if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
継承式まで、あと2日。
スクアーロは9代目ボンゴレと、その守護者の前に立ち、不満そうな顔を隠そうともせずに口を開いた。
「沢田をここに呼ぶだと?」
「ああ、突然の継承で、彼も戸惑っているだろう。一度、本人の口から意思を聞いてみたくてね」
「そう言うことは、継承式を決める前にやれ、クソジジイども」
「言葉を慎め、スクアーロ!誰と話してると思ってるんだ!?」
怒られても謝りもせずに、ふいっと顔を逸らしたスクアーロを、再び怒鳴ろうと守護者が身を乗り出す。
それを片手を上げるだけで抑えて、9代目はスクアーロに微笑み掛けた。
「もちろん、君の言うことは正しい。じゃが、正しいだけではやっていけないのがマフィアじゃ。わかるね、スクアーロ君」
「……だからと言って、許される訳じゃあねぇだろぉ」
目を細めてそう言うスクアーロは、もしかするとXANXUSのことを思い返しているのかもしれない。
「……まあ、それよりもだ。ギーグの精鋭を殺した奴らについて、今の時点で判明していることを伝えに来た」
「おお、助かる」
面倒くさかろうと、嫌いな相手だろうと、仕事は仕事。
嫌そうな顔をしながらも、スクアーロは9代目達に分かりやすいように説明をする。
「相手は、能力不明、姿形も不明で、しかも性別すらわからねぇ。わかっているのは、恐らく一人でギーグを殺ったのだろう事と、その能力が大空を含む七属性の中のどれでもないということだぁ」
「どういうことだね?」
「現場には、水気が満ちていた。雨が降ったとか、夜露が降りたとか、そんなんじゃねぇ。不自然に、湿気が点在していたんだぁ。だが、雨の炎にしては、現場の荒れ方が大分派手だった。何か大きなものが削り取ったような痕が、金属やら地面やら、そこかしこに残ってた」
「だから雨の炎の遣い手じゃねぇって言うのか?そりゃちょっと、早計すぎるだろ」
「ギーグの死に方も見ての判断だぁ。雨の遣い手は普通、鎮静の能力で敵を弱らせてから、的確に急所を突いて殺す。もしくは鎮静の作用で心臓を停止させる。云わば、静の戦いだぁ。だがギーグの連中の死体は、まるで体の内側から吹っ飛ばされたみてぇな死に方をしていた。ありゃあむしろ、動の戦い、嵐の炎の戦い方に近い。全ての死体は同じ死に方をしていたし、一人で殺ったってことも想像がつく。だがその在り方は、雨でも嵐でもなく、雲の在り方に似ている。イコール、その能力も、性質も、どうにもオレ達の知る七属性には当てはまらない。オレが言ってんのはそういうことだぁ」
スクアーロの報告に、守護者達も真剣な顔になる。
現場の写真には、真っ二つに裂かれた鉄パイプや、深く抉れた地面などが写っている。
ギーグも突然のことに後始末が行き届かなかったのだろう。
現場に残された数々の不可解な破壊痕に、9代目は首を傾げた。
「何と言うか……、戦い方が随分と派手じゃな」
「……確かに、そうだなぁ。暗殺者や殺し屋なら、こんな戦い方は絶対にしねぇ」
「なら、相手はマフィアに所属しているものの、暗殺者とかじゃねぇ戦闘員ってことか?」
「そもそも、マフィアに所属しているかどうかも疑問ではないか?偶然力を手に入れた輩が、試したくて暴れてるという可能性も……」
「そもそも10代目候補を狙ってる、って情報は確かなのか?」
疑問が、意見が飛び交う中、9代目は一度目を閉じて深く考え込んだ。
相手の狙いが、いまいち判然としない。
目的が見えねば、どう動けば良いのかさえわからない。
「……どうしようもないな。スクアーロ君、君は引き続き綱吉君や守護者の彼らを見ていてくれ。裏世界とやらの動きもそれとなく見ていてくれると助かるよ」
「……あ"あ」
「さて、そろそろ綱吉君を迎えにいく時間だ。頼んだよ、みんな」
「ああ、行ってくる」
9代目以外の全員が立ち上がり、部屋を出ていく。
スクアーロもまた、静かにホテルを後にしたのだった。
* * *
「で!本当にギーグが殺られたのか!?」
「……突然なにかと思ったら、お前かぁ」
「んだよ!オレがいたらわりぃのか!?」
「そうは言ってねぇ」
綱吉は9代目の元へと迎い、守護者達は並盛の各所へと散らばった。
ヴァリアーの隊員達を配置し終えたスクアーロは、ギーグが殺された場所へと戻ってきていた。
恐らく、彼も独自に調べようとしていたのだろう。
10代目嵐の守護者、獄寺隼人と鉢合わせた。
「本当に殺られた。……と言っても、実際に死体を見た訳じゃないがなぁ」
「ああ?どういうことだよ」
「オレ達が見るよりも前に処理された」
「……流石はマフィアだな。それじゃあ他の痕跡も消されてんのか……」
「敵についてはヴァリアーが調べてんだぁ。お前は大人しく、お前のボスを護ることだけ考えとけ」
「はあ!?ヴァリアーみてぇな信用できねぇ組織に、任せられる訳ねぇだろうが‼」
「……」
獄寺の言葉に、それもそうだと、納得する。
あんな裏切りにあって尚、ヴァリアーを頼る9代目の方がおかしいのだ。
しかし黙り込んだスクアーロを見て、獄寺は気まずそうに顔を背けた。
「ま、まあ……?10代目に聞いて、アンタらにも事情があったってのは、わかるけどよ……」
「あ?」
「その、オレも自分のボスには幸せになってほしいとは思うし……気持ちはわかるっつうか……」
「そうか……」
「だ、だけどそれとこれとは話が別だ‼アンタらに任せてたら、いつまで立っても調査が終わりそうにねぇしな!オレも調べる‼」
「……まあ、敵の情報は、お前らも知っておいた方が良いだろうからなぁ」
「ほ、本当か……!?やった……じゃねぇ!当たり前だ!しっかり教えろよな‼」
一瞬喜んだ獄寺が、きゅっと表情を引き締めて、いつものような上から目線で言う。
それがどことなく、ベルフェゴールに似ていて、スクアーロは思わず笑いそうになった。
だが大人しく頷いたスクアーロに、満足そうにしている獄寺はそれに気付かず、喜び勇んで現場へと入っていく。
それに続いて歩きながら、スクアーロは敵の情報についてを話し始める。
「ギーグの精鋭は三人、オレ達はそれが、一人の敵に殺されたのだと考えてる」
「な……一人!?」
「それも攻撃の痕跡を見るに、敵が使うのはオレ達の知る七属性以外の炎……または能力だろうと考えられる」
「は!?」
「どの属性の攻撃、性質とも合わねぇんだ。もしソイツと出くわしちまった時には、十分注意して戦え」
「あ、ああ。わかった」
一つ一つを丁寧に説明しながら、現場を歩いて見回る。
いつものように獄寺が噛みついてこないのは、それだけ綱吉の為に必死だということなのだろう。
彼の質問に詳しく答えてやりながら、自分の過去を思い返していた。
自分もああやって、ザンザスの為に必死に勉強をした。
ゆりかごの時も、リング争奪戦の時も。
今だって、それは変わっていない、はずだ。
「なあ、一つ良いか?」
「……あ"ぁ、なんだぁ?」
「……今回の件ってさ、山本は、関係ねーんだよな?」
「……山本ぉ?」
「だってよ、アイツは本当は生きてて、でも、オレ達の前には顔を出せない理由があるんだろ?なんかヤベー理由があって……、ギーグを倒さなきゃならなかったとか……」
「……」
「……わりー。変なこと言ったな」
不安になるのも、おかしくない、と思う。
継承式を前に姿を消した山本。
自分のボスは、理由を知っているにも関わらず、自分には何も話してはくれない。
スクアーロは、獄寺の背中を軽く蹴りつけた。
「いってぇ!?」
「バァカ、山本は関係ねぇよ」
「だからって蹴ることねぇだろ‼」
「うるせぇカスガキぃ。……お前が一番信頼してる人間が、黙ってんのは、そりゃ不安だろうがよぉ。本当に必要になったら、お前にはちゃんと話すだろぉ、アイツは」
「あ、当たり前だろ!」
「わかってんなら、信じて待ってろ。右腕だなんだっつっても、副官が出来るのは所詮、その程度のことくらいなんだからなぁ」
獄寺の肩を叩いて、スクアーロは歩き出す。
もうこの場にいる必要はない。
それにこの戦闘痕を見るに、裏世界の奴らが関わってないのは確かだ。
「……んなもん、ちゃんとわかってるっつーの」
スクアーロの後を追って走り出した獄寺の顔は、10代目の右腕らしく、真っ直ぐと前を向いている。
二人は再び並んで、ギーグを倒した敵を探り始めたのだった。
スクアーロは9代目ボンゴレと、その守護者の前に立ち、不満そうな顔を隠そうともせずに口を開いた。
「沢田をここに呼ぶだと?」
「ああ、突然の継承で、彼も戸惑っているだろう。一度、本人の口から意思を聞いてみたくてね」
「そう言うことは、継承式を決める前にやれ、クソジジイども」
「言葉を慎め、スクアーロ!誰と話してると思ってるんだ!?」
怒られても謝りもせずに、ふいっと顔を逸らしたスクアーロを、再び怒鳴ろうと守護者が身を乗り出す。
それを片手を上げるだけで抑えて、9代目はスクアーロに微笑み掛けた。
「もちろん、君の言うことは正しい。じゃが、正しいだけではやっていけないのがマフィアじゃ。わかるね、スクアーロ君」
「……だからと言って、許される訳じゃあねぇだろぉ」
目を細めてそう言うスクアーロは、もしかするとXANXUSのことを思い返しているのかもしれない。
「……まあ、それよりもだ。ギーグの精鋭を殺した奴らについて、今の時点で判明していることを伝えに来た」
「おお、助かる」
面倒くさかろうと、嫌いな相手だろうと、仕事は仕事。
嫌そうな顔をしながらも、スクアーロは9代目達に分かりやすいように説明をする。
「相手は、能力不明、姿形も不明で、しかも性別すらわからねぇ。わかっているのは、恐らく一人でギーグを殺ったのだろう事と、その能力が大空を含む七属性の中のどれでもないということだぁ」
「どういうことだね?」
「現場には、水気が満ちていた。雨が降ったとか、夜露が降りたとか、そんなんじゃねぇ。不自然に、湿気が点在していたんだぁ。だが、雨の炎にしては、現場の荒れ方が大分派手だった。何か大きなものが削り取ったような痕が、金属やら地面やら、そこかしこに残ってた」
「だから雨の炎の遣い手じゃねぇって言うのか?そりゃちょっと、早計すぎるだろ」
「ギーグの死に方も見ての判断だぁ。雨の遣い手は普通、鎮静の能力で敵を弱らせてから、的確に急所を突いて殺す。もしくは鎮静の作用で心臓を停止させる。云わば、静の戦いだぁ。だがギーグの連中の死体は、まるで体の内側から吹っ飛ばされたみてぇな死に方をしていた。ありゃあむしろ、動の戦い、嵐の炎の戦い方に近い。全ての死体は同じ死に方をしていたし、一人で殺ったってことも想像がつく。だがその在り方は、雨でも嵐でもなく、雲の在り方に似ている。イコール、その能力も、性質も、どうにもオレ達の知る七属性には当てはまらない。オレが言ってんのはそういうことだぁ」
スクアーロの報告に、守護者達も真剣な顔になる。
現場の写真には、真っ二つに裂かれた鉄パイプや、深く抉れた地面などが写っている。
ギーグも突然のことに後始末が行き届かなかったのだろう。
現場に残された数々の不可解な破壊痕に、9代目は首を傾げた。
「何と言うか……、戦い方が随分と派手じゃな」
「……確かに、そうだなぁ。暗殺者や殺し屋なら、こんな戦い方は絶対にしねぇ」
「なら、相手はマフィアに所属しているものの、暗殺者とかじゃねぇ戦闘員ってことか?」
「そもそも、マフィアに所属しているかどうかも疑問ではないか?偶然力を手に入れた輩が、試したくて暴れてるという可能性も……」
「そもそも10代目候補を狙ってる、って情報は確かなのか?」
疑問が、意見が飛び交う中、9代目は一度目を閉じて深く考え込んだ。
相手の狙いが、いまいち判然としない。
目的が見えねば、どう動けば良いのかさえわからない。
「……どうしようもないな。スクアーロ君、君は引き続き綱吉君や守護者の彼らを見ていてくれ。裏世界とやらの動きもそれとなく見ていてくれると助かるよ」
「……あ"あ」
「さて、そろそろ綱吉君を迎えにいく時間だ。頼んだよ、みんな」
「ああ、行ってくる」
9代目以外の全員が立ち上がり、部屋を出ていく。
スクアーロもまた、静かにホテルを後にしたのだった。
* * *
「で!本当にギーグが殺られたのか!?」
「……突然なにかと思ったら、お前かぁ」
「んだよ!オレがいたらわりぃのか!?」
「そうは言ってねぇ」
綱吉は9代目の元へと迎い、守護者達は並盛の各所へと散らばった。
ヴァリアーの隊員達を配置し終えたスクアーロは、ギーグが殺された場所へと戻ってきていた。
恐らく、彼も独自に調べようとしていたのだろう。
10代目嵐の守護者、獄寺隼人と鉢合わせた。
「本当に殺られた。……と言っても、実際に死体を見た訳じゃないがなぁ」
「ああ?どういうことだよ」
「オレ達が見るよりも前に処理された」
「……流石はマフィアだな。それじゃあ他の痕跡も消されてんのか……」
「敵についてはヴァリアーが調べてんだぁ。お前は大人しく、お前のボスを護ることだけ考えとけ」
「はあ!?ヴァリアーみてぇな信用できねぇ組織に、任せられる訳ねぇだろうが‼」
「……」
獄寺の言葉に、それもそうだと、納得する。
あんな裏切りにあって尚、ヴァリアーを頼る9代目の方がおかしいのだ。
しかし黙り込んだスクアーロを見て、獄寺は気まずそうに顔を背けた。
「ま、まあ……?10代目に聞いて、アンタらにも事情があったってのは、わかるけどよ……」
「あ?」
「その、オレも自分のボスには幸せになってほしいとは思うし……気持ちはわかるっつうか……」
「そうか……」
「だ、だけどそれとこれとは話が別だ‼アンタらに任せてたら、いつまで立っても調査が終わりそうにねぇしな!オレも調べる‼」
「……まあ、敵の情報は、お前らも知っておいた方が良いだろうからなぁ」
「ほ、本当か……!?やった……じゃねぇ!当たり前だ!しっかり教えろよな‼」
一瞬喜んだ獄寺が、きゅっと表情を引き締めて、いつものような上から目線で言う。
それがどことなく、ベルフェゴールに似ていて、スクアーロは思わず笑いそうになった。
だが大人しく頷いたスクアーロに、満足そうにしている獄寺はそれに気付かず、喜び勇んで現場へと入っていく。
それに続いて歩きながら、スクアーロは敵の情報についてを話し始める。
「ギーグの精鋭は三人、オレ達はそれが、一人の敵に殺されたのだと考えてる」
「な……一人!?」
「それも攻撃の痕跡を見るに、敵が使うのはオレ達の知る七属性以外の炎……または能力だろうと考えられる」
「は!?」
「どの属性の攻撃、性質とも合わねぇんだ。もしソイツと出くわしちまった時には、十分注意して戦え」
「あ、ああ。わかった」
一つ一つを丁寧に説明しながら、現場を歩いて見回る。
いつものように獄寺が噛みついてこないのは、それだけ綱吉の為に必死だということなのだろう。
彼の質問に詳しく答えてやりながら、自分の過去を思い返していた。
自分もああやって、ザンザスの為に必死に勉強をした。
ゆりかごの時も、リング争奪戦の時も。
今だって、それは変わっていない、はずだ。
「なあ、一つ良いか?」
「……あ"ぁ、なんだぁ?」
「……今回の件ってさ、山本は、関係ねーんだよな?」
「……山本ぉ?」
「だってよ、アイツは本当は生きてて、でも、オレ達の前には顔を出せない理由があるんだろ?なんかヤベー理由があって……、ギーグを倒さなきゃならなかったとか……」
「……」
「……わりー。変なこと言ったな」
不安になるのも、おかしくない、と思う。
継承式を前に姿を消した山本。
自分のボスは、理由を知っているにも関わらず、自分には何も話してはくれない。
スクアーロは、獄寺の背中を軽く蹴りつけた。
「いってぇ!?」
「バァカ、山本は関係ねぇよ」
「だからって蹴ることねぇだろ‼」
「うるせぇカスガキぃ。……お前が一番信頼してる人間が、黙ってんのは、そりゃ不安だろうがよぉ。本当に必要になったら、お前にはちゃんと話すだろぉ、アイツは」
「あ、当たり前だろ!」
「わかってんなら、信じて待ってろ。右腕だなんだっつっても、副官が出来るのは所詮、その程度のことくらいなんだからなぁ」
獄寺の肩を叩いて、スクアーロは歩き出す。
もうこの場にいる必要はない。
それにこの戦闘痕を見るに、裏世界の奴らが関わってないのは確かだ。
「……んなもん、ちゃんとわかってるっつーの」
スクアーロの後を追って走り出した獄寺の顔は、10代目の右腕らしく、真っ直ぐと前を向いている。
二人は再び並んで、ギーグを倒した敵を探り始めたのだった。