if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

どぉぉん……と、空気が震える。
笹川了平と青葉紅葉が、テストを受けたくないばかりに、リボーン特製のテスト用紙……もとい、プレートを破壊したのだ。
やっていることはバカそのものだが、その破壊力、そしてそれを受け止める身体能力には、舌を巻かざるを得ない。
シモンファミリーには、思っていたよりも深く注意する必要があるのかもしれない。

『……何の音だね?』
「笹川了平だぁ」
『ほう、元気で良いね』

電話の向こうの男は、穏やかな笑い声を立てている。
こちらは仕事仕事でくそ忙しいと言うのに、いい気なものだ。

「で、用ってのは何だぁ」
『ああ、そうだったね。実は幾つか気になる組織があるんじゃよ』
「……調べて始末しろと?そんなこと、日本にいるオレではなく、本国にいるXANXUSに直接依頼すれば良いだろうがぁ」
『その……したにはしたのだが……』
「……チッ、オレの方からヴァリアーを動かす。リストを届けろ」
『ああ、助かるよ……』

大きくため息を吐きながら、9代目の依頼を受ける事にしたスクアーロは、頭の中で今後の予定を組み立て始める。
9代目曰く『気になる組織』という奴は、恐らくヴァリアーで把握している危険な組織と一致するはずだ。
イタリアの本隊を動かしつつ、自分や精鋭部隊が動いて、他国の敵を片付けていけば、まあ継承式までに終わらなかったとしても、敵への良い牽制にはなるだろう。

『……そう言えば、キャバッローネのディーノ君が、一度イタリアに帰ってくると、部下から報告を聞いたよ』
「……あ"あ?それがどうしたぁ」
『いや、大したことではないのだがね。彼は今日の一時に日本を立つらしいから、話したいことがあるなら、急いだ方がいい』
「……何故オレにそんなことを言う」
『さあ、何となく、かな』
「……継承式の日が来れば、嫌でも顔合わせることになるだろ。わざわざ会いに行く必要はねぇ」
『ふむ、まあ君がそう言うのなら、それでも構わないがね』
「……何が言いたい」
『別に、何でもないが?』
「……くそ」

悪態を吐くスクアーロのことも、9代目は怒る様子もなく、笑って受け流す。
その様子すらも、スクアーロは気に入らずに、再び舌打ちをした。

『まあ、継承式までの間よろしく頼むよ、スクアーロ君』
「わかってる。あんたらがポンコツな分を、オレ達がフォローするんだぁ。感謝しやがれ、ドカス」
『……ああ、そうだね。いつも、苦労ばかりかけて済まない』
「…………ボンゴレのトップが、何で謝ってんだぁ。気持ちわりぃんだよ」
『はは、君の働きに対する、妥当な姿勢のつもりなのだがね』
「……気色わりぃ」

最後に一言だけ、吐き捨てるようにそう言うと、それ以上相手の話は聞かずに、一方的に電話を切った。
指の先が冷たく感じる。
携帯電話にぴしりとヒビが入る。

「……今のオレが、一番気色悪いな」

呟くようにそう言った後、スクアーロは疲れたような視線を背後に送った。

「出てこい、ヘボ殺し屋(ヒットマン)。オレが相手をしてやる」
「……!」

遠くにある家の向こうで、人影が動く。
それを追って、スクアーロは駆け出した。
屋根を蹴り、塀を走り、音もなく近寄って、その殺し屋の背後を取る。

「く、そ……!なんでヴァリアーが10代目を……‼」
「……お前が知る必要はねぇだろ」

ごきりと、首の骨がへし折られる嫌な音が響いた。


 * * *


「そう言えば……リボーン、スクアーロってどこ行っちゃったの?」
「スクアーロ……」
「ふむ、スクアーロとは、あの物わかりの良いナイスな御仁の事だな、結局!」
「そう言えばおらんな。奴はお前の護衛に極限努めるのではないのか?」
「どっか近くにいるだろ。お前らは気にせずに、とっとと勉強に励みやがれ」
「ぎゃー‼」

了平と紅葉のせいでボロボロになった綱吉の部屋では、馬鹿ゆえにテスト用プレートを破壊までした二人と、ダメダメな綱吉、炎真への、リボーンのリボーンによる、リボーンのためだけのスパルタ勉強会が開かれていた。
リボーンと綱吉の信者である獄寺が見れば、ハンカチを噛んで羨ましがるだろうその会だが、参加者達の目は虚ろだ。

「で、でもスクアーロ、最近なんか悩み事あるみたいだし……。ちょっとくらい心配しても良いだろ……ってまた蹴るのやめてー!」
「他人の心配する前に自分の心配だぞ。この成績じゃ次のテストも赤点だな」
「そんなー‼」

悲鳴を上げながら転がっていく教え子を眺めながら、リボーンは窓の外のことを想う。
確かにスクアーロは、最近ずっと険しい表情が目立っていた。
だからと言って、たかだか表世界の暗殺者や殺し屋程度に倒されるほど、間抜けではないだろうが、綱吉の言った通り、彼自身も少し気になってはいた。

「まあ、スクアーロもまだガキだってことだな」
「え?何か言った?」
「何にも言ってねーぞ。良いからさっさと百点とれ」
「ちょっ……無茶言うなよ!オレ今25点とったばかりなんだぞ!」
「結局偉そうに言うことではないぞ沢田綱吉!」
「そう言う青葉さんは19点ですがね‼」

この賑やかな声は、スクアーロまで届いているだろうか。
リボーンはその大きな黒目を窓の外へと向けたまま、小さくため息を落としたのだった。
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