if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「なんだ、上手いじゃねぇかぁ」
「あんたこそ……、初めはどうなるのかと思ったが、なかなかやる」
パシッ、パシッと、軽い音がグラウンドの端に響いている。
水野薫とスクアーロは、小さな白球を投げ合いながら、そんな会話を交わしていた。
「……あんた、野球したこと、ねーのか」
ボールを受け止めた水野が、目の前でグローブを構えるスクアーロにぼそりと尋ねた。
始める直前、スクアーロは借りたグローブを右手に着けようとした。
もちろんそれは、右利き用グローブであったため、本来は左に着けるものである。
『……逆だ』
『あ゙?そうなのかぁ?』
水野に言われて、スクアーロはいそいそとグローブを付け替えた。
利き手の逆に着けるということは知っていたようだが、どうやらグローブに右利き左利きがあるとは知らなかったらしい。
「……まあ、今までこういうことする余裕、なかったからなぁ」
「余裕……?」
「スポーツに誘ってくれるような人間もいなかったしよぉ」
「友達いないのかあんた」
「いる。ふざけんなぁ」
言葉と一緒にボールを放り投げて、スクアーロは不機嫌そうに眉をひそめている。
その整った顔を見詰め返して、水野は顔を険しくさせる。
「あんた、何が狙いでこんなことをしているんだ」
「狙い?」
「何か狙いがあって、オレに近付いてきたんじゃねぇのか」
「……さあ、どうなんだろなぁ」
「はあ?」
はぐらかす、という感じには見えなかった。
自分でもわからない、と言ったような雰囲気だったように、水野には思えたのだ。
「10代目の継承だぁ。今まで隠れていた色んな膿が吹き出す。それを一つ一つ、丁寧に潰していかなけりゃあならねぇ。お前らに近付くのもその為だぁ。ボンゴレに敵意があるか?何か悪巧みをしていないか?色んなことを、調べる必要がある。……だが、その為にキャッチボールしよう、なんて言った訳じゃねぇ。そういうことを調べんなら、もっと上手い方法がある」
「なら、どうして?」
「……」
スクアーロは黙ったまま、水野からのボールを受ける。
手の中でクルリとそれを回して、スクアーロは少しの間俯いた。
「……山本とはこう言うこと、してやれなかったからなぁ。オレぁ、罪滅ぼしでも、している気なんだろうか、なぁ……」
「ヤマモト……山本武……?」
ふっと、息を吐き出す。
スクアーロは水野に向けてボールを投げ返すと、土に膝をついてグローブを構えた。
「お゙い、思いっきり投げてみろぉ」
「あ?」
「受け止めてやる」
山本武について、シモンファミリーには、不運な事故で亡くなっている、とだけ伝えられていた。
もちろん、彼らはそれを信じてはいない。
スクアーロは、それ以上は何も語ろうとはしなかったが、もしかして、本当に死んでいるのだろうか。
水野は彼女の心中を図りかねて、どんどんと顔を険しくしていく。
「……んだよ、その顔」
「…………何でもない」
不満げに聞いたスクアーロにそう返して、水野は投球のフォームをとる。
受け止められるものなら受け止めてみろ。
その時は、不思議と緊張することも、恥ずかしいと思うこともなかった。
相手がずぶの素人だったからだろうか。
それとも……。
渾身の力を込めて、ボールを投げ飛ばした。
「っ!……ぅ……ぐ……!」
予想以上の勢いで飛んできたボールに、思わずスクアーロの口からは呻き声が漏れていた。
グローブには入っているのだが、ボールの勢いをなかなか殺せない。
両手でグローブを押さえて、何とかボールを止めたが、抑えきれなかった勢いのせいで、スクアーロはストンと尻餅をつく。
「……す、げ……」
「……受け止めた……」
お互いにお互いの様子を見て、驚いたような声を出す。
スクアーロはここまでの投球が来るとは思わなかったし、水野は自分の球が受け止められるとは思わなかったのだ。
「だ、大丈夫か……?」
尻餅をついたまま動かないスクアーロに、水野は慌てて駆け寄る。
こんなところで、ボンゴレに目をつけられるわけにはいかない。
何よりよく考えてみれば、相手は自分よりもずっと細身で、力が弱そうだというのに、本気のボールなんて投げたら怪我をする可能性だって、十分に考えられる。
「おい……!怪我したのか!?」
起き上がらないスクアーロに怒鳴るように問い掛けて、引っ張り起こそうと手を伸ばす。
不意に、スクアーロが顔をあげて水野を見上げる。
その眼力に気圧されて、水野は一瞬体を硬直させた。
は、と動き出した時には、スクアーロは目の前の水野の手をとり、目を輝かせて立ち上がっていた。
「す、すげぇなぁ!今の投球、半端じゃねぇぞ!?なあ、お前ヴァリアーにこねぇかぁ!?」
「……」
しばらく呆然としていた水野だが、その後、誘いは丁重に断ったのだった。
「あんたこそ……、初めはどうなるのかと思ったが、なかなかやる」
パシッ、パシッと、軽い音がグラウンドの端に響いている。
水野薫とスクアーロは、小さな白球を投げ合いながら、そんな会話を交わしていた。
「……あんた、野球したこと、ねーのか」
ボールを受け止めた水野が、目の前でグローブを構えるスクアーロにぼそりと尋ねた。
始める直前、スクアーロは借りたグローブを右手に着けようとした。
もちろんそれは、右利き用グローブであったため、本来は左に着けるものである。
『……逆だ』
『あ゙?そうなのかぁ?』
水野に言われて、スクアーロはいそいそとグローブを付け替えた。
利き手の逆に着けるということは知っていたようだが、どうやらグローブに右利き左利きがあるとは知らなかったらしい。
「……まあ、今までこういうことする余裕、なかったからなぁ」
「余裕……?」
「スポーツに誘ってくれるような人間もいなかったしよぉ」
「友達いないのかあんた」
「いる。ふざけんなぁ」
言葉と一緒にボールを放り投げて、スクアーロは不機嫌そうに眉をひそめている。
その整った顔を見詰め返して、水野は顔を険しくさせる。
「あんた、何が狙いでこんなことをしているんだ」
「狙い?」
「何か狙いがあって、オレに近付いてきたんじゃねぇのか」
「……さあ、どうなんだろなぁ」
「はあ?」
はぐらかす、という感じには見えなかった。
自分でもわからない、と言ったような雰囲気だったように、水野には思えたのだ。
「10代目の継承だぁ。今まで隠れていた色んな膿が吹き出す。それを一つ一つ、丁寧に潰していかなけりゃあならねぇ。お前らに近付くのもその為だぁ。ボンゴレに敵意があるか?何か悪巧みをしていないか?色んなことを、調べる必要がある。……だが、その為にキャッチボールしよう、なんて言った訳じゃねぇ。そういうことを調べんなら、もっと上手い方法がある」
「なら、どうして?」
「……」
スクアーロは黙ったまま、水野からのボールを受ける。
手の中でクルリとそれを回して、スクアーロは少しの間俯いた。
「……山本とはこう言うこと、してやれなかったからなぁ。オレぁ、罪滅ぼしでも、している気なんだろうか、なぁ……」
「ヤマモト……山本武……?」
ふっと、息を吐き出す。
スクアーロは水野に向けてボールを投げ返すと、土に膝をついてグローブを構えた。
「お゙い、思いっきり投げてみろぉ」
「あ?」
「受け止めてやる」
山本武について、シモンファミリーには、不運な事故で亡くなっている、とだけ伝えられていた。
もちろん、彼らはそれを信じてはいない。
スクアーロは、それ以上は何も語ろうとはしなかったが、もしかして、本当に死んでいるのだろうか。
水野は彼女の心中を図りかねて、どんどんと顔を険しくしていく。
「……んだよ、その顔」
「…………何でもない」
不満げに聞いたスクアーロにそう返して、水野は投球のフォームをとる。
受け止められるものなら受け止めてみろ。
その時は、不思議と緊張することも、恥ずかしいと思うこともなかった。
相手がずぶの素人だったからだろうか。
それとも……。
渾身の力を込めて、ボールを投げ飛ばした。
「っ!……ぅ……ぐ……!」
予想以上の勢いで飛んできたボールに、思わずスクアーロの口からは呻き声が漏れていた。
グローブには入っているのだが、ボールの勢いをなかなか殺せない。
両手でグローブを押さえて、何とかボールを止めたが、抑えきれなかった勢いのせいで、スクアーロはストンと尻餅をつく。
「……す、げ……」
「……受け止めた……」
お互いにお互いの様子を見て、驚いたような声を出す。
スクアーロはここまでの投球が来るとは思わなかったし、水野は自分の球が受け止められるとは思わなかったのだ。
「だ、大丈夫か……?」
尻餅をついたまま動かないスクアーロに、水野は慌てて駆け寄る。
こんなところで、ボンゴレに目をつけられるわけにはいかない。
何よりよく考えてみれば、相手は自分よりもずっと細身で、力が弱そうだというのに、本気のボールなんて投げたら怪我をする可能性だって、十分に考えられる。
「おい……!怪我したのか!?」
起き上がらないスクアーロに怒鳴るように問い掛けて、引っ張り起こそうと手を伸ばす。
不意に、スクアーロが顔をあげて水野を見上げる。
その眼力に気圧されて、水野は一瞬体を硬直させた。
は、と動き出した時には、スクアーロは目の前の水野の手をとり、目を輝かせて立ち上がっていた。
「す、すげぇなぁ!今の投球、半端じゃねぇぞ!?なあ、お前ヴァリアーにこねぇかぁ!?」
「……」
しばらく呆然としていた水野だが、その後、誘いは丁重に断ったのだった。