if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「……」
「ちゃおっス……で、状況はどうだ?」
「……それよりも、この状況はなんだぁ」
「……え?」
「そのわざとらしい聞き返し方、今すぐやめねぇとオレはイタリアに帰るぞぉ」
「落ち着け。ただの力試しだぞ」

屈伸をしながらリボーンと会話するスクアーロの額には、苛立ち故か、薄く血管が浮いている。
継承式まで、あと四日に迫ったその日、スクアーロはリボーンに野球グラウンドへと呼び出された。
何でも、野球を通して水野薫の身体能力を測りたいらしい。
前にキャッチボールしたことはあったし、そこで実力の一端を見ることは出来たのだから、わざわざ呼び出してまでやらせることはないと思ったが、最強の赤ん坊には通用せず、結局スクアーロは言われるがままに、キャッチャーとして参加することになったのである。

「水野ぉ、てめぇ、ポジションはピッチャーで良いんだろぉ?」
「……」
「……ちげぇのかぁ?」

あれだけの球を投げられるのだから、勿論そうだと考えていたスクアーロは、黙りこんだ水野に怪訝そうに首をかしげた。
まあ、あれだけの投球を受けられる選手がいない、と言うのならわからないでもないが、どうやらそうではないようだ。

「……今まで、試合に出たことねぇんだ」
「……はあ"!?」

スクアーロが目を見開く。
隅の方で古里炎真と共に見守っていた綱吉は、スクアーロのその様子の方がよっぽど驚きだと思った。
あれだけ柄が悪そうじゃ、参加するしない以前にチームメイトも相手も逃げ出しそうである。
……まあ、柄の悪さで言えば、ヴァリアーの方が数段上だろうが。

「勿体ねぇな……。あれだけ投げられりゃあ、ピッチャーだろうがなんだろうが、十分務められるだろぉ」
「……それと、」
「あ?」
「人前で投げんの……、…………恥ずかしい……」
「は?」
「なんじゃそりゃ~!!?」
「シャイボーイか……」

予想外の答えに、スクアーロも思わず呆けた顔をする。
中学生らしからぬ図体に、柄の悪そうな顔面からは想像もつかない言葉である。

「……緊張して、投げられねぇのか」
「……」

こくっと頷いた水野に、スクアーロは困ったような表情で頬を掻く。

「沢田ぁ、お前帰ったらどうだぁ。いても邪魔だし」
「酷くない!?」
「ギャラリーがいない中で投げられても、試合では投げられないんじゃ意味ねーだろ」
「あ"ー……まあそうだけどよぉ」

それにしても、勿体無い。
山本がここにいれば、飛び上がって喜ぶだろうセンスの持ち主なのに、恥ずかしくて投げられないなんて。

「なあ、何がそんなに恥ずかしいんだぁ?」
「……何って……、失敗したらとか……オレみたいなのが、野球してたら変な目で見られるかも、とか……」
「……なるほどな」

まあ確かに、どう見ても不良である水野が、野球で青春ってのは、少し違和感を感じる、かもしれない。

「……失敗したら、チームメイトがフォローする。お前みたいなのでも、オレのような奴でも、自由に出来るのがスポーツだろぉ」
「……そうかも、しれねぇけど」
「少しずつ慣らしていけば良いだろぉ。すぐに投げられなくても良い。……まだ中学生なんだから。時間は、たっぷりある」
「……」
「キャッチボールでもするかぁ」
「……良いのか?」
「今日は暇だからなぁ」

本当を言えば、9代目ファミリーが来日しており、その他様々なファミリーが続々と日本へ訪れている現在、やるべきことは山程あり、ボンゴレがいくら巨大ファミリーであっても、人手は足りていない。
事情を一通り把握しているリボーンは、満足げに息を吐いた。

「やっぱり、あいつはツナも吃驚のお人好しだな」
「何のことだ?」
「良い女だってことだ」
「はあ?」

はぐらかすリボーンにムッとしながら、綱吉はまたスクアーロに視線を戻す。
ガタイの良い水野と並ぶと、その細さが余計に際立って見える。
グローブを手に歩いていく二人の横に、本当なら山本もいたのかもしれない。
零崎になってしまった以上、再びこの場で野球をするのは、叶わぬ夢かもしれないけれども、もしも山本が帰ってきたのならば、その時は……。

「ツナ君、どうかした?」
「……え?な、何でもない!」
「そう?」

隣にいた炎真に声を掛けられて、綱吉は考え事を中断する。
希望を持とう、と思った。
叶わないかもとか、無理かもとか、そんな事を考える前に、山本の事を信じよう。
そして、例え山本が帰ってきたとしても、その時自分が生きてなくちゃ何の意味もない。
継承式まで、色々なことがあるだろうが、とにかく生き残れるように頑張らなくては。

「……オレ、頑張って生き抜くよ」
「え?」

不思議そうに首を傾げた炎真に、何でもない、と再び言う。
それぞれの思いの交錯する中、翌日、綱吉の決心を脅かす事態が発生したのであった。
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