if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
大きく息を吐き出して、むにむにと頬っぺたを揉む。
そんな疲れた様子を見せるスクアーロに対して、声をかけたのは笹川京子であった。
「スクアーロさんが先生になってくるなんて、思いませんでした!でも、あの……大丈夫ですか?」
「慣れてないだけで、大したことはねぇ。お前こそ、大丈夫なのかぁ?友達と帰るんじゃないのか?」
「あ、その……花には先に帰ってもらったんです。お話ししてこうと思ったから……」
二人が話しているのは、人のいなくなった教室で、スクアーロの座る机の前には、幾つかの書類が置いてある。
実習生としての仕事をしていたらしかった。
「その……スクアーロさん……じゃなくて、先生って言わなきゃですよね!」
「……無理に先生ってつけなくても良い。好きに呼べよ。どうせ先生なんかになる気はねぇしな」
未来の記憶の中で触れ合っていた、一般人である京子。
彼女の問いに答えたスクアーロは、しかしやはり、疲れたようにため息を吐く。
慣れないことはするものじゃない。
一日中笑顔を浮かべるという苦行のおかげで、スクアーロの頬は筋肉痛になっている。
京子は心配そうな表情のまま、ちょこんとスクアーロの隣に座った。
時刻は既に夕方。
放課後の教室には、いつもはよく聞こえる野球部の声も聞こえず、とても静かだった。
「……どうかしたのかぁ?」
「あ……別に何かある訳じゃないんですけど、私にも何か、お手伝い出来ないかなって……」
チラッと見上げて、恥ずかしそうにモジモジとしながらそう言った京子に、スクアーロは驚いたように目を見開く。
「……ありがとな。でも大丈夫だぁ。学生は、自分の勉強を頑張れよ」
「はい!」
「良い返事だ」
よしよしと頭を撫でて、スクアーロは書類を持って教室を出ていった。
久々に癒されて、心なしか彼女の顔もスッキリしているようだった。
しかし神様は、彼女の安らぎを許すことはないようだ。
「ス、スクアーロ君!ちょっと良いかね!?」
「……はい」
後ろから呼び掛けられ、振り向いたスクアーロの顔は既に、仕事の時のそれだった。
* * *
「彼が水野薫君だ。転校生で……クラスメイトから少し浮いてしまっているみたいでね」
「はあ」
少し離れた位置から野球場を覗き、こそこそとそう言った教師の言うことには、彼の面倒をスクアーロに頼みたいとの事だった。
なるほど、野球部の声が聞こえなかったのは、水野に睨まれてビビっていたからだったのか。
納得して、スクアーロは頷く。
要は見るからに不良で面倒そうな生徒を、暇そうな実習生に丸投げして、自分達は安全地帯から高みの見物、と言うわけだ。
しかしこれは、スクアーロにとっては好都合だった。
二つ返事で頷いて、逃げるように去っていく教師を見送った後、野球部の練習を離れた場所から見ている水野に近付いた。
「こんにちは、水野君だね」
「あんたは……」
「スペルビ・スクアーロという。この学校で教育実習を受けている」
「そんな……嘘だ」
一応、偽りの設定通りに自己紹介をしてみたが、胡散臭げな視線を向けられてすぐに否定をされた。
それもそうだ、彼らは既に彼女の本来の顔に気付き、警戒をしている。
「……ま、そうなるだろうなぁ。お前らシモンファミリーは、オレの正体をわかっているんだろぉ」
「知っていて、近付いてきたのか?」
「まあ、今回の式典の『お客様』だぁ。始めから近付いて、内情に探りを入れるつもりだった。素顔のまま近付いたのは……まあ成り行きってやつだぁ」
驚いた顔をする水野の隣に、どっかりと座り込む。
先程までは水野のことを気にして練習に身が入っていなかった野球部だが、スクアーロが来たことに安心したのか、本格的に練習を始めている。
ほんの数日前まで、山本武もあそこにいたのだろう。
「お前、野球部入んのかぁ?」
「……あ?」
「さっきからずっと見学してるんだろぉ。教師の一人に聞いたぁ」
「……別に」
目を細めて白球が宙を滑っていくのを見て、水野はうつむき加減に首を振った。
きっとここに山本がいたら、いつも通りに明るく笑いながら、彼を野球に誘っていたのだろう。
何となくそう思って、スクアーロは近くに転がっていたグローブを掴み、隣にあったボールを拾った。
「お゙ーう、借りるぞぉ!」
「え……あ、はい!」
「……あんた、何する気だ?」
「あ゙あ?何って、キャッチボールだキャッチボール。お前もグローブ借りろ。広いとこ行くぞぉ」
「……は?」
困惑した様子の水野を連れて、グラウンドの端の開けたところに向かったのだった。
そんな疲れた様子を見せるスクアーロに対して、声をかけたのは笹川京子であった。
「スクアーロさんが先生になってくるなんて、思いませんでした!でも、あの……大丈夫ですか?」
「慣れてないだけで、大したことはねぇ。お前こそ、大丈夫なのかぁ?友達と帰るんじゃないのか?」
「あ、その……花には先に帰ってもらったんです。お話ししてこうと思ったから……」
二人が話しているのは、人のいなくなった教室で、スクアーロの座る机の前には、幾つかの書類が置いてある。
実習生としての仕事をしていたらしかった。
「その……スクアーロさん……じゃなくて、先生って言わなきゃですよね!」
「……無理に先生ってつけなくても良い。好きに呼べよ。どうせ先生なんかになる気はねぇしな」
未来の記憶の中で触れ合っていた、一般人である京子。
彼女の問いに答えたスクアーロは、しかしやはり、疲れたようにため息を吐く。
慣れないことはするものじゃない。
一日中笑顔を浮かべるという苦行のおかげで、スクアーロの頬は筋肉痛になっている。
京子は心配そうな表情のまま、ちょこんとスクアーロの隣に座った。
時刻は既に夕方。
放課後の教室には、いつもはよく聞こえる野球部の声も聞こえず、とても静かだった。
「……どうかしたのかぁ?」
「あ……別に何かある訳じゃないんですけど、私にも何か、お手伝い出来ないかなって……」
チラッと見上げて、恥ずかしそうにモジモジとしながらそう言った京子に、スクアーロは驚いたように目を見開く。
「……ありがとな。でも大丈夫だぁ。学生は、自分の勉強を頑張れよ」
「はい!」
「良い返事だ」
よしよしと頭を撫でて、スクアーロは書類を持って教室を出ていった。
久々に癒されて、心なしか彼女の顔もスッキリしているようだった。
しかし神様は、彼女の安らぎを許すことはないようだ。
「ス、スクアーロ君!ちょっと良いかね!?」
「……はい」
後ろから呼び掛けられ、振り向いたスクアーロの顔は既に、仕事の時のそれだった。
* * *
「彼が水野薫君だ。転校生で……クラスメイトから少し浮いてしまっているみたいでね」
「はあ」
少し離れた位置から野球場を覗き、こそこそとそう言った教師の言うことには、彼の面倒をスクアーロに頼みたいとの事だった。
なるほど、野球部の声が聞こえなかったのは、水野に睨まれてビビっていたからだったのか。
納得して、スクアーロは頷く。
要は見るからに不良で面倒そうな生徒を、暇そうな実習生に丸投げして、自分達は安全地帯から高みの見物、と言うわけだ。
しかしこれは、スクアーロにとっては好都合だった。
二つ返事で頷いて、逃げるように去っていく教師を見送った後、野球部の練習を離れた場所から見ている水野に近付いた。
「こんにちは、水野君だね」
「あんたは……」
「スペルビ・スクアーロという。この学校で教育実習を受けている」
「そんな……嘘だ」
一応、偽りの設定通りに自己紹介をしてみたが、胡散臭げな視線を向けられてすぐに否定をされた。
それもそうだ、彼らは既に彼女の本来の顔に気付き、警戒をしている。
「……ま、そうなるだろうなぁ。お前らシモンファミリーは、オレの正体をわかっているんだろぉ」
「知っていて、近付いてきたのか?」
「まあ、今回の式典の『お客様』だぁ。始めから近付いて、内情に探りを入れるつもりだった。素顔のまま近付いたのは……まあ成り行きってやつだぁ」
驚いた顔をする水野の隣に、どっかりと座り込む。
先程までは水野のことを気にして練習に身が入っていなかった野球部だが、スクアーロが来たことに安心したのか、本格的に練習を始めている。
ほんの数日前まで、山本武もあそこにいたのだろう。
「お前、野球部入んのかぁ?」
「……あ?」
「さっきからずっと見学してるんだろぉ。教師の一人に聞いたぁ」
「……別に」
目を細めて白球が宙を滑っていくのを見て、水野はうつむき加減に首を振った。
きっとここに山本がいたら、いつも通りに明るく笑いながら、彼を野球に誘っていたのだろう。
何となくそう思って、スクアーロは近くに転がっていたグローブを掴み、隣にあったボールを拾った。
「お゙ーう、借りるぞぉ!」
「え……あ、はい!」
「……あんた、何する気だ?」
「あ゙あ?何って、キャッチボールだキャッチボール。お前もグローブ借りろ。広いとこ行くぞぉ」
「……は?」
困惑した様子の水野を連れて、グラウンドの端の開けたところに向かったのだった。