if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

部屋には5人の人間がいた。
一人はこの部屋の主であるスクアーロ。
そして彼女の見詰める先には、二人の少女、匂宮出夢と理澄が、二人揃ってガツガツと飯を、文字通り食い散らかしていた。
そして彼女達を驚いたように見詰めているのは、ディーノとロマーリオの二人である。
今の出夢は腕が自由なので、胡座をかき、手を使って食べていたが、理澄は腕が拘束衣によって縛られているため、犬のように顔を更に近付けて食べている。
5人は町中で合流した後、スクアーロが仮住まいとしている部屋に腰を落ち着けていた。
スクアーロがおもむろに話を切り出す。

「取り合えず、お前らは何であそこにいたんだぁ」
「んぐっ……そりゃモチロン、あんたから報酬を受け取りに来たんだよ。手料理と寿司だっけ?まあ時間ねーから、今日は手料理だけで良いぜ、ぎゃはは」
「久々のご飯おいしーっ!スクアーロちゃん大好きっ!」
「……本気で料理奢るだけで良いのかぁ?」

二人の説明に、スクアーロは戸惑ったように腕を組んで顔をしかめる。
さっさと食べ終わった出夢は、米粒1つ付いていない器をシンク台に置く。
細かいところで礼儀正しい。
彼はニタニタと笑いながらスクアーロの言葉に頷いた。

「まあねん。情報のほとんどは人識から手に入れたし、手間も金もほとんど掛かってねーから」
「……人識って、あの?でもお前ら殺し名同士はほとんどつるまないはずじゃあ……」
「ぎゃは、人識はちょいと特殊だからな」

スクアーロが不思議そうに出夢を見ても、彼はそれ以上を話す気はなかったらしく、そのままスクアーロの隣に座って腕を絡ませる。
それよりも出夢の言葉に、ディーノが慌てて反応した。
そう、『殺し名』という言葉が聞こえてきたからである。

「コイツらが殺し名って奴なのか!?」
「ぎゃは、ぎゃははははは!そうとも、この僕こそが殺し名序列一位、匂宮の出夢……で、お兄さんは確か跳ね馬だろ?キャバッローネのボスって言う」
「!……知ってる、のか?」
「そりゃまあ、裏社会と裏世界の境は薄い。僕達もそれなりにアンテナ張ってるって事だ」

にやにやと笑いながら、スクアーロの向こうからディーノに話し掛け、出夢は二人を見比べる。
二人の間には常に微妙な距離が空いていた。
二人とも……特にスクアーロは、相手と目を合わせようともしない。
嫌いな相手への反応ではない。
気になる相手への、反応だろうか。

「スクアーロは分かりやすすぎだな」
「あ゙あ?」
「ぎゃははは、なーんでもないっ!っと、理澄、報酬ももらったしさっさと帰ろーぜ!」
「んー!まだ食べ終わってないって!!スクアーロちゃーん!」
「あ゙ー……はいはい」

理澄に呼ばれ、スクアーロは彼女の口に食べ物を運んでやる。
嫌そうにしながらも、食べやすいように丁寧に差し出してやるところは、やはり彼女らしい。
その様子を遠目に見ながら、出夢はディーノに少し近寄る。

「よー、跳ね馬の兄ちゃん。あんたスクアーロに何したんだ?」
「え……別になにも……」
「ぎゃはは、嘘はいけねーな。僕はこう見えても、スクアーロとは付き合い長いんだぜ?あんたへの態度がおかしいことくらい、すぐにわかる」
「……」

理澄の口を拭ってやるスクアーロを、じっと見詰めるディーノが、何を考えているのかはわからない。
それでも出夢は話を続ける。

「あんなに無防備になってるアイツを見たのは、今日が初めてだ。あんたがアイツの何なのか、僕にはわかんねーけど、もしあんたがスクアーロの事を大切に思うなら……」
「……?」
「ちゃんとお互い、向き合わねーとな」
「え?」
「誰かにすがる気持ちは、誰かを好きな気持ちは、弱さかもしんねーけど、弱さがなくっちゃ強さも生まれねえ。……なんて、野暮なことかもしれねぇけどな、ぎゃははは」

そう言いながら出夢が見ていたのは、理澄……のようで、まるで何も見ていないような、ここではない、どこか遠くを思い返しているような目をしていた。

「誰かに助言することは、野暮なんかじゃねーよ」
「……ぎゃは。アイツは……スクアーロは、良い奴だぜ。でも時おり、酷く臆病だ。あんたなら、アイツを助けてやれる、かもな」
「え?」
「出夢兄貴ー、食べ終わったよっ!いこいこー!スクアーロちゃんまたねっ!」
「お゙う、またなぁ」

理澄が兄に抱き着き(というか突進し)、スクアーロは二人を見送るために玄関まで出る。
2人が出ていき、3人だけになった部屋……いや、直ぐにロマーリオもタバコを吸うと言って出ていき、部屋には2人だけになる。

「スク……」
「跳ね馬、ハッキリ言っておく。仕事に私的な話は持ち込むなぁ。……せめて、せめて、継承式が終わるまでは」
「あ、ああ……」
「……今日、ごめん。オレも、気を付けるから」

……こんな状態の奴と、どう向き合えと言うのだろうか。
出夢に切実に訴えたくなりながら、とにかく今回の出来事を整理するために、2人は話始めた。
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