if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「帰れ零崎威識ぃ……。今のテメーに、ここはまだ早い!」
零崎威識という聞きなれない名前で、スクアーロは山本武を呼んだ。
そして、シモンへ向けるよりも警戒した視線を送りながら、近くにいた部下を手で背中側へ押しやる。
山本武は味方であるはずなのに、何故スクアーロはそのような行動をとったのか。
その場にいた者達のほとんどは、疑問に思うこともなく、即座にその理由を理解した。
山本武から迸る、息苦しいほどの殺意。
ただの子どもではない、それどころか、歴戦のマフィアでさえも脚のすくむようなオーラを携えて、彼は崩れた壁の上に立っていた。
「……ひっでーなスクアーロ!オレ、みんなに会うために、頑張って特訓してきたんだぜ?せめて挨拶くらいはさせてほしーのな!」
むっと頬を膨らませて文句を言うその姿は、一見するとただの少年のようなのに、その目を見た瞬間に、誰もが背筋を凍らせる。
ぎらぎらと殺気立ち、血の色を映す、それはまさに殺人鬼の目である。
「……にしても、今日は継承式ってやつなんだろ?なんで皆、こんなとこに集まってんのな?つーか、なんでツナもスクアーロも皆も、そんなにボロボロなんだ?」
「っ!これは……」
「そこにいる、そいつらにやられたのか?」
「ちがっ」
「なら、こっちからも殺り返さないとな!」
「待ておい!」
「っ!ダメだよ山本!」
にっこりと、山本は零崎として目覚める前と同じように笑った。
そして直後、その姿がぶれる。
甲高い金属音。
遅れて伝わってきた殺気に、全員が驚愕の色を顔に浮かべながら、山本武の移動した場所を見る。
「ん?何してんのな、スクアーロ。そこにいたら、オレ、零崎できないんだけどなぁ……。それにツナも、なんで止めんのな?」
「話を聞けぇ!オレはお前に、コイツらを殺せとも、オレ達と共に戦えとも言ってねぇだろうがぁ。今日はもう帰れって言ってんだよ」
古里炎真の、すぐ目の前。
鋭く光る日本刀と、その軌道を遮る大振りなナイフが交差している。
会話を聞いて初めて、炎真は彼らに気が付き、そしてその日本刀の先に自分がいたことに気付いた。
山本武は、情報が全くないにも関わらず、スクアーロの姿と、場の状態だけを見て、躊躇なくシモンを襲おうとしたのである。
そして、S・スクアーロは、そんな彼の攻撃を迷うことなく防ぎ、シモンの前に立った、背中を、見せた。
「なん、で……」
「クソガキどもが……、てめぇら庇った訳じゃねぇぞ。このバカを、止めただけだぁ」
「なあ、スクアーロ、こいつら敵なんだろ?なんで止めるのな?」
「……それがわからねぇ時点で、てめぇは山本武に戻れてねぇんだよ」
「わっかんねーなぁ……。オレは今も昔も、ずっと変わらず『山本武』だぜ?」
「今の自分の顔を見てから言ってみろ。今のてめぇは、殺人鬼の顔をしている」
「んー?そうかな?やっぱわかんねーって」
『山本武』と、『零崎威識』。
その二人の、どこが違うのか。
10代目とその守護者達のみならず、彼を目の前にした炎真にも、それはしっかりと伝わっていた。
彼は、殺人鬼だ。
生きる上で必要な新陳代謝と同じように、人を殺して生きている。
なのに、なのにスクアーロや綱吉の事は、とても大切に思っている。
きっと、彼らが殺されようものなら、零崎威識は尋常ではなく怒るのだろう。
自分は誰かの大事な人を躊躇なく殺せるのに、自分の大切な人が傷付けられると、目の色を変える。
そのアンバランスさが、尚更不気味だ。
「とにかくさ、スクアーロはそいつらに怪我させられたんだろ?オレ、黙って引き下がるなんて出来ないって!」
「コイツらに怪我させられたんじゃねぇ。オレが勝手に怪我した」
「んなー!そんなメチャクチャな!」
「え?そうなのな?うわっ、オレすっげー恥ずかしいじゃん‼」
「信じてるー‼」
「そこら辺は変わらねーな」
こんなときでも、綱吉のツッコミは冴え渡っている。
呆れたようなリボーンの言葉。
確かに彼は、ほんの少し前までは綱吉達の側にいた、山本武その人なのだろう。
だが、彼が零崎威識と呼ばれる存在になったことを、綱吉とリボーン、そしてスクアーロ以外のファミリーは聞かされていなかったらしい。
全員が全員……あの雲雀恭弥までが、動揺した様子で、山本武だった彼を凝視している。
「10代目……こいつが、このヤバい奴が、野球バカ……なんですか?」
「どう言うことだ?極限、雰囲気が違うではないか!」
「ワオ……随分と、変わったみたいじゃないか」
「うそ……本当に雨の人、なの……?」
呆然と呟く彼らに、ようやく山本武は、己の変貌ぶりに気付いたようだった。
ようやく、刀を握る手から力を抜く。
ポリポリと頬を掻きながら、戸惑ったように眉をハの字にした。
「……オレ、そんなに変?」
「……今のてめぇは、まさに殺人鬼だって、オレはさっきから言ってんだろうがぁ」
「……」
「他の零崎は来てねぇのかぁ?お前はまだぺーぺーの新米で、零崎の中じゃあ一番幼い。誰かがお前を見ていないと……」
「カハハ、そりゃーもちろん、保護者がついててしかるべきだぜ。威識君はまだ、プロのプレーヤーとしては全然弱いからな」
「っ!?」
その声は、ボンゴレ幹部と客人達の後ろから、唐突に聞こえてきた。
ハッとして、スクアーロが振り返る。
一瞬遅れて、他の者達も振り向いた。
「カハハ……傑作だぜ。超巨大マフィアとかなんとかっつー、御大層な呼ばれ方してるから、どんなもんかと思って来てみりゃ、スクアーロ以外は全員、ろくに戦えそうもねぇ素人ばっかりだな」
「あれ、人識兄そんなとこにいたのな?オレ迷子になったかと思って探しちゃったんだぜ!」
「迷子はそっちだっての威識君よ」
兄弟同士軽口を叩き合い……人識としては、威識など弟とは思っていないのかも知れないが、それでも傍目には仲良さげな様子で、人識はマフィア達の間を悠々と通り抜ける。
愕然としてそれを見送るマフィア達は、防御の構えをとるでもなく、殺そうと思えば、簡単に一網打尽にできただろう。
しかし人識はそうはせず、のんびりと彼らの間を通り抜けた。
彼がマフィア達から数歩離れる。
その時、突然にマフィア達を囲んでいた氷の檻が崩れ落ちた。
「なっ……!」
アーデルの驚きの声。
それを背後に、スクアーロは人識に向き直った。
「零崎、人識……」
「久し振り……ってほど前でもねーか?まあどうでも良いか。久し振り、スクアーロ」
二人の零崎に挟まれて、スクアーロの背をたらりと冷や汗が伝う。
少なくとも山本は、スクアーロに攻撃をする気はないようだった。
だが、問題はすぐ近くにいるシモンだ。
零崎が彼らを殺さない理由はない。
ゆっくりと吐き出した息は、情けないことに少し震えている。
うまくやらねば、ここにいる者達は殺されてしまう。
人識から目を逸らさず、威識への注意を途切らせないよう気を付けながら、スクアーロはぎこちなく笑った。
「久し振り、じゃねーぞ、くそ殺人鬼」
スクアーロのその言葉に、人識は満足そうに笑みを深めた。
零崎威識という聞きなれない名前で、スクアーロは山本武を呼んだ。
そして、シモンへ向けるよりも警戒した視線を送りながら、近くにいた部下を手で背中側へ押しやる。
山本武は味方であるはずなのに、何故スクアーロはそのような行動をとったのか。
その場にいた者達のほとんどは、疑問に思うこともなく、即座にその理由を理解した。
山本武から迸る、息苦しいほどの殺意。
ただの子どもではない、それどころか、歴戦のマフィアでさえも脚のすくむようなオーラを携えて、彼は崩れた壁の上に立っていた。
「……ひっでーなスクアーロ!オレ、みんなに会うために、頑張って特訓してきたんだぜ?せめて挨拶くらいはさせてほしーのな!」
むっと頬を膨らませて文句を言うその姿は、一見するとただの少年のようなのに、その目を見た瞬間に、誰もが背筋を凍らせる。
ぎらぎらと殺気立ち、血の色を映す、それはまさに殺人鬼の目である。
「……にしても、今日は継承式ってやつなんだろ?なんで皆、こんなとこに集まってんのな?つーか、なんでツナもスクアーロも皆も、そんなにボロボロなんだ?」
「っ!これは……」
「そこにいる、そいつらにやられたのか?」
「ちがっ」
「なら、こっちからも殺り返さないとな!」
「待ておい!」
「っ!ダメだよ山本!」
にっこりと、山本は零崎として目覚める前と同じように笑った。
そして直後、その姿がぶれる。
甲高い金属音。
遅れて伝わってきた殺気に、全員が驚愕の色を顔に浮かべながら、山本武の移動した場所を見る。
「ん?何してんのな、スクアーロ。そこにいたら、オレ、零崎できないんだけどなぁ……。それにツナも、なんで止めんのな?」
「話を聞けぇ!オレはお前に、コイツらを殺せとも、オレ達と共に戦えとも言ってねぇだろうがぁ。今日はもう帰れって言ってんだよ」
古里炎真の、すぐ目の前。
鋭く光る日本刀と、その軌道を遮る大振りなナイフが交差している。
会話を聞いて初めて、炎真は彼らに気が付き、そしてその日本刀の先に自分がいたことに気付いた。
山本武は、情報が全くないにも関わらず、スクアーロの姿と、場の状態だけを見て、躊躇なくシモンを襲おうとしたのである。
そして、S・スクアーロは、そんな彼の攻撃を迷うことなく防ぎ、シモンの前に立った、背中を、見せた。
「なん、で……」
「クソガキどもが……、てめぇら庇った訳じゃねぇぞ。このバカを、止めただけだぁ」
「なあ、スクアーロ、こいつら敵なんだろ?なんで止めるのな?」
「……それがわからねぇ時点で、てめぇは山本武に戻れてねぇんだよ」
「わっかんねーなぁ……。オレは今も昔も、ずっと変わらず『山本武』だぜ?」
「今の自分の顔を見てから言ってみろ。今のてめぇは、殺人鬼の顔をしている」
「んー?そうかな?やっぱわかんねーって」
『山本武』と、『零崎威識』。
その二人の、どこが違うのか。
10代目とその守護者達のみならず、彼を目の前にした炎真にも、それはしっかりと伝わっていた。
彼は、殺人鬼だ。
生きる上で必要な新陳代謝と同じように、人を殺して生きている。
なのに、なのにスクアーロや綱吉の事は、とても大切に思っている。
きっと、彼らが殺されようものなら、零崎威識は尋常ではなく怒るのだろう。
自分は誰かの大事な人を躊躇なく殺せるのに、自分の大切な人が傷付けられると、目の色を変える。
そのアンバランスさが、尚更不気味だ。
「とにかくさ、スクアーロはそいつらに怪我させられたんだろ?オレ、黙って引き下がるなんて出来ないって!」
「コイツらに怪我させられたんじゃねぇ。オレが勝手に怪我した」
「んなー!そんなメチャクチャな!」
「え?そうなのな?うわっ、オレすっげー恥ずかしいじゃん‼」
「信じてるー‼」
「そこら辺は変わらねーな」
こんなときでも、綱吉のツッコミは冴え渡っている。
呆れたようなリボーンの言葉。
確かに彼は、ほんの少し前までは綱吉達の側にいた、山本武その人なのだろう。
だが、彼が零崎威識と呼ばれる存在になったことを、綱吉とリボーン、そしてスクアーロ以外のファミリーは聞かされていなかったらしい。
全員が全員……あの雲雀恭弥までが、動揺した様子で、山本武だった彼を凝視している。
「10代目……こいつが、このヤバい奴が、野球バカ……なんですか?」
「どう言うことだ?極限、雰囲気が違うではないか!」
「ワオ……随分と、変わったみたいじゃないか」
「うそ……本当に雨の人、なの……?」
呆然と呟く彼らに、ようやく山本武は、己の変貌ぶりに気付いたようだった。
ようやく、刀を握る手から力を抜く。
ポリポリと頬を掻きながら、戸惑ったように眉をハの字にした。
「……オレ、そんなに変?」
「……今のてめぇは、まさに殺人鬼だって、オレはさっきから言ってんだろうがぁ」
「……」
「他の零崎は来てねぇのかぁ?お前はまだぺーぺーの新米で、零崎の中じゃあ一番幼い。誰かがお前を見ていないと……」
「カハハ、そりゃーもちろん、保護者がついててしかるべきだぜ。威識君はまだ、プロのプレーヤーとしては全然弱いからな」
「っ!?」
その声は、ボンゴレ幹部と客人達の後ろから、唐突に聞こえてきた。
ハッとして、スクアーロが振り返る。
一瞬遅れて、他の者達も振り向いた。
「カハハ……傑作だぜ。超巨大マフィアとかなんとかっつー、御大層な呼ばれ方してるから、どんなもんかと思って来てみりゃ、スクアーロ以外は全員、ろくに戦えそうもねぇ素人ばっかりだな」
「あれ、人識兄そんなとこにいたのな?オレ迷子になったかと思って探しちゃったんだぜ!」
「迷子はそっちだっての威識君よ」
兄弟同士軽口を叩き合い……人識としては、威識など弟とは思っていないのかも知れないが、それでも傍目には仲良さげな様子で、人識はマフィア達の間を悠々と通り抜ける。
愕然としてそれを見送るマフィア達は、防御の構えをとるでもなく、殺そうと思えば、簡単に一網打尽にできただろう。
しかし人識はそうはせず、のんびりと彼らの間を通り抜けた。
彼がマフィア達から数歩離れる。
その時、突然にマフィア達を囲んでいた氷の檻が崩れ落ちた。
「なっ……!」
アーデルの驚きの声。
それを背後に、スクアーロは人識に向き直った。
「零崎、人識……」
「久し振り……ってほど前でもねーか?まあどうでも良いか。久し振り、スクアーロ」
二人の零崎に挟まれて、スクアーロの背をたらりと冷や汗が伝う。
少なくとも山本は、スクアーロに攻撃をする気はないようだった。
だが、問題はすぐ近くにいるシモンだ。
零崎が彼らを殺さない理由はない。
ゆっくりと吐き出した息は、情けないことに少し震えている。
うまくやらねば、ここにいる者達は殺されてしまう。
人識から目を逸らさず、威識への注意を途切らせないよう気を付けながら、スクアーロはぎこちなく笑った。
「久し振り、じゃねーぞ、くそ殺人鬼」
スクアーロのその言葉に、人識は満足そうに笑みを深めた。