if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

いら、いら、いら。
……バキ。

「……また壊れやがった」
「スクアーロ……、それで何個目?」
「5個目」

ポケットに壊れた携帯をツッコんで、代わりにまた別の携帯を取り出す。
今日、ボンゴレによって世界中のマフィアに、継承式への招待状が送られた。
綱吉は未だに、ボスを継ぐことを嫌がっているようだが、彼の意思とは関係なく世界は動く。
既に幾つかのマフィアが動き出したと言う話を聞いて、スクアーロは朝から綱吉の側に張り付いていた。

「別にオレ、一人でも大丈夫だと思うけど……」
「下剤盛られて、昨日1日中ダウンしてた奴が何言ってやがる」
「うぐ……!それはそーだけど……」

リボーンいわく、教育、と言う名のえげつない行為により、綱吉は昨日一日中、トイレにこもっていたのである。
当のリボーンは素知らぬ顔をして、塀の上をとことこと歩いているが。

「で、でも敵は爆弾魔と刃物使い……それに策士って奴なんでしょ!?毒は気にしなくても……」
「お前を狙ってる奴は澄百合の連中だけじゃねぇと、オレは言わなかったかぁ?」
「ごめんなさいそうでした!」

スクアーロの米神に、血管がうすく浮かんだのを見て、綱吉は即座に頭を下げる。
綱吉が下剤を盛られていた昨日、スクアーロの元へ、稀代の大泥棒・石丸小唄が訪れてきた。
もちろん、依頼されて調べていた、澄百合側の戦力を報告するためである。
小唄の言うことには、澄百合も本気でボンゴレを相手にする気はないらしい。

「貴女の推測通り、ボンゴレを狙うマフィアの中の一人に、神理楽の関係者……と言いますか、檻神家の傍系に当たる者がおりましたわ」

いつも通り、優雅に椅子に腰掛けて紅茶を飲みながら、小唄は滔々と話続ける。

「やはり、と言いますか何と言いますか、四神一鏡の縁者に当たる者の依頼は、神理楽も無視できなかったのでしょうね。澄百合を束ねている檻神ノアは、だいぶ乗り気ではないようなのですが、それでも兵隊は派遣されました」
「それがこの間の、ひょっとこの仮面の女かぁ」
「その通りですわ、お友達(ディアフレンド)。澄百合が派遣したのは3人の少女です。策士、回路木雪。爆弾魔、木端丸美。刃物使い、東大島御霊。貴女の元へ現れたのは、東大島御霊でしょうね。そして爆弾の攻撃と、あの病院の崩壊は木端丸美の仕業でしょう。全員、澄百合学園中等部の生徒達ですわ」
「なるほど、高等部の猛者けしかけて来ないくらいには、乗り気じゃねぇってことかぁ。そういやぁ、……もしかしてだが、お前病院が壊される前に何かしたかぁ?」
「大したことはしていませんわ、お友達(ディアフレンド)。ただあの病院に、爆弾を仕掛けたと電話をしただけで」

どうやら、あの病院にいたキャバッローネの人間達が助かったのは、石丸小唄のお陰だったらしい。
頭を下げたスクアーロを、小唄は軽く諌めて言葉を続ける。

「まあ、哀川潤が訪れた事が運の尽きでしたわね」
「……そうだなぁ」

『哀川潤の踏み込んだ建物は例外なく崩壊する』
そんな伝説の通りに、時間差を付けて崩壊した病院に向けて、二人は心の中で静かに合掌したのであった。

「奴らは継承式の招待状が届くより前に、一番邪魔な護衛のオレを倒そうとしたようだが、それに失敗した」
「ボンゴレを落とすためなら、何がなんでも継承式の準備期間中を狙ってくるだろうな。式の直前にツナが消されたとなったら、ボンゴレにとってはこの上ないスキャンダルになるからな。邪魔者を消せず、予定通りに動けなくなった敵が何をしてくるか、ワクワクだなツナ」
「ワクワクしないよ!むしろビクビクだよ!!」

騒がしく叫ぶ綱吉に、スクアーロはため息を吐く。
こんな調子で、継承式まで乗り切れるのだろうか……。
いつも以上に疲れた表情のスクアーロだったが、仕事は仕事。
きちんとこなさなければならない。

「沢田ぁ、テメーが授業受けてる間は学校の近く見回っててやる。何かあったらすぐに連絡しろぉ」
「わかった……けど、スクアーロ一人でやるの?」
「……一人じゃねぇ」

スクアーロの顔が、明らさまに険しくなる。
しかし綱吉はそれには気付かなかったらしく、思い当たった人物の名前を上げた。

「あ、もしかしてディーノさんも?」
「……そいつの名前を出すな」
「え?」
「そいつの名前出すな。気分が悪くなる」

ぽかんとする綱吉を無視して、スクアーロは先に歩いていってしまった。
そっと声を潜めて、隣にいたリボーンに話し掛ける。

「ディーノさん、凄く嫌われてない?」
「今にも人を殺しそうな顔するくらいには、嫌われてるみたいだな」
「スクアーロの前では絶対に、ディーノさんの名前出さないようにしよ……!」

拳を握り、そう決心した綱吉のすぐ近くを、一人の生徒が通り過ぎる。
違う学校の制服……だが、その生徒は並盛中へ向かっていく。

「そう言えば、今日から集団転校生が来るんだったっけ……」
「至門中学だぞ」
「何か、オレ達が帰ってきたときに起きた地震のせいだって思うと申し訳ないよね……」
「命狙われてる奴がそんなこと心配してる暇ねーだろ、バカツナめ」
「そうだった……!」

しょんぼりと項垂れて校門を潜る綱吉を、転校生の一人がじっと見詰めていた。
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