if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「どういうことなんスか10代目ぇ!?」
「いや、その……色々あって……」

一時間目が始まる前の短い時間、スクアーロは綱吉と獄寺に連れられて、人気のない階段の踊り場にいた。

「沢田のことを狙う敵は、昼も夜も、家でも学校でも、構うことなく襲ってくる。近くにいた方が警戒もしやすいだろぉ」
「それならこのオレがお守りする!ヴァリアーは引っ込んでろ!」
「うるせぇ、オレだって仕事なんだぁ。それに、調べたいこともあったからなぁ」
「はあ?」

人が来ないように警戒しているのか、チラリと階段の上下を見遣りながら話すスクアーロに、二人は首を傾げる。
そう言えば登校の時にも同じようなことを言っていたな、と、綱吉は思い出してさらに首を傾げた。

「調べたいことってなんなの?」
「……まあ、な」

軽く首を振って、スクアーロはそう言っただけだった。

「お゙ら、もう授業始まるだろぉ。さっさと教室戻れよ」
「えっ?ま、待ってよスクアーロ!」
「10代目、とりあえず教室に戻りましょう!この野郎を追い出す作戦は後々考えましょうね!」
「考えないよ!?」

結局、スクアーロの目的は分からないままだったが、二人は渋々と教室に戻ることになったのだった。


 * * *


「先生~!ここ教えてくださ~い!」
「はい、ここは……」
「先生~、こっちもお願いします!」
「少し待っていてくださいね」

あっちこっちから呼ばれ、机の間を行ったり来たりしているスクアーロを見て、炎真はぼんやりと考え込んでいた。
髪は黒いが、確実に昨日出会った、あのスクアーロと同一人物だろう。
しかし、暗殺部隊であるはずの彼が、なぜこんなことをしているのだろう。
護衛は彼の首尾範囲外じゃないのか?
それ以前に、こんな目立つ真似、この男がするのは不自然だ。
弱小ファミリーなんて呼ばれて、マフィアの中でも除け者とされてきた自分達でも、ヴァリアーのスクアーロと言う名前は聞いたことがある。
獰猛で狂暴で、鮫のように恐ろしい男。
あの噂は、真実ではなかったのだろうか。
生徒達の質問に丁寧に答え、人懐こい笑顔を浮かべる彼は、とてもマフィアや暗殺者には見えない。
……そう、見せ掛けているだけなのか。

「……ぁ」

ずっと観察していたのに気付かれたのだろうか、炎真の視線と、スクアーロの視線がかち合った。

「古里君、課題は進んでいますか?」
「え……あ……」

今の課題は、英文の和訳だ。
手元のノートに日本語訳を書かなくてはならないのだが、炎真のノートは真っ白だった。

「ご、ごめんなさい……あの……まだ……。すぐ、やります……」
「……焦らなくても良いですから、自分のペースで進めてくださいね」
「え……」

ぽん、と柔らかく肩を叩かれた。
緊張して固まった炎真に気付いているのかいないのか、スクアーロは優しそうに笑って、炎真から離れていく。

「……」

あんなに優しく笑えるのか。
今まで、数え切れないほどの人を屠って来たのだろうその手で、そんなに優しく人に触れることが出来るのか。
彼は……彼は一体、何を思って、自分に笑いかけてくるのだろうか。
目を細めて笑うスクアーロが、炎真には酷く、不気味に思えて仕方がなかった。
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