if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

「ふぇっくしっ!」
「なんだぁ?風邪かボス?」
「誰かが噂してんだろ……」
「いや、単純に寒かっただけじゃないのか?今日は北風が強いからなぁ」

並盛中近くのビルの上、くしゃみをして体を丸めるのは、跳ね馬ディーノだった。
双眼鏡を覗けば、校門をくぐる綱吉の姿が見える。
数日前、綱吉がかなり危険な組織に狙われていることを知ったディーノは、自分も彼を守りたいと言い出した。
スクアーロは渋っていたが、9代目の許可が降りてしまった以上、邪険にすることも出来ず、こうして遠くからの警護を任されたのである。

「何て言うか、もしかしてオレって嫌われてる?」
「いや……、もしかして、じゃなくて間違いなく、だな」
「あはははは……」

鼻を啜りながら乾いた笑い声を溢すディーノに、ロマーリオは生暖かい視線を向ける。

「寒い……寒すぎる……、この場所も今のオレも……」
「ボス……きっといつか解決するさ……いつか……」
「いつかっていつだよ……」

ディーノはだいぶ反省しているようである。
教室の窓越しに綱吉の様子を伺いながら、ロマーリオは学校の壁に寄り掛かっているスクアーロを見下ろす。
時おり電子機器を操作しながら、絶えず周囲を警戒し続けているようだ。
完璧に仕事モード。
立ち入る隙もないと言った雰囲気の彼女に、同じく様子を伺っていたらしいディーノが重いため息を吐く。

「オレ謝ったんだけどなー……」
「地雷踏んだんだから仕方ねーだろ?」
「でも本当だし」
「まあアレさ、咲かずに散る恋もあるってぇことさ」
「ロマーリオ……大人だな……」
「オレぁただ、年食ってるだけさ」

ハードボイルドな右腕に、ディーノは堪らずため息を吐く。
自分がこんなにも情けない奴だとは思わなかった。
一人の女性を、ただ笑わせてやることも出来ないとは。

「もう暫く粘ってみろよ、ボス。まだ大して話した時間は長くねぇんだろ?」
「……おー、継承式のゴタゴタが終わったら、また話しにいく」
「でしたらそのゴタゴタが終わった後、すぐさま彼女の元へ行くことをオススメしますわ。彼女、それでなくとも多忙ですのに、今回の事で更に仕事が溜まってしまったそうですしね」
「あー、そうだな、そうす……は!?」
「誰だてめぇ!!」

突然二人の背後から届いた声は、唄うように涼やかな女の声で、慌てて振り向いた二人に、女は呆れ果てたと言うように大きく息を吐き、覚めた目を向けた。

「全く、十全ではありませんわ。彼女が何やら気にしているから見に来てみれば……全くもって、十全ではありませんわ。幻滅した、と言えば良いのでしょうか」
「な……何言ってんだ!?あんた……まさか、裏世界の……!」
「その予想は強ち間違いでもないのでしょうが……残念ながらわたくしは分類上は一般人ですわ、跳ね馬ディーノさん?」

独特な口調、全身を包むデニムの衣装、石丸小唄は、目の前の男の事が気に入らないのか、半眼になって二人を見下ろす。
その冷めた目に気圧されたのか、言葉に詰まる二人と小唄の間に下りた沈黙を掻き消したのは、携帯の着信音だった。
小唄が懐から携帯を取り出して、耳に当てる。

「……あら、どうかしたのですかお友達(ディアフレンド)?……ええ、直ぐ側まで来ていますわ。何でって……少し冷やかしに来ただけと言いますか……、そんなに怒らないでくださいなお友達、怒ると寿命が縮みますわよ?」

そのままディーノ達を無視して、二言三言会話を交わした後、携帯をしまい、小唄はディーノ達に視線を戻した。

「さっきまでの会話、どうやら聞かれていたようですわよ?」
「……へ?」
「まったく、彼女もハッキリしない人ですわ……いつからそんな人になったのでしょう」
「どういう……」
「1つ助言を差し上げるなら、彼女は決して、嫌いで貴方達を寒いビルの上に配置したわけではないという事ですわ」
「あんた人の話聞かないな!?」

言いたいことだけ言って、悠々と去っていった小唄に呆然とするディーノに、ロマーリオは微かに震える声で言った……。

「なあ……ボス、これって……」

彼が持ち上げたのは、小さな黒い機械で、それを見たディーノの表情がカチンと固まる。

「と、盗聴器……」

自分達がここで見張りをしていることを知っている人物など、一人しか思い浮かばない。
絶句した二人に、秋の冷たい風が吹き付けていた。
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