if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯

キャバッローネの構成員達が、瓦礫の中に埋もれているかも知れない。
慌てて瓦礫の中を探そうとしたスクアーロ達だったが、その前に彼らの探していた者達が現れた。

「ボス!それにスクアーロと……誰だ?」
「ロマーリオ!!皆も!無事だったのか!?」
「ああ、オレ達は無傷だぜ」

ディーノが彼らに駆け寄ろうとする。
その背中を、スクアーロは力任せに蹴りつけた。
それはもう、つんのめって部下達の壁に突っ込むほど強く蹴ったのだった。

「うぉおっ!?」

情けないその悲鳴を追い掛けるように、その場に響き渡ったのは甲高い金属音。

「ぐっ!!何者だぁ!?」
「……」
「チッ!話す気はねぇかぁ……」

ディーノが振り返ったとき、スクアーロは片手で一人の少女の斬撃を防いでいた。
少女の手にあったのは、すらりとした日本刀で、直刃のそれがぎろりと光ってスクアーロの首を狙っていた。
少女の表情は窺い知れない。
顔を隠すためにだろうか、彼女は何故かひょっとこの面を着けていた。

「跳ね馬ぁ!!」
「なに……うわっと!?」

ディーノの元に、理澄が放り投げられる。
何とか受け止めたディーノに、スクアーロは顔も向けずに叫ぶ。

「理澄のこと頼んだぁ。……よぉ、これで心置き無く戦えるじゃねぇか、ひょっとこ少女」
「……その名前、不本意ですから」
「はっ!名前名乗らねぇテメーが悪いんだぁ!!」
「っ!!」

あまりにも雑すぎる名前に、流石の少女も口を開いて文句を述べる。
それに嬉しそうに笑ったスクアーロは、ニヤリと口を歪めると、理澄を投げたお陰で空いた腕を振り上げる。
その袖口から出たナイフが唸りをあげて振り下ろされた。
少女は2、3歩飛んで後退すると、再び日本刀を構え直して襲い掛かってきた。

「はあっ!」
「軽いぞぉ!!っお゙らぁ!!」
「ぐっ……!」

片腕のナイフで刀を受け止め、もう片方の手のナイフで反撃する。
少女はその刃を、腕を盾にして受け止めた。
固い金属の音が跳ねる。
服の中に防具を着けていたらしい。
切れた特徴的な紺色の制服の中に、鈍色が光って見える。

「次は、こちらから」
「っゔお……!?」

少女が離れ、そして日本刀を地面と平行に構える。
かちりと何かを押す音が聞こえた瞬間、日本刀の刀身だけが、スクアーロに向けて発射された。
体を捻ってそれを避けたスクアーロに、少女は袖口から出した鉄爪で襲い掛かった。

「せいっ!」
「チッ!!うろちょろとぉ……!」

攻撃しては下がり、下がっては攻撃し、その連続にスクアーロの苛立ちが募っていく。
そして巧みに体全体を使って少女の攻撃を受けていると言っても、スクアーロが敵の刃を受け止めるのに使っているナイフも、そろそろ限界が訪れそうだった。
刃がこぼれ、柄ががたつく。
ガキッ、ギギンッと嫌な音が数度した。
その後に繰り出した少女の攻撃が、遂にナイフをへし折った。

「もらったから!……っ!?」
「そう上手く……行くか、よお゙っ!!」

少女に向けて投げられた用済みのナイフも呆気なく避けられ、そして鉄爪がスクアーロの首を狙い近付いた。
だがその攻撃は届かずに終わる。
スクアーロのブーツに仕込まれていた暗器が、少女に向かって飛ばされた。

「い……つ……」

暗器は少女の肩を掠めるだけに終わったが、それでも彼女を遠ざけるのには十分だった。
スクアーロはその隙に、自分の最もよく使う得物……大剣を取り出して構える。

「……残念、かも」
「は……くたばれ、クソガキ!!」

スクアーロの剣が音速で迫る。
だが少女はそれより早く、懐から小さなボール状の何かを取り出し、地面に叩き付けた。
ぼふっと気の抜ける音を立てて、濃い煙が広がる。
慌ててその煙を避けて下がったスクアーロは、舌打ちをする。
煙幕、とは。
随分と古風な手口を使ってくる敵だ。
そして煙幕が晴れた後、その場には誰もいなかった。

「きゃー!スクアーロちゃんかっくいー!惚れちゃう!大好きっ!」
「あ……ロマーリオ!」
「ああ!おい、今の女の行方を全員で探せ!!十分注意して、一人で行動しないようにしろよ!」

ロマーリオの言葉に、今まで驚きと困惑から、二人の戦いを見ていることしか出来なかったキャバッローネの構成員達が動き出す。
直ぐに構成員達がいなくなり、ようやく静けさを取り戻したそこに、今度は違うトラブルが訪れる。
遠くになるサイレンの音……。
消防車が向かって来ているようだった。

「!……とにかくまずは、他の場所に移動するぞぉ」
「ああ」

残ったスクアーロとディーノ、ロマーリオ、理澄もその場を立ち去り、後には瓦礫の山だけが残ったのであった。
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