if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
さて、シモンファミリーを調べると言っても、彼らの側に近寄らなければ、調べようがない。
「そう言うわけだから、今日からオレは教育実習生としてお前らの中学校に入る」
「え!?どういうわけなのっ!?初耳だよそれ!!」
「事情は察しろぉ」
「無理だよ!!」
翌日、慌ただしく準備をして家を出た綱吉を、スクアーロが待ち構えていた。
そして二人並んで歩き出した直後にこの発言である。
「学校でも一緒にいなくちゃならないくらい、ヤバイ敵がいるってこと!?」
「そんなんじゃあねぇ。少し調べたいことがあるだけだぁ」
「し、調べたいこと……?」
「察しろぉ」
「またそれっ!?」
昨晩の内にリボーンと話し、シモンの正体を伝えるタイミングはリボーンが決める、ということになっていた。
スクアーロはただ黙って、シモンのことを調べるだけだ。
「じゃあ、そろそろ別行動だぁ。一応、部下を一人、近くに置いて監視させておくから、まあ心配はするなぁ」
「あ、わかった……じゃあね!」
ずっと先の方に古里炎真の姿を見つけて、スクアーロは綱吉にそう言った。
初めの内は、頻繁な接触は避けた方が良い。
これまでの経験則からそう判断して、彼から離れるように道を選んで学校に向かった。
しかし、それにしても、シモンというファミリーはどうにも掴み所がない。
学校の名前にファミリーの名が使われているということは、本拠地周辺の土地に、少なからず影響力を持ったマフィアだということだ。
しかしそれは、あらかじめ聞いていたシモンファミリーのイメージとは離れているように思えた。
既に廃れた弱小ファミリー。
もう大した力もないものだと思っていたが……、彼らの様子を見るにそう言うわけでもないのか。
古里炎真はともかくとして、他の奴らはそれぞれとてもキャラが強そう……いや、喧嘩もなかなか強そうに見える。
まあ何もわからない今、推測ばかりしたところでどうにもならないか。
「チッ……。ったく、面倒くせぇ」
1つ舌打ちをして、スクアーロは学校の門を潜った。
* * *
「あー……ツナももう10代目かぁ……」
「めでてーことだな」
「ちょっと、寂しくはあるけどな」
とあるホテルの一室、いまだ日本に留まっている跳ね馬ディーノは、溜まった仕事を手際よく片付けながら、落ち着いた……いや、落ち込んだ様子で右腕との会話を交わしていた。
「寂しいのはボンゴレ10代目のことよりも、気になっている女性に拒絶されたことでしょう」
「うっ……」
そんな彼に厳しくツッコんだのは、わざわざイタリアから仕事と共に追い掛けてきたリコだった。
ロマーリオから大まかな事情を聞いて、リコは呆れたように首を振ったのだった。
「あなたもキャバッローネのボスならば、強引に唇を奪ってくるくらいの気概を見せてください」
「そっち?」
「どっちもこっちもありません。相手が誰だかは知りませんが、恋をするのならば本気でなさい。それでもイタリア人ですか」
「イタリア人かどうかは関係ねーだろ?つーか別に恋って言うほどのものでもないし……さ……」
リコの言葉に意地になったように、ディーノは鼻を鳴らして、乱暴に目の前の書類にサインした。
仕事はもちろん真面目にやっているつもりなのだが、やり場のないイライラに、どうしても乱暴になってしまう。
「それだけ心乱されていて、それのどこが『恋って言うほどのものでもない』のですか。それとも、遊びのつもりで接していたとでも言うのですか?」
「そうじゃねーよ!ただ……その……庇護欲?みたいな……。放っておけなかっただけで……」
「キスしようとしたくせに?」
「それはちょっとしたお茶目だったんだよ!つーかロマ!ちょっとペラペラしゃべりすぎなんじゃねーのか!?」
「別に良いだろ?減るもんでもなし」
当たり散らすように乱暴な調子で、しかし順調に書類を片付けていきながら、ディーノは過去を振り返る。
もちろん、スクアーロの事は嫌いじゃない。
どちらかと聞かれれば、好き。
そして彼女を、正しく女性として見ているということも、否定はしない。
だがそれと、自分が彼女に恋してるかっていうのは、また別の話だ。
好きだ。
助けてあげたいと思う。
力になりたいとも思う。
いつもはつんけんしてるけど、からかうと楽しかったし、第一印象で思っていたよりも、ずっと良い奴、優しい奴だと知っている。
好きな人だ。
好きなタイプの人間だ。
笑ってた方が、きっともっと可愛いし、あんな辛そうな顔は見たくない。
でも、それと『恋してるか』っていうのは何だか、違う気がする。
自分の好きな女のタイプからは、かけ離れている。
声はでかいし、仕事ばっかしてる変わり者だし、戦闘狂だし、つーか怖いし、何でも出来てしまうところとか嫌味だし、無駄に容姿は整ってるし、変なところで初だし、よく殴るし、そもそもヴァリアー自体にあまり良いイメージないし。
「……うん、別に女として好きとか、愛しちゃってるとか、そんなことない。ないない。別に嫌いじゃねーし、人としては好きだけどさ」
「…………へぇ、まあ、ボスがそう言うのならば、それで構いませんけどね」
「なんだよ、意味深な言い方しやがって」
「別にそんなことはありませんよ」
リコの言い方に、ディーノは不機嫌そうに顔をしかめる。
それでも書類仕事を続ける彼の背中を見ながら、ロマーリオがリコに囁いた。
「な?面白いだろ」
「ええ、まあ、面白いほどに先が思いやられます」
言葉とは裏腹に、二人の表情は苦い。
「ほら、仕事終わったぞ!」
「いつもながらお早いですね」
「じゃあオレはちょっと出掛けるから……」
「出掛けるって……どこにいくんですか?」
「え!?それは……その……」
「ああ、その例の彼女の元へですか」
「うぐっ……そうだよ!悪いか!?」
これのどこが好きじゃないのか、という顔で肩をすくめたリコに、ディーノはムッとして言い返した。
「アイツすぐに無茶するから、目ぇ離すの怖いんだよ!男女の関係って言うよりもう保護者!?」
「ボスに保護者面されるとは……。どのような方かは存じ上げませんが、同情を禁じ得ませんね」
「お前オレのこと嫌いなの!?」
リコが、ディーノの想う相手を知ったらなんと言うのだろうか。
彼らの会話を聞きながら、ロマーリオは顔の筋肉を引き攣らせた。
今は考えないでおくのが良い。
リコを振り切って駆け出していくディーノのあとを、重たいため息を吐きながら、ロマーリオは追っていったのだった。
「そう言うわけだから、今日からオレは教育実習生としてお前らの中学校に入る」
「え!?どういうわけなのっ!?初耳だよそれ!!」
「事情は察しろぉ」
「無理だよ!!」
翌日、慌ただしく準備をして家を出た綱吉を、スクアーロが待ち構えていた。
そして二人並んで歩き出した直後にこの発言である。
「学校でも一緒にいなくちゃならないくらい、ヤバイ敵がいるってこと!?」
「そんなんじゃあねぇ。少し調べたいことがあるだけだぁ」
「し、調べたいこと……?」
「察しろぉ」
「またそれっ!?」
昨晩の内にリボーンと話し、シモンの正体を伝えるタイミングはリボーンが決める、ということになっていた。
スクアーロはただ黙って、シモンのことを調べるだけだ。
「じゃあ、そろそろ別行動だぁ。一応、部下を一人、近くに置いて監視させておくから、まあ心配はするなぁ」
「あ、わかった……じゃあね!」
ずっと先の方に古里炎真の姿を見つけて、スクアーロは綱吉にそう言った。
初めの内は、頻繁な接触は避けた方が良い。
これまでの経験則からそう判断して、彼から離れるように道を選んで学校に向かった。
しかし、それにしても、シモンというファミリーはどうにも掴み所がない。
学校の名前にファミリーの名が使われているということは、本拠地周辺の土地に、少なからず影響力を持ったマフィアだということだ。
しかしそれは、あらかじめ聞いていたシモンファミリーのイメージとは離れているように思えた。
既に廃れた弱小ファミリー。
もう大した力もないものだと思っていたが……、彼らの様子を見るにそう言うわけでもないのか。
古里炎真はともかくとして、他の奴らはそれぞれとてもキャラが強そう……いや、喧嘩もなかなか強そうに見える。
まあ何もわからない今、推測ばかりしたところでどうにもならないか。
「チッ……。ったく、面倒くせぇ」
1つ舌打ちをして、スクアーロは学校の門を潜った。
* * *
「あー……ツナももう10代目かぁ……」
「めでてーことだな」
「ちょっと、寂しくはあるけどな」
とあるホテルの一室、いまだ日本に留まっている跳ね馬ディーノは、溜まった仕事を手際よく片付けながら、落ち着いた……いや、落ち込んだ様子で右腕との会話を交わしていた。
「寂しいのはボンゴレ10代目のことよりも、気になっている女性に拒絶されたことでしょう」
「うっ……」
そんな彼に厳しくツッコんだのは、わざわざイタリアから仕事と共に追い掛けてきたリコだった。
ロマーリオから大まかな事情を聞いて、リコは呆れたように首を振ったのだった。
「あなたもキャバッローネのボスならば、強引に唇を奪ってくるくらいの気概を見せてください」
「そっち?」
「どっちもこっちもありません。相手が誰だかは知りませんが、恋をするのならば本気でなさい。それでもイタリア人ですか」
「イタリア人かどうかは関係ねーだろ?つーか別に恋って言うほどのものでもないし……さ……」
リコの言葉に意地になったように、ディーノは鼻を鳴らして、乱暴に目の前の書類にサインした。
仕事はもちろん真面目にやっているつもりなのだが、やり場のないイライラに、どうしても乱暴になってしまう。
「それだけ心乱されていて、それのどこが『恋って言うほどのものでもない』のですか。それとも、遊びのつもりで接していたとでも言うのですか?」
「そうじゃねーよ!ただ……その……庇護欲?みたいな……。放っておけなかっただけで……」
「キスしようとしたくせに?」
「それはちょっとしたお茶目だったんだよ!つーかロマ!ちょっとペラペラしゃべりすぎなんじゃねーのか!?」
「別に良いだろ?減るもんでもなし」
当たり散らすように乱暴な調子で、しかし順調に書類を片付けていきながら、ディーノは過去を振り返る。
もちろん、スクアーロの事は嫌いじゃない。
どちらかと聞かれれば、好き。
そして彼女を、正しく女性として見ているということも、否定はしない。
だがそれと、自分が彼女に恋してるかっていうのは、また別の話だ。
好きだ。
助けてあげたいと思う。
力になりたいとも思う。
いつもはつんけんしてるけど、からかうと楽しかったし、第一印象で思っていたよりも、ずっと良い奴、優しい奴だと知っている。
好きな人だ。
好きなタイプの人間だ。
笑ってた方が、きっともっと可愛いし、あんな辛そうな顔は見たくない。
でも、それと『恋してるか』っていうのは何だか、違う気がする。
自分の好きな女のタイプからは、かけ離れている。
声はでかいし、仕事ばっかしてる変わり者だし、戦闘狂だし、つーか怖いし、何でも出来てしまうところとか嫌味だし、無駄に容姿は整ってるし、変なところで初だし、よく殴るし、そもそもヴァリアー自体にあまり良いイメージないし。
「……うん、別に女として好きとか、愛しちゃってるとか、そんなことない。ないない。別に嫌いじゃねーし、人としては好きだけどさ」
「…………へぇ、まあ、ボスがそう言うのならば、それで構いませんけどね」
「なんだよ、意味深な言い方しやがって」
「別にそんなことはありませんよ」
リコの言い方に、ディーノは不機嫌そうに顔をしかめる。
それでも書類仕事を続ける彼の背中を見ながら、ロマーリオがリコに囁いた。
「な?面白いだろ」
「ええ、まあ、面白いほどに先が思いやられます」
言葉とは裏腹に、二人の表情は苦い。
「ほら、仕事終わったぞ!」
「いつもながらお早いですね」
「じゃあオレはちょっと出掛けるから……」
「出掛けるって……どこにいくんですか?」
「え!?それは……その……」
「ああ、その例の彼女の元へですか」
「うぐっ……そうだよ!悪いか!?」
これのどこが好きじゃないのか、という顔で肩をすくめたリコに、ディーノはムッとして言い返した。
「アイツすぐに無茶するから、目ぇ離すの怖いんだよ!男女の関係って言うよりもう保護者!?」
「ボスに保護者面されるとは……。どのような方かは存じ上げませんが、同情を禁じ得ませんね」
「お前オレのこと嫌いなの!?」
リコが、ディーノの想う相手を知ったらなんと言うのだろうか。
彼らの会話を聞きながら、ロマーリオは顔の筋肉を引き攣らせた。
今は考えないでおくのが良い。
リコを振り切って駆け出していくディーノのあとを、重たいため息を吐きながら、ロマーリオは追っていったのだった。