if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「あー!もう!転校生全然見付からないよーっ!」
「もっと気合い入れて探せぇ」

既に日の暮れた並盛町の一角で、イライラと叫んだ綱吉の隣で、スクアーロはやる気なく相槌を打つ。
そんな彼女を睨んで、綱吉は恨みがましく言った。

「そんなこと言って、スクアーロ全然手伝ってくれないじゃん!やる気ないの!?」
「ない」
「やっぱりーっ!!!」
「オレの仕事はテメーの護衛だぁ。人探しを手伝ってやる義理はねぇ」
「ううっ!言われてみればそうだけど……!!でも、ちょっとくらい手を貸してくれたって良いじゃん……」
「……チッ、とりあえず向こうの方探してみるぞぉ」

ダルそうに言って、スクアーロはまだ探していない方に歩き出す。

「あんなに怪我して、服もボロボロになってたんだぁ。人の多いところにゃいねぇだろぉ」
「あ、そっか。でも人の少ないところっていうのも、色々あるからなー……」
「人の少ないところで、更に学校からは離れたところが良いだろうなぁ。また面倒な輩に捕まったら、堪ったもんじゃあねぇだろう」
「んー……不良の少ないとこだと、こっちの方かな……あ!」
「……いたなぁ」

二人で考えながら……と言うよりは、スクアーロが考察して、綱吉が場所を導き出す。
そうしてようやく、目的の人を見つけ出すことが出来たのである。
彼はどうやら、破られた自分の服を繕っていたようだ。

「自分で縫えるんだ!!」
「わっ」

裁縫をしていることに気付いたのだろう。
そう声を掛けた綱吉だったが、転校生は突然のことに驚いたらしく、持っていた縫い針を指に刺してしまう。
勢いよく飛び出た血に、声を掛けた綱吉もまた驚いた。

「なっ、大丈夫!?」
「随分深く刺したなぁ」
「スクアーロはのんびりしすぎ!ゴメンね!驚かすつもりじゃなかったんだ!!落としてった教科書を届けようと……!」
「……はひはほ」

慌てて駆け寄っていく綱吉とは対照に、スクアーロは怪我など見慣れているのか、のんびりと歩いて近づいていく。
綱吉の意図に気付いたのか、転校生は怪我をした指を口に咥えながら、もごもごと言う。
どうやら、ありがとう、と言いたかったようだが、かなり聞き取りづらい。

「ほこにおいほいへ」

これはどうやら、そこに置いといて、と言っているらしい。

「いや……でもっ!」
「らいほうふ」

怪我を心配して、綱吉は彼に手を伸ばすが、転校生は立ち上がって縫ったズボンを履こうとしている。
本人が大丈夫と言っているのだから、放っておけばいいのに、と思うスクアーロ。
彼女の視線の先では、綱吉が転校生の声を初めて聞いたことに若干感動しているようである。

「あ」

転校生の声に、二人の視線は彼の足元へと向けられる。
彼のズボンの裾は、何故かもう一方の膝に縫い付けられてしまっている。
あれではまともに履くことはできないだろう。
さすがの綱吉も唖然としていて、そんな様子を見た転校生は自虐気味に呟いた。

「不器用なんだ、笑えばいいよ」
「えっ」

そんな言葉に、綱吉の口からは間抜けな声が漏れる。
まさか自分以外にこんな卑屈な言い方する人間がいたなんて、というところか。
そして、ズボンを中途半端に履いていたせいか、突然転校生はバランスを崩してよろける。
慌てて綱吉は、彼の服を掴んで止めようとしたが、二人はそのまま、近くを流れていた川に倒れ込んでいき……。

「チッ……、危なっかしいなぁ」
「ス、スクアーロ……!!」

いつの間にそんなに近くまで来ていたのか、スクアーロは綱吉の腕をしっかりと掴んで、彼らが川に落ちるのを止めていた。
ため息を吐きながら彼らを助け起こし、スクアーロは心底呆れたというような目で二人を見る。

「お前ら、どんだけトロいんだぁ?」
「そ、そこまで言うーっ!?」
「……ありがとう、さっきも、今も……」
「……礼も言えねぇ様なカスなら、ここでぶん殴ってやろうかとも思ってたがぁ、そうでもないみてぇだなぁ」
「ちょっ!そんなこと考えてたの!?」

物騒なことを言い出すスクアーロから、転校生は少し後ずさって距離をとる。
まあ、目付きも態度も口調も悪くて、さらに面と向かってああいうことを言われたら、逃げ出したくなるのも頷ける。
綱吉は心の中でひっそりと同情しながら、ズボンを脱いで困った顔をする彼に、一つ提案をした。

「ねえ、キミ家に来ない?」
「え?」
「家なら、母さんがそのズボン縫い直してくれると思うし、ほら、怪我の手当も出来るから!」
「でも……」
「……そのままパンイチで帰るよりは、いい提案だと思うがなぁ」

もちろん、スクアーロは裁縫ぐらい簡単にこなすことが出来るはずだが、どうやらやってやる気はないようだ。
……いや、彼の素性を詳しく知る、良い機会だとでも考えているのかもしれない。

「……じゃあ、おじゃま、します……」

控えめにそう言った彼を連れて、三人は綱吉の家へと向かうことにしたのだった。

「……オレも家に上がる感じかぁ?」
「え、そのつもりだったけど……ダメ、かな?」
「……テメーの親への説明が面倒くさい」
「あー……母さんならまあ、何とかなるよ」

さて、何て誤魔化そうか。
頭をひねる綱吉は、注意深く転校生を観察するスクアーロには気づかなかった。
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