if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「うん……ん?」
「起きたかぁ、回路木雪」
「こ、こは……。あなたは……!」

とあるアパートの一室。
布団の上で目を覚ました回路木雪は、横から聞こえてきた声にハッとする。
この声は、自分が命を狙っていた相手のものだったはず。
どうしてそれが隣にいるのか。
慌てて起き上がろうとする回路木の視界は、ぐらぐらと揺れて安定しない。
薬を、盛られたのか。
覚えのある感覚に、回路木の眉間には深い皺が刻まれる。

「チッ……お゙ら、水飲んで少し落ち着け。まだ睡眠薬の効果が残ってんだろぉ」
「くっ……!誰が敵の施しなんて……!」
「じゃあ私の施しなら、受けてくれるかな?雪ちゃん」
「え……?」

背中を支えられて、抵抗しようとするが、大した効果はなく。
肩をがっしりと掴まれて、水の入ったコップを差し出される。
回路木は拒絶するように目を閉じて顔を背けていたが、直後聞こえた声に、思わず目を見開いて声の主を見る。
回路木の視線の先には、顔を並べている敵と味方の姿があった。

「あ、あなたっ!何やってるんですか御霊ちゃん!」
「何って……、あなたの看病をしてあげているんだから、そんなに声を荒げないでほしいかな」
「だから!なんであなたが、敵の見ている前で、私の看病なんかしてるのかって聞いてるんです!」
「……それは」
「僕達、争う必要なくなっちゃったんですよぅ、回路木先輩」
「……まあ、そういうことだから」
「はあ?」

回路木が首を傾げるのも当たり前だった。
彼女が眠っている間、事態は大きく動いていたのだ。


 * * *


「……どうしようか、この子……」
「どうするもこうするも、まずは縛って動けなくするぞぉ」

回路木がアパートで目を覚ます数時間前、並盛中学の屋上では、すっかり眠り込んでいる彼女を縛るスクアーロの姿があった。
念の入ったことに、彼女が起きないように注射器で薬を注入して、その上で体の自由を封じている。

「あれ、スクアーロ、これって何かな?」
「あ゙あ?それは……」

綱吉が差し出したものを見た瞬間、スクアーロは顔を輝かせる。

「ゔぉい、でかしたな沢田ぁ!」
「え!なに!?なんで?」
「これ……もしかして電波妨害用の機械じゃねーのか?」
「あ゙あ、これでようやく、仲間と連絡が取れる」

綱吉から機械を受け取り、スクアーロが少し弄ると、微かに聞こえていた機械の駆動音が消える。
続けて、彼女がポケットから取り出したのは、先程errorと表示されていた通信機器で、今はエラー表示もなくなり、仲間との通信も出来るようになっていた。

「お゙い、聞こえるかぁ!?」
『スクアーロ様!良かった……やっと通じましたか……!』
「お゙う、心配かけたなぁ。……で、そっちはどうなったぁ?」
『もちろん、完璧に任務はこなしましたよ。奴らは我々が始末しました』
「よくやったぁ」

部下と会話をするスクアーロの言葉に、綱吉と獄寺は首を傾げる。
二人の様子に気付いたスクアーロは、事情を説明したのだった。

「澄百合にお前の暗殺を依頼した男を、ヴァリアーで始末したぁ。もう、澄百合がオレ達に攻撃してくることもねぇだろう」
「ほ、本当!?」
「そうか……それで時間を稼ごうとしてたんだな」
「お゙う、本当はすぐにでも連絡が入るはずだったんだが、妨害されてたから結局、こんなに遅くなっちまったがなぁ」
「で、でも……良かった!これでオレ、少しは安心して……」
「まだまだ安心は出来ないぞ!」
「ぶえっ!?リボーン!」
「今、了平が学校中の人間を起こして回ってるぞ。お前らもさっさと戻れ」

ヴァリアーとの連絡が取れたことにより、事態はサクサクと進んでいく。
そして突然現れたリボーンにより、綱吉と獄寺は教室へと戻ることになった。

「お疲れさまだぞ、スクアーロ」
「あ゙あ」
「後始末も任せたからな」
「チッ、わかってる」

現れるのも突然なら、去っていくのも突然だった。
リボーンがすぐに立ち去り、残されたスクアーロは、無言で少女を抱き上げる。
彼女の口からは大きなため息。
酷く疲れた様子で回路木を運び、校門を出て御霊も回収したところで、彼女を呼び止める者がいた。

「ス!ク!アー!ロー!!」
「……あ゙」

駆け寄ってきたのは、跳ね馬のディーノ。
スクアーロは明らかにまずい、という顔色になっている。
どうやらディーノがワイヤー遣いと戦っていたことを、忘れていたらしい。
そして彼女は、ディーノが腕に抱えるものを見て、さらに複雑な顔色になる。

「スクアーロ!倒したぞ!ワイヤー遣い!」
「は、離してくださいですよぅ!姫ちゃんは通り抜け様の何の罪もない高校生なんですから!!」
「『通りすがり』な!」
「誘拐……」
「ちげぇぞ!?」
「さすがのボスでも、そんなことはしねぇよ」
「ロマーリオそれどういう意味だよ!?」

彼が腕に抱えて連れてきたのは、まだ小学生くらいの見た目の少女で、スクアーロはかなり引いた目でディーノを見ている。

「そ、それよりツナ達は……!」
「アイツらは無事だぁ。それより、コイツらどこか目立たねぇ場所に連れていくぞぉ」
「あ、おう」

ロマーリオも手伝って、3人の少女達を、冒頭のアパートまで連れてきた、という次第である。
ちなみに木端丸美は、気絶した状態でヒバリによって届けられた。

「……そ、そんな……事が……」

例のアパートで、布団の上に座り詳しい話を聞かされた回路木は、愕然としていた。
まさか、自分達が相手を潰すより先に、こちら側の依頼人が潰されるだなんて。
しかし彼女が愕然としている、もっとも大きな理由はそこではない。
百歩……いや、一万歩譲って、依頼人が潰されたことは良しとしよう。
しかし、これは一体、どういう状況なのか……。

「いーですか?ワイヤーはここをこうするとビーンってなってキュイイーンって!」
「つまりこうかぁ?」
「違うですよ!お兄さん、姫ちゃんの手元、ちゃんと見ててくださいね!!」
「お゙う」
「丸美ちゃん、傷はどうですか?」
「丸美ちゃんぼこぼこでもう立ち上がれません」
「恭弥のやつ、容赦ねぇからなー」
「おう、お前ら飲み物はコーヒーで良いか?まあここ、コーヒーしかねーけどな」

今まで敵だった者同士が、わいわいガヤガヤと打ち解けあっている。
彼女が寝ている間、一体何があったのか。
それはわからないが、……わかりたくもないが、とにかくどうしようもなくて、回路木雪は叫んだのだった。

「もう!訳がわからないわ!」

全くもって、彼女の言う通りであった。
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