if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「大変です!風紀委員長と転校生が喧嘩を……!」
「なに……!?どこだね!案内しなさい!!」
「は、はい!」

早朝、朝礼もそこそこに、職員室へと飛び込んできた生徒が叫んだ。
一気に慌ただしくなる教師達。
残った内の一人の教師は、引き攣った笑みを浮かべて、隣に立っている人物の顔色を窺いながら話し掛ける。

「ちょ、ちょっと今朝は騒がしいですけれど、いつもはこんなこと、ないんですよ?」
「そうですか」
「だから安心して、実習に励んでくださいね、スクアーロさん」

元気付けるように言った教師に、スクアーロはふわりと、人好きのする笑みを張り付けて返した。

「はい、精進させていただきます」
「そ、そうですか!良かった良かった!!慣れない日本での実習で、苦労することもあるだろうけど、一人で悩まないで、私達に相談してきてくださいね!」
「お気遣い、ありがとうございます」

頭を下げたスクアーロの頬を、さらりと絹のような黒髪が撫でる。
彼女自身の髪……だが、染めている訳ではなく、幻術でそう見せているだけだ。
背が高く、顔が整っていて、謙虚に挨拶を交わす彼女に、数人の女教師はわずかに頬を赤くしていた。
……当たり前のことながら、スクアーロはいつも通りに、男物のスーツをスマートに着こなしている。
男にしか見えない彼女、いや、自分から男として見せている彼女。
今回はイタリアから教師になるために留学してきた大学生、という如何にも優等生な役を演じていた。
ボンゴレの元でソロで働いていたときならまだしも、ヴァリアーとしてこんな任務を請け負うのは珍しい。
何となく拭いきれない違和感を覚えながら、担当するクラスの担任教諭につれられて廊下を歩く。

「最近起こった地震のせいで、一時的に転校してきている子達もいるが、気負わず一緒に勉強していきましょうね」
「はい、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
「そんなに固くならんでもいい。肩の力を抜いてやりなさい」
「はい」

適当に言葉を返しながら、壮年の教師の後に付き、クラスに入った。
ざわめいていたクラスが一瞬静まり返り、そして先程以上のざわめきが起こる。

「静かに、静かに!今日から教育実習で来てくれる先生を紹介します。さあ君、前に出て自己紹介を」

言われるがまま、1歩進んで口を開いた。

「スペルビ・スクアーロと申します。不馴れな部分もありますが、精一杯勤めさせていただきますので、今日から2週間、よろしくお願いします」

愛想好く、にこりと笑う。
クラスの女子の間から、黄色い悲鳴が上がった。
そう計算しての行動だが、中学生はやはりチョロいな、などとスクアーロは胸の内で考えてしまう。
若いと言うか、ものを知らないと言うか。

「だっ!なぁ……!おまっ!?」
「ご、獄寺君落ち着いて!落ち着いて!!」

そう聞こえた方角へチラリと目を向けると、口をパクパクと動かして意味不明な音を発する獄寺と綱吉がいる。
そちらの二人にも、にこりと笑う。
ただしこちらへは愛想抜きの脅し笑顔。
『黙って見てろ』と言わんばかりの、威圧感たっぷりな笑顔を送る。
途端、静かになった二人から目を離し、もう一度他の生徒達に向き合ったスクアーロは、にこやかに話した。

「担当は英語ですが、勉強のことで疑問に思ったことがあれば遠慮なく聞いてください。……もちろん、勉強以外のことでも、ね?」

タイミング良く鳴ったチャイムとともに、自己紹介を締め括る。
1限目が始まるまでの間、真っ先にスクアーロに話し掛けてきたのは、やはり綱吉と獄寺の二人組だった。
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