if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

回路木雪、彼女の作戦は単純だった。
相手は学校やら何やらがあるため、そう簡単に、遠くには逃げられない。
ならばまずは逃げ場を狭めよう。
相手は一般人を巻き込みたがらない。
ならば必ず、人気のない場所へと行く。
そこで相手が、自分達が予め仕掛けておいた罠に掛かろうが、うまく避けて袋の鼠に追い込まれようが、どちらでも構わない。
だが相手は実力のある人間だ。
ならば罠を突破され、思いもよらぬ方向へと逃げられる可能性もある。
しかしそれも、回路木雪の想定内である。
その場合は、東大島御霊を使う。
彼らが罠を突破しようとした時に、彼女が現れて後ろの道を塞ぐ。
そして遠隔操作で、彼らが突破しようとしている罠……爆弾を起動する。
前門の爆弾、後門の刃物使い。
普通は立て続けに起こる事態に、対応する間もなく爆弾に巻き込まれて死ぬ。
しかし回路木雪の計算には、1つ大きな問題があった。
計算外のことがあったのだ。
彼らの中には、普通ではない事態に慣れている者が一人いた。
爆弾が起動する僅かに前。
敵の意図を察したスクアーロは、獄寺にあることを命令していた。

「オレは爆発する直前に、獄寺にシールドを張るように言っていたぁ。わからねぇだろうなぁ。SISTEMA C.A.I.は、こいつが未来で開発した技だぁ。お前らが知らなくても、何らおかしくねぇ。残念だったなぁ、東大島御霊ぁ。テメーはここで終わりだぁ」
「な……っ!!」

爆発の煙が晴れたその時、スクアーロは既に東大島御霊を地面に磔にして、その上で彼女の喉元に剣の切っ先を突き付けていた。
爆発の起こった方では、抑えきれなかった爆風で、綱吉と獄寺が尻餅をついている。
自分の隣で、ロマーリオが無事でいるのを確認した後、ディーノは慌ててスクアーロの腕を掴んだ。

「スクアーロ!その子のこと、どうする気なんだ?」
「どうって……、始末するより他、ないだろぉ」
「ひっ……!」

小さな悲鳴を上げたのは、切っ先を向けられている御霊ではなく、その様子を見ていた綱吉で、獄寺も血の気の引いた顔で見守っている。
今までいくらマフィアと関わってきたとはいえ、こんなにも生々しく、命の駆け引きを行う現場に出くわした事はない。

「殺すこと、ないだろ。ソイツから色々聞き出せるハズだ」
「……逃げられたらどうする」
「それは……勿論危険はあるけど、何もここで、ツナ達の目の前で殺すことは……!」
「……」

しばらくの間、睨み合っていた二人だったが、スクアーロがため息をついた後に大人しく剣を収める。
お面の下で少女が驚きを表していることを感じながらも、手早くかつ頑丈に拘束し、スクアーロは少女を立たせた。

「スク……、っ!」
「情けねぇ顔してんじゃねえぞ、カス」

ディーノが手伝おうと伸ばした手は、スクアーロに勢いよく振り払われる。
息を飲んだ彼をきつく睨みながら、スクアーロは冷たく言い放った。

「これで沢田に何かあったら、お前のせいだと思え」
「……わ、かってる」

敵は殺す。
その、スクアーロの判断は間違っていないと、ディーノも思う。
それでも彼には、綱吉達にその光景を見せることが出来なかった。
いずれは目にすることになるかもしれない、それ。
だが自分が側にいる間くらいは、彼らを遠ざけていてやりたかった。

「……なんか、いつも以上にピリピリしてますね」
「いや、まあ……色々あったからね」

ピリピリムードのスクアーロを見ながら、綱吉と獄寺は声を潜めて会話を交わす。
彼女が少女を殺そうとしたときは驚いていたが、ようやく落ち着いてきたらしい。
スクアーロの背を見ながら、綱吉は不安げに呟いた。

「スクアーロ、大丈夫かな……」

普段でも、少女を殺そうとはしたかもしれない。
でも、普段の彼女なら、ディーノに対して『お前のせいだ』なんて言わないだろう。
リングを競って戦って、未来で鍛えてもらって、たったそれだけの、決して深いとは言えない関係だが、彼女がそう言う人ではないと言うことだけは、直感的に感じていた。

「だいじょーぶっすよ!10代目!!何かあったらオレが何とかするんで!」
「獄寺君……うん、ありがとう!!オレも何とかなるように頑張るよ!」

そして、一部が纏まり、一部に不穏な影が射しながらも、彼らは再び進み出した。
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