if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「……以上が、スクアーロ様の手帳から纏めた、シモンファミリーの情報です」
ヴァリアーの隊員の話を聞き終わり、誰ともなく、ほうっと息を吐く音が会議室に響いた。
事細かに調べあげられたその情報によれば、シモンファミリーとボンゴレファミリーの間に、深い親交があったのは確かのようで、それはボンゴレI世の遺品からも窺えた。
ボス同士で送りあっていた手紙、贈り物、そのどれからも、二人が憎み合っていたような痕跡は見られず、二人はただの友人のようだった。
「本当に、初代がシモンを裏切ったとは思えないよ……」
「……とにかく、彼のお陰で、シモンの聖地らしき島は割れた」
例えかつては親友同士だったのだとしても、今となっては憎しみ合うマフィア。
これは2つの組織の全面抗争である。
9代目はもちろんのこと、そう考えているようだった。
ボンゴレの全勢力を動かして敵を倒す。
だがその指示を伝えようとしたのだろうその時、彼の言葉は一人の少年に遮られた。
「あの……、お願いがあります9代目」
「なんだね?」
「戦うのは僕だけにしてください」
「なぜだ!!」
「うまく言えないんですけど……、これはボンゴレとシモンの戦争なんかじゃないんだ!!クロームは、オレにとってはマフィアの仲間じゃなくて、友達なんです。元は敵だけど、スクアーロだって……。だからオレは、友達のために戦いたいんです!!」
その言葉に9代目の瞳が揺れた。
畳み掛けるように、10代目守護者達も同調の声をあげる。
彼の部下は当然反対した。
だが一人、ヴァリアーの代表として、会議に参加していたベルフェゴールもまた、10代目達に同調した。
「オレはさーんせー。むしろ聞くけどさ、お前ら本気で全戦力投入~、何てする気なの?しし、バッカじゃん?」
「なんだとヴァリアー!」
「何もかもねーじゃん。全戦力投入?支配下のファミリーどもに、ボンゴレは負けちゃったんで敵を倒すのに手を貸してください、とでも言うつもりなわけ?」
「そ、そんなことが言えるわけが……!」
「ししし、だから全戦力投入するってのはさぁ、内外問わずその事を言い触らすってことじゃん。オレなら、まだシモンが全力出せない今のうちに、極秘裏に始末しちまうぜ。……って、スクアーロならたぶん、そう言うだろ」
「そ、れは……」
守護者達は言い返せない。
確かにスクアーロならば、怒りに任せずに冷静に、まさにベルフェゴールの言うように、判断を下していただろう。
普段の、冷静な状態の幹部たちであれば、同じような判断を下せていただろうが……。
皮肉にも、秘密裏に敵を始末することをスクアーロに強いてきたのは、彼ら幹部だと言うのに。
焦りすぎて、そこまで頭が回っていなかった。
唇を噛む男達の横で、9代目はゆっくりと言い放った。
「シモンファミリーの討伐は、ボンゴレX世とその守護者に一任する。……ただし、リボーンも同行すること」
「!!」
「リボーンに命ずる。お前からシモンへの一切の攻撃は禁ずる!!」
「えっ!」
「わかった」
だがベルフェゴールは、続いた9代目の言葉には不満そうにしていた。
彼らはあくまで、少数精鋭で暗殺をかけることに賛成していただけで、10代目ファミリーが行くことには反対らしい。
しかしそれを口に出すことはなく、もう話し合いは終わったとばかりに、席を立って部屋を出ていく。
「あっ、おいベル……。ロマ!9代目に協力してやってくれ。力になれることがあれば何でもするって!」
「ああ、任せてくれボス」
オレは、ベルフェゴールを追い掛けて急拵えの病室へと向かった。
スクアーロの眠る部屋へ。


 * * *


「……あ、れ?」
「おはようございます、お友達(ディアフレンド)。ようやく目が覚めたようですわね」
「小唄?は?んでお前が……い"っ!」
「動いては傷が開いてしまいますわ」
「傷……?あ、ああ……そうか、オレ……」
目を覚ましたとき、目の前には何故か石丸小唄がいた。
まるで医者のような格好をして、ちょっと小馬鹿にしたように鼻で笑って、つつつっと腹の傷をなぞった。
「う"っ……ぐぁ……」
「痛そうですわね」
「っの……!性悪!」
「あら、手当てをしてもらっておいて、その言い方はどうかと思いますわ。人類最強からの伝言もあると言うのに」
「へ?」
すっと細い指が頬に添えられる。
小唄はオレの耳に唇を寄せ、その伝言を囁いた。
「……あのバカ」
「貴女の事に関しては、あの哀川潤もバカに成り下がるようですわね」
「アイツは、オレがいなくてもバカだ」
悪態をついて目を閉じた。
小唄が離れていく気配がある。
仕事は終わったようだから、さっさととんずらするつもりなのだろう。
薬品の匂い……。
古里炎真の能力に押し潰されて、零崎人識に絞め殺されかけて、……零崎威識に刺された。
我ながら、よく生きていると思う。
「生きてる。オレ、生きてるんだな……」
「そうだ、生きてる。よく頑張ったな、スクアーロ」
「……え?」
ぱっと目を開く。
雪崩れ込んできた光の中に、一際輝く金色があった。
ふわりと頭に手が乗せられる。
「生きててよかった、スクアーロ……」
「ディーノ……」
「しし、思ったより元気そうじゃん」
「ベル……」
「鎮痛剤がちゃんと効いてるようねぇ」
「ふん!まったくしぶとい奴だ」
「ム、さっきよりは顔色がよくなったんじゃないかい?」
「……ルッス、レヴィ、マーモン。お前ら……」
小唄は既にいなくなっていたようで、部屋にはいつの間にか、ディーノとヴァリアーの幹部達が集まってきていた。
小唄の手とは違う、大きくて少し固い、温かい手。
そうっと自分の手を添えてみる。
大分体温が落ちているようだ。
触れることで、自分の手の冷たさがよりわかる。
「んじゃあ、何があったか詳しく聞かせてもらおーか?」
「……ああ」
厳しい視線を向けられて、オレは諦めて目を閉じた。
隠す理由があるわけでもない。
あれだけ見られてしまっては、どれだけ口をつぐんでいたって、こいつらは調べようとするだろう。
ならば、もう話してしまった方がいい。
「は……、いって……」
頭を撫でる手を外して、ぼやけた痛覚をそのままに、無理矢理体を起こした。
例え痛みが抑えられていても、やはりそれが完全になくなることはなくて、思わず呻き声を上げる。
背中に添えられた手は、振り払った。
誰かに助けられてる自分が、情けなくて仕方なく思える。
『意地をはって、まるで子供のようですわ、お友達』なんて、小唄に言われそうだな、と思った。
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