if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「……やっぱり面倒だ。オレは外で待ってる」
「んー……どしても、って言うなら止めないけど、寒くない?」
「これくらい大したことねぇ」

綱吉と転校生……もとい、炎真と共に来た沢田家の前で、やはり面倒になったらしく、スクアーロはクルリと踵を返した。
秋の風が吹き付ける外で待っているのは、やはり寒いだろう。
しかしスクアーロは、綱吉の言葉も気にせず、さっさと闇の中へと去っていった。

「あの人、君の友達?」
「え!?あ、えーと……んー……。まあ、そんなところ、かな……?」

そう言えば、自分にとってスクアーロはどういう存在なんだろう。
その場は誤魔化して、ヘラっと笑ってそう言ったが、綱吉の心には小さなわだかまりが残る。
初めて会ったときには敵同士だった。
でも今は、自分達に協力をしてくれたり、守ってくれたり、何かと頼りになる人だ。

「……あ、早く入ろう!そのズボン、母さんにいって縫ってもらわなきゃね」
「…………うん」

炎真はしばらくの間、スクアーロの去っていった方へと視線を向けていたが、綱吉に促されて家の中へと入っていった。


 * * *


「ツナと一緒に、家に入れば良かったじゃねーか」

リボーンの言葉に、スクアーロは気怠げに前髪を掻き上げて顔をしかめる。

「古里炎真が、思っていたよりも警戒していたからなぁ」
「やっぱり、お前の正体に気付いてるってことか?」
「……可能性は高い」
「まあ、ヴァリアーのスクアーロっつったら、裏社会じゃ超の付く有名人だからな」
「お前ほどじゃねぇだろうがぁ」

ポツポツと会話を交わしながら、お互い一口ずつ飲み物に口をつけたところで、リボーンはスクアーロに渡された紙と、転校生が落としていった手紙を机の上に並べた。
二人がいるのは、綱吉達の家に近い小さな喫茶店で、人の少ないそこは確かに密談には向いているだろう。
何より、二人から少し外れた位置には、幻術士の男が立って、絶えず周囲を警戒している。
並べた紙を見ながら、リボーンはいつもと変わらないポーカーフェイスで言った。

「古里炎真達、至門中学の転校生は全員マフィア。これは確かな情報なんだな?」
「間違いねぇ。ボンゴレとは1世の頃に関わりがあった組織だが、昔と違って今は力を失い、裏社会の片隅に追いやられたファミリー……だと聞いている」
「聞いている?お前はその情報を信じてねぇってことか?」
「9代目だけが、口伝で知っていた情報だぁ。とてもそれだけで信用なんざ出来ねぇ」
「ふん。まあヴァリアーからすれば、そうだろうな」

納得したように頷いたリボーンに対して、スクアーロは更に眉間のシワを深くする。

「シモンの連中と沢田達は年が近い。これから奴らとの関わりは格段に増えていくだろう」
「警戒する必要のあるファミリー……ってことか?」
「警戒をするに越したことはねぇ、ってことだぁ」

表面上は弱くて友好的なファミリーと見せ掛けていても、裏では何を考えているのか、わかったものではない。
今まで、そんな策にハマって潰されていくファミリーをたくさん見てきた。
スクアーロにとっては、外の人間と言うのはいつ裏切ってもおかしくない敵だ。
信頼など、するだけ損だと思っていた。

「信頼するにはまだ早すぎる」
「……わかったぞ。オレも詳しく調べてみる」
「オレも、近付けるだけ近付いてみよう」

他人を信頼しないのは、裏切りをたくさん見てきたから、だけではない。
スクアーロ自身、多くの人間を欺いてきた。
時には仲間に扮し、時には友に成り、幾人もの敵を裏切ってきた。
今更、他人を信じろと言うのは無理な話だ。

「意外だな」
「ああ゙?何がだぁ?」
「お前がここまで協力的なのが、だぞ」
「はあ?」

唐突にリボーンが口にした言葉に、きょとんと首を傾げる。
仕事と言われれば、今まで何でもしてきた。
意外なのではなく、ただリボーンが知らなかっただけだろう。
そう言おうと口を開いたスクアーロより早く、リボーンは話を続ける。

「別にお前が仕事に積極的なのに、意外性はねーぞ。ただ、敵候補は愚か、護衛対象にも積極的に関わっていこうとする姿勢が、意外だっつってんだ」
「は?」
「ツナ達と仲良くしてくれてんのが、ありがてーってことだな」
「はあ!?」

仲良くしてるつもりなんて、これっぽっちもなかった。
リボーンの言葉を聞いて、不快そうな表情を浮かべたスクアーロに、リボーンは悪戯っぽく笑って、更に言う。

「ツナと話してる時のお前の顔は、暗殺者には見えなかったぞ」
「なに言って……」
「でも一番意外な顔してたのは、ディーノの前にいるときだったな」
「なっ……!」

言葉を失い、はくはくと口を動かすスクアーロに、リボーンはにやっとニヒルに笑う。

「結構可愛い顔してたぞ」
「っ……!!わ……け、わかんねーこと言ってんじゃねぇぞぉ!!」
「じゃーな、ちゃお」
「あ……ゔぉい!!」

机から飛び降りて去っていくリボーンを、なにも言えずに見送る。
スクアーロの心は、混乱の渦の中にあった。

「なんだよ……顔って……」

ぺたりと、自分の顔に触る。
澄百合の少女達を陰険に扱わなかったのには、そこから学園にパイプが作れるかもしれない、という打算が少なからずあったからだ。
いや、スクアーロがもともと他人を邪険にすることは、滅多にない。
仲良くしておいて損はない。
深入りさえしなければ。
だがかつての敵同士であり、今さら仲良くする意味もない綱吉やディーノ達と、自分はどうして仲良くしているのか。
任務を円滑に進めるため?
今からでも彼らを懐に取り込んで、美味しい汁を啜るため?
それならば、あんな中途半端な付き合い方をしたり、つまらないことで喧嘩したりなんて、しない。

「何……やってんだろ、オレ……」

深く深く、ため息を吐く。
飲み掛けのまま机においてあったコーヒーに、小さな波紋が立った。
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