後に山本が出ていったのを見届けて、ディーノはベッドの横の椅子に腰掛けた。
二人以外には誰もいない病室。
じっとディーノを見詰めたスクアーロは、徐に口を開いた。
「シモンは、強いが」
「ああ」
「弱点がない訳じゃねぇ」
「確かに、スクアーロはヴァリアーリングなしで戦ってたんだもんな」
「古里は技を出すまでに僅かなタイムラグがある。手の動きが連動しているから、よく見ればちゃんとかわせる」
「手の動きか……。戦い慣れた奴ならともかく、ツナ達には少し難易度高いかもな……」
「鈴木アーデルハイトは氷の技を使う。距離が近ければ近いほど、氷の強度が増すようだぁ。青葉は鋭い刃物のような、木の葉のような形の炎を使う。笹川と同じ肉弾戦を得意としている。SHITT-P!は、あの鉄の脚のような武器から出る液体で物を溶かす。水野は攻撃力特化型で、武器が大振りだから、当たりさえしなけりゃチャンスはある。大山は防御が得意なようだった。相当な攻撃力がねぇと、本人まで通らねぇ。加藤は幻術使いだぁ。有幻覚も扱える、一流の術士だったぁ」
「わかった、ツナ達にも伝えて対策を立てるよ」
「あいつらの連携は堅い。オレは逃げていたから生きて帰ってこれたけれど、これから攻め込むのはあいつらの本拠地だぁ。ただでは帰ってこれねぇと……」
「スクアーロ」
「……なんだぁ?」
回り続けていたスクアーロの口が、ようやく止まる。
ディーノは膝の上に置かれたスクアーロの手に、自分の手を重ねた。
「話したいことって、本当にその事で良いのか?」
「……」
「オレの勘違いだったら、ごめん。でも違う気がしたから」
「……その……あ、の」
ディーノの言葉に、スクアーロはうつ向いた。
ぽつりと落とした言葉はぎこちない。
実際に戦う綱吉ではなく、ディーノを呼んだのは何故だったのか。
ぐっと握られた拳から、一瞬力が抜けた。
部屋を包む沈黙の中で、スクアーロは小さく口を開いた。