if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
シモンファミリーは、逃げるようにして去っていった。
理由は不明だが、クローム髑髏を連れて。
気が付けば零崎人識も姿を消している。
零崎がいなくなったのを確認し、気が抜けたのか、スクアーロはずるずるとディーノの腕の中に崩れ落ちた。
「スクアーロ……!すぐに医者にみせねぇと‼」
「早く担架を……!」
「いや、オレが運んでいこう!一刻も惜しい!」
「なんで……スクアーロ……」
どくどくと、傷口から流れる血が止まらない。
持っていたハンカチでそれを押さえながら、ディーノはスクアーロを抱え上げた。
山本がおろおろとそれを追おうとするが、ふと視線を感じて立ち止まる。
ヴァリアー隊員が、憎しみすら感じる殺意を、視線に込めて送ってきているようだった。
殺る気なのか?
スクアーロの血で汚れた刀を握る手に、力を込める。
カチッと刀が鳴いた瞬間、思わぬところから現れた手に、山本の行動は遮られた。
「て、めぇ"……!」
「ス、スクア……わー待て!落ち着くのな‼」
「た、隊長!動いてはダメです!」
「何してんだ、スクアーロ!」
「う"る、せ"ぇ……‼」
いつの間に、こんなに近付いてきたのだろう。
ディーノを降りきって、無理矢理に歩いてきたようで、地面に血の筋を残しながら、スクアーロは山本に掴み掛かっていた。
いや、遠目にはすがり付いているようにも見える。
力が出ないのだろう。
胸ぐらを驚くほど力強く掴みながらも、荒く息を吐いて、今にも倒れそうに足をふらつかせている。
躊躇いながらも肩を支えた山本を、スクアーロは下からぎろりと睨み付けた。
「お"前はっ……なんで攻撃したぁ"?オレはっ……オレがあんなに"、死ぬ思いまでして"っ、お前を零崎に送ったのは……!お前を殺人鬼にする為じゃねぇ……だろっ……‼なんでっ、なんで……」
「スクアーロ……?」
「い"てぇん、だよっ……。なんで、殺そうとすんだよ……。お前が、殺したくねぇって、言ったから……オレは……オレ……が……」
「スクアーロ!ダメだ、もうしゃべんな!山本、とにかく今は、この馬鹿を医者のとこまで運ぶぞ!……話は、その後だ」
「あ……うん」
ディーノが、山本に掴み掛かるスクアーロを、力尽くで引き剥がす。
本当にもう、ろくに抵抗する力もなかったのだろう。
なされるがままに、ディーノに抱えられて連れていかれる。
黒い皮手袋を、つっと血が垂れて道を作るのが見えた。
ずくりと心臓が軋む。
「山本」
「ツナ……」
自分の名前を呼ぶ声が、背中から聞こえてきた。
こんなに振り向くのが怖いと思ったのは初めてで、手を握り締めながら、恐る恐る振り向く。
すすき色の髪の毛が見えた。
そう思った瞬間、山本の頬を綱吉の平手が打っていた。
パンっと乾いた音が広間に鳴る。
打たれた山本も、側にいた獄寺も、リボーンでさえも、目を見開いて固まっていた。
「……へ?」
山本の間の抜けた声が静寂に響く。
「……ごめん!山本、オレのことも殴って!」
「え?ツナ?何言ってんのな!?」
「そ、そーですよ10代目!突然どうしたって言うんですか!?」
「良いからする!」
「は、はい!」
ボロボロなのに、自分よりも弱くて小さいのに、その力強い瞳に気圧された。
目をつぶって待つ綱吉の左頬に、べちっと平手を当てた。
殴ろうと思ったら、殺してしまうかもしれない。
頭の片隅をそんな考えが過って、力なんて入るはずがなかった。
そんな山本を、綱吉は不満げに見上げたが、文句を言うわけでもなく、ただ強く山本の腕を引いた。
「ごめん、止められなくて」
「え?」
「スクアーロのとこ、行こう。山本も、心配でしょう……?」
「……うん」
山本は、自分の腕を掴む綱吉の力が増すのを感じながら、傍で見ている獄寺の不安げな視線を感じながら、運ばれていったスクアーロの跡を追うため、足を動かした。
だがそんな彼らを、呼び止める声があった。
「少し待たれい、ボンゴレの若いのよ」
老いて嗄れたその声の主へと、視線を投げる。
そこにいたのは、杖を付きながらも矍鑠(カクシャク)とした老人だった。
「重傷を追ったのは、どうやら人間だけではないようじゃのう?」
その手の中には、破壊され粉々になった、ボンゴレリングがあった。
* * *
「生きているのが不思議なくらいです」
医者いわく、それほどまでにボロボロになっていたスクアーロは、応急処置を終えて、今は継承式会場となった城の一室に横たわっている。
意識はないが、その顔は苦し気に歪み、玉のような汗を浮かべていた。
「抉られたような腹の傷、シモンの攻撃で肩にヒビ……その他にも、身体中に大小の傷だらけ。医者じゃねーが、本当によく生きてる、な……」
「しし、だから言っただろ。スクアーロが簡単に死ぬわけねーって」
額の汗を拭ってやりながら、ディーノは重苦しくため息を吐いた。
生きていたのは良かった。
だがどうして、こんなにボロボロになるまで、一人っきりで戦い続けたのか。
スクアーロが他人を頼りたがらないのは、わかっている。
何よりも、あれだけ拒絶されれば、わからざるを得ない。
並盛での一件を思い出して凹むディーノに、ヴァリアーのルッスーリアから声がかけられた。
「……あなた、裏世界のこと知ってたのねぇ」
「……え?」
「しし、そういやそーじゃん。なんでお前知ってんの?」
「ふん、大方、偶然関わってしまったのを見かねたスクアーロが、仕方なく教えてやったんだろう」
「お前らも、……そっか、スクアーロに聞いてたんだな」
得心して頷く。
あの戦いの場では、たいした動揺は感じられなかったが、それでも彼らは彼らなりに驚いていたようだった。
スクアーロは裏世界のことについてを、あまり人に話したがらない様子だったが、関わってしまう可能性が高い仲間達には話していたらしい。
「そーそー、スクアーロに聞いて裏世界だの殺し名だのは知ってたんだけど……、王子実際見たのは初めて」
「そりゃそうでしょうよぉ。聞いちゃいたけど、まさかあんなに異次元な連中だったなんてねぇ」
「何よりまずいのは、シモンと裏の連中がつるんでいたことだ!」
「ああ、確かに。もしもあの女3人組以外にも、裏世界の奴らが関わってきたりしたら……」
例えリングが復活したとしても、綱吉達だけで太刀打ちできるかどうかはわからない。
むしろ、命を懸けた戦いに慣れていない彼らでは、負ける可能性の方が大きい。
「……とにもかくにも、今はボンゴレ本部だの、ヴァリアーだのといがみ合ってる暇はねぇってことだろ。つーかスクアーロがやられてんだから、オレ達だって黙っちゃいられねーしな。ししし」
「ベルちゃんの言う通り、最低でもシモンにはやり返したいわぁ♥」
「スクアーロなどどうでも良いが、負けたままでは寝覚めが悪い!お互い手持ちの情報を突き合わせて、シモンを追うが得策だろう」
「……そうだな。まずは9代目と守護者達と作戦会議を開いて、今後の方針を決めていこう」
「そーと決まったらさっさと行こーぜ。王子早く決めないと、うずうずして誰か殺っちまうかもしんねーしな♪」
「マモちゃんもそろそろ戻ってきてるかもしれないものね」
ヴァリアーの幹部達が、揃ってぞろぞろと部屋を出ていく。
ディーノはスクアーロの横へと歩み寄り、もう一度その額の汗を拭った。
少しだけ、その苦痛に歪む表情が和らいだような気がする。
頼ってもらえないことが、頼ってもらえなかったことが、酷く悲しかった。
それでも。
「生きてて、良かった」
首に手を当てれば、少し早い脈拍が感じられる。
「……ドクター、後は頼んだからな」
「ええ、任せてください」
スクアーロに背を向け、ディーノが出ていく。
閉められたドアに、ドクターの続く言葉は遮られ、彼に届くことはなかった。
「確りと治療をさせていただきますわ。お友達(ディアフレンド)の危機ですもの、十全に、ね」
理由は不明だが、クローム髑髏を連れて。
気が付けば零崎人識も姿を消している。
零崎がいなくなったのを確認し、気が抜けたのか、スクアーロはずるずるとディーノの腕の中に崩れ落ちた。
「スクアーロ……!すぐに医者にみせねぇと‼」
「早く担架を……!」
「いや、オレが運んでいこう!一刻も惜しい!」
「なんで……スクアーロ……」
どくどくと、傷口から流れる血が止まらない。
持っていたハンカチでそれを押さえながら、ディーノはスクアーロを抱え上げた。
山本がおろおろとそれを追おうとするが、ふと視線を感じて立ち止まる。
ヴァリアー隊員が、憎しみすら感じる殺意を、視線に込めて送ってきているようだった。
殺る気なのか?
スクアーロの血で汚れた刀を握る手に、力を込める。
カチッと刀が鳴いた瞬間、思わぬところから現れた手に、山本の行動は遮られた。
「て、めぇ"……!」
「ス、スクア……わー待て!落ち着くのな‼」
「た、隊長!動いてはダメです!」
「何してんだ、スクアーロ!」
「う"る、せ"ぇ……‼」
いつの間に、こんなに近付いてきたのだろう。
ディーノを降りきって、無理矢理に歩いてきたようで、地面に血の筋を残しながら、スクアーロは山本に掴み掛かっていた。
いや、遠目にはすがり付いているようにも見える。
力が出ないのだろう。
胸ぐらを驚くほど力強く掴みながらも、荒く息を吐いて、今にも倒れそうに足をふらつかせている。
躊躇いながらも肩を支えた山本を、スクアーロは下からぎろりと睨み付けた。
「お"前はっ……なんで攻撃したぁ"?オレはっ……オレがあんなに"、死ぬ思いまでして"っ、お前を零崎に送ったのは……!お前を殺人鬼にする為じゃねぇ……だろっ……‼なんでっ、なんで……」
「スクアーロ……?」
「い"てぇん、だよっ……。なんで、殺そうとすんだよ……。お前が、殺したくねぇって、言ったから……オレは……オレ……が……」
「スクアーロ!ダメだ、もうしゃべんな!山本、とにかく今は、この馬鹿を医者のとこまで運ぶぞ!……話は、その後だ」
「あ……うん」
ディーノが、山本に掴み掛かるスクアーロを、力尽くで引き剥がす。
本当にもう、ろくに抵抗する力もなかったのだろう。
なされるがままに、ディーノに抱えられて連れていかれる。
黒い皮手袋を、つっと血が垂れて道を作るのが見えた。
ずくりと心臓が軋む。
「山本」
「ツナ……」
自分の名前を呼ぶ声が、背中から聞こえてきた。
こんなに振り向くのが怖いと思ったのは初めてで、手を握り締めながら、恐る恐る振り向く。
すすき色の髪の毛が見えた。
そう思った瞬間、山本の頬を綱吉の平手が打っていた。
パンっと乾いた音が広間に鳴る。
打たれた山本も、側にいた獄寺も、リボーンでさえも、目を見開いて固まっていた。
「……へ?」
山本の間の抜けた声が静寂に響く。
「……ごめん!山本、オレのことも殴って!」
「え?ツナ?何言ってんのな!?」
「そ、そーですよ10代目!突然どうしたって言うんですか!?」
「良いからする!」
「は、はい!」
ボロボロなのに、自分よりも弱くて小さいのに、その力強い瞳に気圧された。
目をつぶって待つ綱吉の左頬に、べちっと平手を当てた。
殴ろうと思ったら、殺してしまうかもしれない。
頭の片隅をそんな考えが過って、力なんて入るはずがなかった。
そんな山本を、綱吉は不満げに見上げたが、文句を言うわけでもなく、ただ強く山本の腕を引いた。
「ごめん、止められなくて」
「え?」
「スクアーロのとこ、行こう。山本も、心配でしょう……?」
「……うん」
山本は、自分の腕を掴む綱吉の力が増すのを感じながら、傍で見ている獄寺の不安げな視線を感じながら、運ばれていったスクアーロの跡を追うため、足を動かした。
だがそんな彼らを、呼び止める声があった。
「少し待たれい、ボンゴレの若いのよ」
老いて嗄れたその声の主へと、視線を投げる。
そこにいたのは、杖を付きながらも矍鑠(カクシャク)とした老人だった。
「重傷を追ったのは、どうやら人間だけではないようじゃのう?」
その手の中には、破壊され粉々になった、ボンゴレリングがあった。
* * *
「生きているのが不思議なくらいです」
医者いわく、それほどまでにボロボロになっていたスクアーロは、応急処置を終えて、今は継承式会場となった城の一室に横たわっている。
意識はないが、その顔は苦し気に歪み、玉のような汗を浮かべていた。
「抉られたような腹の傷、シモンの攻撃で肩にヒビ……その他にも、身体中に大小の傷だらけ。医者じゃねーが、本当によく生きてる、な……」
「しし、だから言っただろ。スクアーロが簡単に死ぬわけねーって」
額の汗を拭ってやりながら、ディーノは重苦しくため息を吐いた。
生きていたのは良かった。
だがどうして、こんなにボロボロになるまで、一人っきりで戦い続けたのか。
スクアーロが他人を頼りたがらないのは、わかっている。
何よりも、あれだけ拒絶されれば、わからざるを得ない。
並盛での一件を思い出して凹むディーノに、ヴァリアーのルッスーリアから声がかけられた。
「……あなた、裏世界のこと知ってたのねぇ」
「……え?」
「しし、そういやそーじゃん。なんでお前知ってんの?」
「ふん、大方、偶然関わってしまったのを見かねたスクアーロが、仕方なく教えてやったんだろう」
「お前らも、……そっか、スクアーロに聞いてたんだな」
得心して頷く。
あの戦いの場では、たいした動揺は感じられなかったが、それでも彼らは彼らなりに驚いていたようだった。
スクアーロは裏世界のことについてを、あまり人に話したがらない様子だったが、関わってしまう可能性が高い仲間達には話していたらしい。
「そーそー、スクアーロに聞いて裏世界だの殺し名だのは知ってたんだけど……、王子実際見たのは初めて」
「そりゃそうでしょうよぉ。聞いちゃいたけど、まさかあんなに異次元な連中だったなんてねぇ」
「何よりまずいのは、シモンと裏の連中がつるんでいたことだ!」
「ああ、確かに。もしもあの女3人組以外にも、裏世界の奴らが関わってきたりしたら……」
例えリングが復活したとしても、綱吉達だけで太刀打ちできるかどうかはわからない。
むしろ、命を懸けた戦いに慣れていない彼らでは、負ける可能性の方が大きい。
「……とにもかくにも、今はボンゴレ本部だの、ヴァリアーだのといがみ合ってる暇はねぇってことだろ。つーかスクアーロがやられてんだから、オレ達だって黙っちゃいられねーしな。ししし」
「ベルちゃんの言う通り、最低でもシモンにはやり返したいわぁ♥」
「スクアーロなどどうでも良いが、負けたままでは寝覚めが悪い!お互い手持ちの情報を突き合わせて、シモンを追うが得策だろう」
「……そうだな。まずは9代目と守護者達と作戦会議を開いて、今後の方針を決めていこう」
「そーと決まったらさっさと行こーぜ。王子早く決めないと、うずうずして誰か殺っちまうかもしんねーしな♪」
「マモちゃんもそろそろ戻ってきてるかもしれないものね」
ヴァリアーの幹部達が、揃ってぞろぞろと部屋を出ていく。
ディーノはスクアーロの横へと歩み寄り、もう一度その額の汗を拭った。
少しだけ、その苦痛に歪む表情が和らいだような気がする。
頼ってもらえないことが、頼ってもらえなかったことが、酷く悲しかった。
それでも。
「生きてて、良かった」
首に手を当てれば、少し早い脈拍が感じられる。
「……ドクター、後は頼んだからな」
「ええ、任せてください」
スクアーロに背を向け、ディーノが出ていく。
閉められたドアに、ドクターの続く言葉は遮られ、彼に届くことはなかった。
「確りと治療をさせていただきますわ。お友達(ディアフレンド)の危機ですもの、十全に、ね」