if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「次は……次に会うときには、絶対にあなたに参ったと言わせて差し上げます!だから……あの、だからまた、私と戦ってくださいますか?」
「……?ああ゙、構わねぇぜ」

と、年頃の少女らしく恥じらい、頬をほんのりと染めながら、回路木雪はそう言って、スクアーロ達の元から帰っていったわけである。
というか、スクアーロ達の手で、彼女らの指定する場所まで、送っていってあげたのだった。
手を振る少女達に、スクアーロも軽く手を上げて返し、元来た道を戻っていく。

「……」
「……」
「……」

そして、車内には3人分の沈黙が降りる。
頑なにディーノと目を合わせないスクアーロ、そして彼女の様子を窺っては困ったように視線を下げるディーノ。
そんな二人を見かねて、運転席に座るロマーリオは、口を開いたのだった。

「……沢田さん達には、ヴァリアーの人間をつけてあるんだろう?」
「ああ、そうだぁ。今のところはアイツらだけで護っているが、すぐにオレも合流する」
「そうか、ならオレ達も……」
「お前らは必要ねぇ。つーか、マフィアのボスが、いつまで日本で下っ端の仕事手伝ってんだぁ?さっさと帰って、継承式に行くスーツでも用意してろよ」

ディーノが口を出そうとした瞬間、スクアーロはそれをピシャリとはね除けた。
彼女の顔には、あからさまに迷惑である、という表情が浮かんでいて、ディーノは言葉も出せないまま、口を閉じることしか出来なかった。
確かに、まあ確かに、幾つもの組織を従えるボスが、日本で走り回っているというのは、あまり外聞の良いことではない。
だが、大切な弟分を護ってやりたい気持ちとか、気になる人の側にいて支えてやりたい気持ちとか、そんなものをもうちょっと汲んでくれたって良いじゃないか。
そんなディーノの想いを代弁するように、ロマーリオが話し出す。

「ボスの気持ちも汲んでやってくれよ。お前や、沢田さんが心配なんだろ?それにうちのファミリーは、ボスが不在ってだけで簡単に崩れるような、柔いファミリーじゃあねぇ。そんな心配は不要だ」

スクアーロは更に嫌そうに顔をしかめた。

「……勝手にしろぉ」

それだけ言うと、再び黙りこくる。
重苦しい沈黙が再び立ち込め、ロマーリオは流石に額に青筋を浮かべる。

「おい、お前何がそんなに気に食わない?」
「……あ゙あ?」
「さっきから黙ってみてりゃあ、うちのボスの言うことすること全部気に入らねぇ、って顔しやがって。テメーは何様のつもりだ、ああ?」
「いきなり……なんだよ」
「悩んだりイライラしたりするのは、テメー一人で勝手にやってろって言ってんだよ。ガキじゃあねぇんだ、周りの人間に甘えて、いつまでもうだうだやってんじゃねぇ」
「ちょっ!ロマーリオ!?」

タイミングよく、赤になった信号機の前で車を停めて、ロマーリオはミラー越しにスクアーロを睨む。
自分の主は優しい。
もっと言ってしまえば、酷いお人好しだ。
だからいつまで経っても、ぐだぐだと悩み続けているスクアーロに付き合ってやっている。
しかしロマーリオは、ディーノの右腕だ。
時にはボスの意思に背いても、言わなければならないことがあると考えていた。
睨まれたスクアーロもまた、瞳の中に仄暗い色を宿して彼を睨んでいた。
車内に、険悪な雰囲気が漂い始める。
ロマーリオを宥めようとして口を開いたディーノの言葉を押し退けて、スクアーロはドスの利いた低い声で反応する。

「オレが、甘えてるだと?」
「違うのか?ボスがテメーに甘い顔してるからって、何しても良いって思ってんだろう」
「オレは自分の意見を言っているだけだぁ。テメーに、甘えてるだ何だと言われる筋合いはねぇだろうがぁ」
「テメーの意見を言うにも、まず言い方ってもんがあるだろうって言ってんだよ」
「そんなものはオレの勝手だろうがぁ!」
「そういうことを言ってるのが、ガキだ甘えだっつってんだ」
「てめ、ぇ……!」

頭に血が上ったのだろう、ムキになって運転席の背凭れを掴もうと手を伸ばした。
その瞬間、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。
信号はいつの間にか青になっている。
無言で車を発車させたロマーリオ。
そして、脱力したように座席にもたれ掛かったスクアーロ。

「……わりぃ」

ポツリと、消え入りそうな小さな声が、ディーノとロマーリオに掛けられた。
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