if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「不可解です」
憮然とした顔で、御霊はそう呟いた。
綱吉はよくわからずに首をかしげた。
「えっと……何が?」
「あなたに聞いてないですから。そこの銀髪、じゃなくて、スペルビ・スクアーロ、でしたか。さっきの炎があるなら、ワイヤー使いなんて簡単に突破出来たんじゃないですか?」
「ひ、酷い……」
落ち込む綱吉。
代わりに御霊に向かって怒鳴ろうとした獄寺の顔の前に手を翳して、スクアーロは彼より先に話し出した。
「お前らが死ぬ気の炎に対して、どれだけの知識と対抗策を持っているのかがわからない以上、下手に攻撃することはしたくなかったぁ。自らの攻撃が、自らの隙を生むことになるかもしれねぇからなぁ」
「それは、そうかもしれませんね。でも、あの場に残った彼らに、勝機があるとも思えませんけど」
「勝たなくても、足止めするだけで良い」
「……ふーん」
まあ、なんとも意味ありげな相槌に、スクアーロは眉をひそめる。
御霊は、ぼそりと言葉を落とした。
「彼女の本懐は、ワイヤーではなく、その中身……、彼らじゃ、敵いませんから」
「……なんだと?」
「私達は澄百合でも二軍ですけど、彼女は一軍に相当する力を持っていますから」
その言葉に、得意気な顔をした御霊以外の、全員が目を見開く。
全員の脚が止まり掛ける。
しかし不安を振り切り、始めに脚を先に進めたのは、意外にも綱吉だった。
「ディーノさんなら、大丈夫、だから」
「は?」
理由もなく、そう言った綱吉に、御霊が向ける視線は冷たい。
それでも綱吉は怯むことなく言った。
「ディーノさん達を、信じよう」
綱吉の言葉に、獄寺とスクアーロは、ただ無言で頷いて、再び走り始めたのであった。
* * *
「さーて、どうすっかな……」
その頃、自分が相対する敵が、澄百合でも相当の実力者であることを知らないディーノは、どうやって敵と戦おうかと、頭の中で策を巡らせていた。
敵はワイヤーを張り巡らせるだけで、未だ姿を現さない。
いったいどんな奴なのか、予想もつかないが、姿を見ないことには倒すことも出来ない。
というか、まさかだが、自分達をここに閉じ込めてスクアーロ達の後を追ってたりとかないよな?なんて事を考えて、ディーノは少し顔を険しくする。
とにかく、周りのワイヤーを取り払おう。
跳ね馬のムチならば、切られることなく攻撃できる。
懐から取り出したムチを持ち、勢いよく振るうと、端からブツブツと音を立ててワイヤーが切れていく。
直後、感じた殺気にディーノは慌てて後ろに跳んだ。
ひうんひうんひうんひうん、子供の泣くような、空気が真空に裂けていく音。
ピシリと振るったムチが、飛んできた糸を叩き落として事なきを得た。
ワイヤー遣いはすぐ側にいる。
その点においては、少し安心して、ディーノはワイヤー遣いを探して走り出す。
『彼女』が、その様子に困った顔をしているということも知らずに。
* * *
「むぅ、どうしましょう……。捕まえるのは難しそうですですし、かといって殺す気は……んー」
小柄な少女が、道の曲がり角で頭を抱えて悩ましげに呟いていた。
御霊とは違う制服を着ている彼女は、小柄で可愛らしい外見には似合わない黒い皮手袋を嵌めて、その指を小刻みに動かしている。
「乗り物じゃないですけど、澄百合学園除籍、骨董アパート所属、紫木一姫!師匠の請負人業の現行ですよ!あの人を足止めして見せます!」
ここに『乗り物じゃなくて乗り気だし、アパートに『所属』はおかしいよ。あと現行じゃなくて代行ね』というツッコミを入れてくれる師匠はおらず、さらに言えば一姫はその師匠に、今回その仕事を請け負ったことを報告し損ねていたりもするわけだが、彼女なりに気合いを入れた言葉と共に、ディーノを足止めするために動き出したのであった。
「……それに、除籍になったとはいえ、一応後輩の為、ですしね」
スクアーロが、もう少し御霊の話を注意深く聞いていたら、気付いていたのかもしれない。
『彼女は一軍に相当する力を持っていますから』という御霊の言葉。
相当する、ということは、一軍ではない、ということ。
一姫は正確には、澄百合学園の生徒ではなかった。
もしも、未来の記憶を知る前の出来事だったら、もしも山本の零崎化が起こる前だったら、スクアーロは気付いていたかもしれない。
気付かなかったのは、精神を消耗していたからか、それとも、『他のこと』に気を取られたからか、はたまた、ただの偶然か。
答えは、彼女自身ですら知らない。
憮然とした顔で、御霊はそう呟いた。
綱吉はよくわからずに首をかしげた。
「えっと……何が?」
「あなたに聞いてないですから。そこの銀髪、じゃなくて、スペルビ・スクアーロ、でしたか。さっきの炎があるなら、ワイヤー使いなんて簡単に突破出来たんじゃないですか?」
「ひ、酷い……」
落ち込む綱吉。
代わりに御霊に向かって怒鳴ろうとした獄寺の顔の前に手を翳して、スクアーロは彼より先に話し出した。
「お前らが死ぬ気の炎に対して、どれだけの知識と対抗策を持っているのかがわからない以上、下手に攻撃することはしたくなかったぁ。自らの攻撃が、自らの隙を生むことになるかもしれねぇからなぁ」
「それは、そうかもしれませんね。でも、あの場に残った彼らに、勝機があるとも思えませんけど」
「勝たなくても、足止めするだけで良い」
「……ふーん」
まあ、なんとも意味ありげな相槌に、スクアーロは眉をひそめる。
御霊は、ぼそりと言葉を落とした。
「彼女の本懐は、ワイヤーではなく、その中身……、彼らじゃ、敵いませんから」
「……なんだと?」
「私達は澄百合でも二軍ですけど、彼女は一軍に相当する力を持っていますから」
その言葉に、得意気な顔をした御霊以外の、全員が目を見開く。
全員の脚が止まり掛ける。
しかし不安を振り切り、始めに脚を先に進めたのは、意外にも綱吉だった。
「ディーノさんなら、大丈夫、だから」
「は?」
理由もなく、そう言った綱吉に、御霊が向ける視線は冷たい。
それでも綱吉は怯むことなく言った。
「ディーノさん達を、信じよう」
綱吉の言葉に、獄寺とスクアーロは、ただ無言で頷いて、再び走り始めたのであった。
* * *
「さーて、どうすっかな……」
その頃、自分が相対する敵が、澄百合でも相当の実力者であることを知らないディーノは、どうやって敵と戦おうかと、頭の中で策を巡らせていた。
敵はワイヤーを張り巡らせるだけで、未だ姿を現さない。
いったいどんな奴なのか、予想もつかないが、姿を見ないことには倒すことも出来ない。
というか、まさかだが、自分達をここに閉じ込めてスクアーロ達の後を追ってたりとかないよな?なんて事を考えて、ディーノは少し顔を険しくする。
とにかく、周りのワイヤーを取り払おう。
跳ね馬のムチならば、切られることなく攻撃できる。
懐から取り出したムチを持ち、勢いよく振るうと、端からブツブツと音を立ててワイヤーが切れていく。
直後、感じた殺気にディーノは慌てて後ろに跳んだ。
ひうんひうんひうんひうん、子供の泣くような、空気が真空に裂けていく音。
ピシリと振るったムチが、飛んできた糸を叩き落として事なきを得た。
ワイヤー遣いはすぐ側にいる。
その点においては、少し安心して、ディーノはワイヤー遣いを探して走り出す。
『彼女』が、その様子に困った顔をしているということも知らずに。
* * *
「むぅ、どうしましょう……。捕まえるのは難しそうですですし、かといって殺す気は……んー」
小柄な少女が、道の曲がり角で頭を抱えて悩ましげに呟いていた。
御霊とは違う制服を着ている彼女は、小柄で可愛らしい外見には似合わない黒い皮手袋を嵌めて、その指を小刻みに動かしている。
「乗り物じゃないですけど、澄百合学園除籍、骨董アパート所属、紫木一姫!師匠の請負人業の現行ですよ!あの人を足止めして見せます!」
ここに『乗り物じゃなくて乗り気だし、アパートに『所属』はおかしいよ。あと現行じゃなくて代行ね』というツッコミを入れてくれる師匠はおらず、さらに言えば一姫はその師匠に、今回その仕事を請け負ったことを報告し損ねていたりもするわけだが、彼女なりに気合いを入れた言葉と共に、ディーノを足止めするために動き出したのであった。
「……それに、除籍になったとはいえ、一応後輩の為、ですしね」
スクアーロが、もう少し御霊の話を注意深く聞いていたら、気付いていたのかもしれない。
『彼女は一軍に相当する力を持っていますから』という御霊の言葉。
相当する、ということは、一軍ではない、ということ。
一姫は正確には、澄百合学園の生徒ではなかった。
もしも、未来の記憶を知る前の出来事だったら、もしも山本の零崎化が起こる前だったら、スクアーロは気付いていたかもしれない。
気付かなかったのは、精神を消耗していたからか、それとも、『他のこと』に気を取られたからか、はたまた、ただの偶然か。
答えは、彼女自身ですら知らない。