if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「まさか……、御霊ちゃんが破られるなんて……いいえ、それよりも……あの罠を簡単に防御されるなんて……」

回路木雪、彼女の頬を一筋の汗が伝う。
予想以上に、スペルビ・スクアーロという男は強敵らしかった。
まさかあの作戦が破られるなんて。
予想外だ、だが、作戦はまだある。
手元の無線機で、待機している丸美へと指示を出す。

「作戦をCに変更します」



 * * *



ピリピリとした殺気の走る空間に、東大島御霊はため息を吐いた。
作戦にしくじって、捕虜となっているだけでも泣けてくるというのに、その上こんな険悪なムードの中に放り込まれては、自然とため息だって出てきてしまうだろう。
淡々と、そして驚く程のスピードで、トラップを解除して進んでいく銀髪の男を見て、御霊はさらにため息を吐きたくなる。
自分達が苦労して仕掛けた罠を、こんなにあっさり解除されるとは、予想外だった。
武器も無線機も取り上げられて、御霊は彼らに攻撃することも、仲間に連絡を取ることも出来ないまま。
にっちもさっちも行かない状況、そして息の詰まる空気。

「はあ……」

もう一度ため息を吐いた御霊に、スクアーロが一瞬目を向ける。
色素の薄い瞳に見詰められ、より強く息苦しさを感じて、思わず視線を逸らした。

「……東大島御霊と言ったなぁ」
「……」

名前まで割れていたのか。
顔をしかめて、無言のまま顔を背ける。

「この先にどんな罠が仕掛けてあるのか知らねぇが、そう簡単に、オレ達を潰せるなんて思うなよ」
「っ……」

確かに、そう簡単に殺せる相手ではない。
澄百合の生徒と言えども、自分達はあくまで二軍。
彼らは、自分達の手には余る相手だ。
何より怖いのは、回路木雪がそう思っていない事だろう。
彼女は倒す気でいる。
諦めたりはしないだろう。
プライドの高い女なのだ。
この程度の仕事をしくじるなど、彼女のプライドが許さない。
やってられない、と思いながらも、御霊は強がって言い放った。

「精々、吠えていることです。私達だって、ただで転ぶような柔い教育を受けてはいませんから」
「……はん」

殺気にまみれた会話を交わす彼ら。
その中心に、見覚えのある丸いボールが投げ込まれたのは、スクアーロが御霊の言葉を鼻で笑って受け流した、その直後の事だった。

「な……っ!?」

真っ先にそれを視界に入れたスクアーロが動く。
辺りを、爆音と炎が包んだ。



 * * *



「あやー、タマちゃん先輩捕まっちゃってるじゃないですか」

望遠鏡で敵を見ながら、木端丸美はやれやれという様子で肩をすくめた。
その仕草が、矢鱈と様になっているのがまた苛立たしい。

「まったく、負けて自分まで始末される対象になっちゃうなんて、馬鹿ですねぇ」

敵の位置を確認した丸美は、手元の手榴弾をあるものにセットした。
手で持つ部分より上が二股に分かれており、その間に丈夫なゴム紐が張られている。
いわゆるパチンコだった。

「ふふん!火薬星!なーんちゃって☆木端丸美ちゃん、爆弾の為なら、パチンコのコントロールを身に付けるくらい、朝飯前なんですよぅ」

丸美の放った手榴弾は、パチンコから放れると共にピンが抜け、そして美しい放物線を描いて彼らの中心に落ちると、彼女の目論見通りに爆発したのであった。
46/90ページ
スキ