if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「おい、炎真はどっちだ?」
「こっちだぁ」

水野薫に急かされて、スクアーロは仲間から聞いた情報の通りの道を示す。
二人がキャッチボールをしていたところに、スクアーロの携帯へと1つの連絡が入った。
内容は、沢田綱吉と敵マフィアが交戦したと言うこと、そして、その件とは関係ないらしいが、古里炎真が負傷しているということだった。
なんでも、学校の連中にいじめられたらしく、顔中傷だらけのボロボロらしい。
そしてスクアーロからその事を聞いた水野は、さっと顔色を変えた。

「オレも行く」

言葉少なにそう返して、慌ててグローブを外した水野を連れて、スクアーロは急遽、並盛神社へと向かうことになったのだった。

「……お゙い、見えたぞぉ」
「!炎真!」
「え、薫……?」
「ス、スクアーロも!?なんで?」
「ちゃおっス、やっぱり連絡がいってたみてーだな、スクアーロ」
「まあなぁ」

リボーンに言われて頷く。
どうやら、綱吉に付けている隊員のことは把握しているらしい。
スクアーロは近くに倒れている巨大な男の姿を視界に収めると、不快そうに顔を顰めた。

「改造死ぬ気弾、ってやつかぁ」
「知ってたのか。うまくいけば、こいつから出所が掴めるかもしんねーな」
「……かもな」
「わざと逃がして、ツナにぶつけただろ?」
「なんの話だぁ?」
「ふん、まあ別にいーけどな」


余裕のある笑みを浮かべるリボーンに対して、スクアーロは終始不機嫌そうだ。
見透かされているような気分なのだろう。
リボーンに全てを知られている、その上、知ってなお余裕でいる様子が、スクアーロにとっては腹立たしいらしい。
だが理由は、それだけと言うわけではないようだが。

「回収しろ」
『御意に』

無線で部下に連絡を取ってから、スクアーロは何やら話をしている綱吉達3人の元へと向かった。
水野薫は言葉数は少ないものの、炎真の身を心配しているらしい。
しかし彼の心配の表情は、綱吉にとっては恐怖でしかないようだ。
古里炎真は困ったように、綱吉と水野を見比べている。
……話している、と言うより、奇妙な三竦みの状態になっていた。
見かねて、スクアーロが声を掛ける。

「おい、怪我の様子はどうだぁ」
「……大丈夫です」
「だ、大丈夫じゃないよ!炎真君ボロボロだよ!?」
「一応、出来るだけの手当てはした方がいい」
「手伝う」

水野に促されて渋々と、神社の境内に座った炎真を手当てするために、スクアーロは持っていた鞄から応急セットを取り出したのだった。


 * * *


「瞼が酷いな」
「大丈夫なの?」
「眼球は傷付いてねぇ、すぐに治るだろぉ。お゙ら、これ持ってろ」
「あ、うん!」

気持ち悪い。
目の前で自分を手当てしてくれている男を見て、炎真は再びそう思う。
傷を診る手付きは繊細で、とても剣帝とまで呼ばれる人間のものには見えない。
なのに、時折感じる冷たい空気や、鋭い視線は、確かに歴戦の猛者のものだ。

「……まあ、ここで出来るのはこれくらいだろぉ」

しばらくして、処置を終えたスクアーロの手が離れる。
体温の低い、ひんやりとした手は、一見細く頼りなさげに見えるが、よく見ればタコや傷がたくさんついていて、よく鍛えられていることがわかる。
まるでちぐはぐだ。
しかし、炎真がそう思う傍ら、仲間である水野薫は少しずつ、スクアーロに興味を持ち始めているらしかった。

「上手いな、手当て」

ぼそりと言った薫の言葉を拾って、スクアーロは苦い表情を浮かべる。

「まあ、散々自分の手当てをしてきたからなぁ」
「……自分の?」
「それだけ怪我してきたってことだぁ」

怪我をして、学んで、成長して、強くなる。
暗殺者だと言うのに、なぜ彼はこんなにも人間臭いのか。
ヴァリアーというのは、冷酷非道で、人の命も容赦なく奪い取ってしまうような、そんな人間の集りなのではなかったのか?
言葉で聞いていた姿と、現実の姿があまりにも違って、炎真の頭は混乱する。
ボンゴレ10代目にしたってそうだ。
あのボンゴレの跡取りだから、きっと嫌な奴なんだろうと思っていたのに、実際は自分と同じ落ちこぼれで、頼りなさげな、ただの中学生みたいだ。
さっきは敵を軽々と倒していたけれど、倒し終わったらすぐに、いつも通りの姿に戻る。
一体、どれが本物なんだろう。
どの姿が、彼らの本当の姿なのだろう。

「そろそろ暗くなる。ガキは帰って寝ろぉ」
「あ、うん……ありがとうスクアーロ。炎真君、帰ろう?」
「……僕は薫と帰るから」
「あ……そっか。うん、じゃあまた明日ね!」

去り際大きく手を振って歩いていく綱吉と、黙って反対側へと歩いていくスクアーロ。
彼らの背を眺めながら、炎真は薫に問い掛けた。

「あの人と、仲良くなったんだね、薫」
「……少し話をしただけだ。だが……たぶん悪い奴じゃ、ない」
「……そっか」

薫がそこまで言う人間は少ない。
噂通りの人間だったなら、薫はそうは言わないだろう。
ならば。

「違うのかな……、本当に」
「?何がだ?」
「……なんでもない」

噂とは違うのかもしれない。
自分達が恨みを向けるボンゴレなんて、本当はもうどこにもいないのかもしれない。
奪う『罪』など、もう、どこにもないのかも……。

「……帰ろう、薫」

炎真は、瞼を覆うガーゼをひと撫ですると、仲間にそう声を掛けて、神社を出ていった。
65/90ページ
スキ