if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

突然、誰もいないコンクリートの地面が、大きな円形に凹んだ。
続いて、何ヵ所も凹みが作られる。
その間を、一つの影が素早く駆け抜けていった。

「くそ……速い……!」

始めに通った影の後を、何人もの人影が追っていく。
その内の一人が、忌々しげに言葉を吐き捨てた。
逃げる影は、スクアーロ。
追う影達は、シモンの者達。
昼間、ずっと炎真に追いかけられ続け、そして学校が終わる時間帯にはシモンの全員が、揃ってスクアーロを追い掛ける構図が出来上がっていた。

「なんだぁ?味方全員で追い掛けてもその程度かよ。それでボンゴレを倒そうとは、寝言もほどほどにしろぉ!」
「寝言なんかじゃない!僕達は、この大地の7属性の炎で、ボンゴレを……腐った裏社会を支配する!」
「何を言っても無駄だぜ、炎真ぁ。コイツも腐りきったマフィアの一人。今までに、何人もの罪のない人間を葬ってきたクソ野郎なんだからな」
「手加減はするなよ炎真。私達の力を、思い知らせるのだ‼」

凹んだ地面を覆うように、氷柱が次々と作られていく。
肉を貫きそうなほどに尖ったそれを避けて飛び回るスクアーロを、続けて葉の群れのような炎が襲う。
それを、雨の炎を纏わせた鎖で振り払い、そのまま街灯に鎖を巻き付けると、それを足場に無理矢理空中を移動して、街灯の上に降り立った。
スクアーロが着地していたかもしれない場所には、底無しの沼が広がっている。
休む暇がない。
そんな戦いを、かれこれ六時間近く続けている。
時折、撒けたかとも思うのだが、その度に加藤ジュリーという男に見付かる。
精神的にも、だいぶ追い詰められている。
しかし収穫はあった。
敵はどうやら、至門中学の転校生として並盛に来た彼らだけ。
そして、彼らは大地の7属性という炎を扱うこと。
更に、その炎の効果……。
目的だけが、未だ判然としないが……、恐らく彼らは裏社会の支配、その準備段階として、継承式を狙っている。
でなければ、わざわざ綱吉を護衛するなどとは言わないだろう。
継承式を開催させ、その場で何かをしでかすつもりか。

「すばしこいネズミめ……。結局いい加減、このシモンファミリーに成敗されろ!」
「そうは行くかぁ!テメーらが継承式をぶち壊すってんなら、オレ達がそれを止める!邪魔はさせねぇ!」
「な……何故継承式を狙う計画を!」
「……はっ。子どもにはわかんねぇだろうよ」

8割方当たりだろうとは思っていたが、かまをかけてみれば、それは確信に変わる。
こんなに分かりやすいはったりに引っ掛かるとは、やはりまだまだ子どもか。
それにしても、しかし、継承式で狙うものはなんなのか。
継承式の場には、様々なマフィアのボスや幹部が集まる。
彼らほどの力があれば、要人を殺戮する場として、これ以上の場所はない。
しかし違う。
彼らの目的は支配であり、殺戮ではない。
支配をするために必要なもの、……リングか?
それなら継承式でなくても狙える。
一体何を狙うのか。
スクアーロは炎真と交わした言葉を思い返す。
ーーボンゴレの罪を奪い、僕達が裏社会を壊し、再構成をする……
彼らが奪おうとする罪とは何なのか。
抽象的すぎる言葉では、何をしたいのかがわからない。

「落ち着けってアーデル。どうせただのハッタリだっての!このままオレちん達から、搾れるだけ情報を搾ってとんずらしようって腹だろ?逃げられるなんて、思っちゃってるわけ?」
「思ってるね。……大人を舐めるなよ、クソガキども」

スクアーロが飛び上がると同時に、それまで立っていた街灯が、真ん中から折れて倒れる。
ビルの壁面の僅かな出っ張りを足掛かりにして、スクアーロは彼らから逃れるために走り出す。
これ以上深入りしても、殺される確率が高まるばかりで、新たな収穫は得られそうもない。
炎真とアーデルハイトの攻撃から逃れ、入り組んだ路地を駆けながら、逃げる算段を整える。
とは言っても、先程から何度も試しているが、幻術士らしい加藤ジュリーにことごとく先回りをされているし、何よりあの人数を撒くのは骨が折れる。

「チッ……とにかく連絡を……」
「させナイヨっ☆」
「クソっ!?」

スクアーロの走る路地に面して建っていた建物が、突然傾いた。
沼のようなものを作り、敵を引きずり込む、SHITT-P!!の能力だ。
徐々に狭まっていく路地の出口に向かい、必死に地面を蹴る。
その向こうには、大柄な男の姿が見える。
誘い込まれていることは、分かっている。
それでも、出口はそこにしかなく、そして彼らに一矢報いることも、そこへ行くことでしかなし得ない。

「……済まない、スクアーロ!」
「っ!……らぁ‼」

水野薫が、謝る声が聞こえた。
スクアーロは力強く地面を蹴って、手に握っていた剣を構えた。
彼らの影が、一瞬重なり、離れ……そして、スクアーロの脇腹から、鮮血が噴き出した。
コンクリートを、赤い色が濡らす。
月明かりだけが照らす、人気のないその場所に、人の倒れる音が大きく響いた。
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